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憧れの元ヤンギャルママ(30)が可愛すぎる  作者: ナカジマ
第3章 家族という関係
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第75話 母親と母親

 アヤメの花が描かれた和服を着た女性が、東雲理沙(しののめりさ)の姿を見て驚いている。12年前に家を飛び出したまま、音信不通だった自分の娘が居たからだ。

 見つめ合う2人の顔は、細部は違えどよく似ている。理沙は現代のギャルメイクを施しているので、一見すると派手で目立つ。

 対して彼女の母親は、大和撫子を思わせる凛とした美しさがある。華美に着飾らず、さりとて地味ではない。絶妙なバランスを保っている。

 彼女の名前は東雲景子(しののめけいこ)、60歳を迎えても美しさを保っている女性である。元々地主の家庭に生まれた彼女は、幼い頃から厳しい教育を受けて来た。

 

 茶道に華道、お琴に日本舞踊。あらゆる習い事を学び、日本の女性として相応しくあるように教えられた。そうやって彼女は生きて来た。

 京都大学を出て役所のエリートとして就職した東雲宗司(しののめそうじ)とは、親の決めたお見合いで知り合い結婚した。そして娘と息子を1人ずつ産んだ。

 それが今から30年近く昔の話であり、今では子育てを終えた1人の女性として余生を楽しんでいる。そんな彼女にも、1つだけ後悔があった。

 古風な教育で育った為に、現代の価値観で生きる娘と上手く行かなかった。彼女の教育は、平成の時代にあまりそぐわなかったのだ。


「……理沙」


 時間の流れと共に、自身の価値観が現代とは違うと気付く事が出来た。様々な変化が訪れ、いつまでも自分の考え方が正しいとは思えなくなった。

 名家の生まれだった彼女にとって、結婚とはお見合いでするものだった。婚前交渉などもってのほかで、有り得ない行為だと思っていた。

 当時の基準で見ても、少々古い考え方だ。今現在の社会と比べれば、大きな乖離がある。今はもうお見合いなど、一部でしか行われない。

 恵まれた家庭に生まれたからこそ、発生してしまった時代の流れとの相違。娘が願う生き方と、自分の思う幸せが違っていた。


「……ただいま」


「ほら理沙、立ってんと座りぃや」


 父親の宗司が、理沙に座るように進める。景子と見つめ合っていた理沙は、促されるままに座布団へ座る。

 エアコンで温められた部屋は、十分な温かさを保っている。理沙は着ていたコートを脱いで、皺にならないよう畳んで床に置く。

 そうした動作の1つ1つが、理沙から下品さを感じさせない。彼女はギャルであっても、育ちの悪さを一輝(かずき)の前で見せた事はない。

 むしろ妙に和食を作るのが上手いなど、育ちの良さ見せていた。魚を西京焼きにするなどは、この母親あっての行動だ。


「……アンタ、どうしてたんや?」


 景子が躊躇いがちに理沙へと尋ねる。今日までどうしていたのか、景子達に知る手段は無かった。連絡は一切取っていなかったからだ。

 最初はすぐに帰って来ると、景子は考えていた。子供が出来たばかりの18歳の娘と、19歳の若い男の2人では長持ちしないと思って。

 周囲に支える誰かがいなければ、育児なんて出来る筈も無い。景子はその大変さを知っていたからこそ、すぐに理沙がギブアップすると思った。

 しかし1年が経ち、2年が経っても理沙は帰って来ない。子供を虐待して捕まる若い親を見るたびに、景子は不安に思う事となった。

 

 だが結局5年経っても理沙は帰らず、ニュースで取り上げられる事も無い。そこまで来て景子は、理沙が本気だったのだと理解した。

 未成年の娘が、非行に走って子供を作った。ただそれだけなのだという考えは、間違っていたのかも知れないと思い始めた。

 5年も経てば子供は5歳で、そろそろ小学生になる年齢だ。そこまで育てられたのであれば、しっかりと母親をやっている可能性がある。

 ただ一時の気の迷いだけで、子供を5歳まで育てるのは難しい。育児はそんな簡単に上手く行かない。娘を疑った自分が、間違ったのではと景子は思った。


「ウチはあれから、子育てに必死やった」


 理沙はこれまでの12年間を語り始めた。決して楽な生活ではなく、母親としての苦労は多々あった。元旦那が起業に成功した事で、資金だけはあったが。

 京都よりも土地の安い土地で、建設業を営む元旦那。当然忙しいので、理沙が1人の時間は多かった。だが孤独だったかと言えば、決してそうではない。

 一輝かずきと一輝の父親が、理沙の生活を助けてくれていた。特に一輝は理沙へと恋心を抱いた関係で、よく理沙を手伝っていた。

 運よく環境に恵まれて、過酷な生活にはならなかった。大変だったし、苦しかった時もある。だけどそこには、必ず一輝が居てくれた。


 辛い時期も乗り越えて、娘にある程度物心がついてからは少し楽になった。しかし今度は、娘の我儘に悩まされる。

 言葉が通じない時期とはまた違った、親としての苦労が始まった。知能が上がるにつれて、色んな我儘を言う娘。

 その姿が、かつての自分を思い起こさせる。娘を叱る度に、どこかで聞いたセリフを思い出す。かつて自分が、母親から言われた言葉だ。

 何度もそういう経験をしていると、親の気持ちというものが分かった。今まで自分のして来た事は、娘の行動と良く似ていた。


「オトンとオカンの言う通りやった。アイツは浮気して、別のとこで子供を作った」


 そして遂には、元旦那の不倫が発覚。知らない内に若い女子大生を引っかけて、子供まで作ってしまう始末。

 怒りに震える理沙が、元旦那の頬を叩いた時に浮かんだ父親の言葉。遊びたい時期に遊べないと、歳を取ってから余計な遊びに走る。

 まさにその通りで、手をだしてはいけない遊びに手を染めた。どこまでも父親の言う通りで、理沙は怒りと悲しみで一杯だった。

 今日まで夫婦としてやって来た時間は、一体なんだったのかと。信じていたのに、下らない行為で全てを台無しにされてしまった。


「……それで離婚か。子供はどないしてん? 留守番させとるんか?」


 父親の宗司が、一番理沙の聞いて欲しくない事を尋ねる。だがそれは当然の話で、日本では離婚すると大体母親が親権者となる。

 だがどうしてか、理沙は裁判で負けてしまう。娘の意向は、父親と暮らす事。それはまるで、家を飛び出した自分の姿と重なった。

 母親の教えを聞かずに、自分の意見を押し通した。結果こうなってしまった事実が、理沙の心に大きな穴を開けた。

 その話を聞いた理沙の母親、景子は疑問を覚えた。幾ら子供の意思がそうだったとしても、あり得る話なのかと。


「せやけどそんな話――」


「もうええねん。それが杏奈(あんな)の気持ちなんやったら。それにアイツの方が、お金あるしな」


 専業主婦をやっていた理沙と、起業して社長をやっている元旦那。どちらの方に生活力があると言えば、間違いなく後者である。

 それに理沙は、相手の年収を知っている。2人目も育てるには十分過ぎるほど、資金的余裕があると知っている。

 まさかその余裕が、自分との2人目に使われ無かった事が、理沙にとってはショックだった。今となっては、折り合いもついているが。


「今はそれより、あの日の事や。……ごめん、ウチは何も分かってへんかった」


 理沙は頭を下げて、生意気な事を言ったと謝罪する。若さと勢いだけで、突っ走ってしまった。お腹の子ばかり気にして、親の気持ちを見ていなかった。

 むしろ自分達も子供が居るのに、何故分かってくれないのかと思ったぐらいだ。それだけ当時は、両親と意見がすれ違っていた。

 だがそれは、理沙の両親だって同じだ。娘がどれだけ本気だったのか、分かってあげられなかった。それは宗司と景子も同じだった。


「理沙だけが悪いんやない、頭をあげてくれ」


「私達が、貴女を理解出来ていなかったのよ」


 やや古風な価値観の母親と、似た意見を持っていた父親。2人して娘の想いを理解出来ていなかった。ただの反抗期だと思ってしまった。

 お互いにすれ違っていた両親と娘は、12年の時を経てお互いを理解する事が出来た。開いていた心の距離が、再び家族の距離へと少しずつ戻って行く。

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