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憧れの元ヤンギャルママ(30)が可愛すぎる  作者: ナカジマ
第3章 家族という関係
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第74話 東雲家

 今年も終わろうとしている12月の京都。それでも観光客は多く、京都駅は外国人が大勢歩いている。

 久しぶりに地元へ帰って来た東雲理沙(しののめりさ)は、懐かしい感覚を覚えている。かつて友人達と歩いた景色が、目の前に広がっている。

 親友の高嶺雫(たかみねしずく)やSNSを通じて、地元の友人達の状況はある程度知っている。時間があれば少し会いたいと思っているが、今は後回しだ。

 先ずは自分の両親との再会を済ませねばならない。喧嘩別れとなった自分の親と会う気になったのは、間島一輝(まじまかずき)の影響が大きい。

 両親とほぼ絶縁状態になっていた彼女は、これでも良いと思っていた。しかし一輝は、それでも理沙の両親を尊重しようとした。

 

 2人はどちらも成人していて、社会にも出ている。親の許可がなくても、結婚する自由がある。だが一輝は、挨拶をしようとした。

 離婚した理沙の心だけでなく、全てを大切にしようとしてくれた。ならばその気持ちに応えねば、夫婦としてやっていく資格がない。

 理沙はそう考えて、自分の両親と向き合う気になった。それだけでなく、娘の杏奈(あんな)との関係も影響している。

 会いたくないと言われた事が、どれだけ辛い事なのか良く分かったからだ。自分の行いが、両親をどんな気持ちにさせたのだろう。

 そう考えると、理沙は申し訳ない気持ちになったのだ。今に始まった事ではなく、娘を生んでから薄々分かっていた事だ。

 

 自分が親の立場になって、見えてきた景色があったのだ。いざ子育てをしてみれば、自分の過去が全て正しかったとは思えなかった。

 東雲家はそれなりに裕福な家庭だった為、両親の教えは厳しい方だった。当然理沙もその教育を受けていたが、あまり肌に合わなかった。

 茶道などの習い事をさせたい母親と、興味が持てない理沙というズレ。小さい頃からの積み重ねは、中学生になると爆発。

 反抗期を迎えた事で、特に母親との確執は広がった。お嬢様だった母親の価値観と、ギャル文化ブームにハマった理沙は噛み合わない。

 結果的に不良少女となってしまった理沙は、どこまでも両親と話が合わないまま。真面目な弟との差が広がり、家族の間で微妙な距離が出来た。


(12年も経つと、随分変わったなぁ)


 過去を思い返しながら、理沙は地下鉄を乗り継いで北区へと向かう。京都市北区は、比較的上品な地域である。

 一部には高級住宅街があり、資金的余裕のある家庭が多く集まっている。文化的な風情のあるエリアである。

 理沙はかつて、そんな土地で暮らしていた。最寄り駅を降りて、バスに乗る理沙。窓から見える景色は、記憶とはかなり変わっていた。

 しかし変わらない光景もあり、帰って来たのだと理沙は改めて思った。もう帰る事のない場所だと思っていたのに、戻ってみれば落ち着く。

 

(雫と良く行った店や。まだ残ってたんやな)


 この土地には、18年分の彼女の思い出が残っている。生まれてから高校を卒業するまでの時間を過ごした場所。

 雫などの友人達と過ごした日々は、全てが大事な記憶だ。そして同時に、両親との思い出だって残っている。幼い頃は、それなりに上手くやっていた。

 親の期待に応えようと、子供ながらに考えていた。しかしそれは、理沙にとって難しい事だった。向き不向きは誰にだってある。

 理沙は奥ゆかしい大和撫子よりも、ギャルという華やかなスタイルの方が性に合っていた。だがしかし、母親が求めたのは前者だった。

 ギャル文化ブームは、当時多くの女性達から支持を得た。しかし若い世代ばかりで、大人の女性達は眉を顰めていたものだ。


 ルーズソックスはだらしないと思われたし、ヤマンバメイクや汚ギャルなどは強い拒否感を持たれた。

 ミニスカートやへそ出しファッションは、はしたないと言われていた。現在ではもう定着したファッションだが、当時は批判の対象だった。

 テレビや雑誌のインタビューでは、ギャル文化に否定的な親の意見が採用されていた。そんな状況も手伝い、理沙は両親と上手く行かなくなった。

 年相応の少女であり、無鉄砲さもあった。だけどそれは、思春期特有のものだ。理沙が特別異常だったのではない。

 むしろ犯罪行為に手を染めていない分、真っ当な高校生をしていたと言える。だがそれは、当時の両親に理解出来たかは別の話だ。


(……あんま変わってないなぁ)


 理沙はバスを降りて、徒歩で実家まで帰って来た。一般家庭の家にしては、やや大きな敷地を持つ家と、日本風の門扉が理沙の目の前にある。

 彼女の父親は役所勤めで、母親は琴教室の先生をしている。今も琴教室を続けているらしく、看板が門の前に掲げられていた。

 いざ帰って来てみると、インターフォンを押す指が途中で止まる。最後に両親とした会話は、家を出ると決意させる喧嘩だった。

 今更何を言えば良いのか、理沙も良く分かっていない。ただ大人になった事で、謝るという行為を選べるようになっただけで。


(ああもう、何とでもなれ!)


 理沙は思い切ってインターフォンを押す。土曜日の午前中は、記憶通りなら琴教室は休みの筈。理沙の想定通りなら、両親共に在宅だ。

 インターフォンからの返事は無かったが、暫くすると理沙の父親が慌てて出て来た。もうすぐ60歳を迎える彼は、東雲宗司(しののめそうじ)という。

 白髪混じりの短い髪に、眼鏡を掛けた真面目そうな男性だ。大きな目と二重瞼が、理沙と似ている。紛れもない親子である。


「理沙……理沙なのか!?」


「……うん、ただいま」


 木製の門を挟んで、父と娘が再会した。随分と成長した娘の姿に、宗司は涙を浮かべている。例え喧嘩別れになっても、娘である事は変わらない。

 理沙の考えが変わったように、宗司の価値観も以前とは違う。お見合い結婚だった彼は、当時の自由恋愛を良く思っていなかった。

 彼が若い頃にも、自由恋愛自体はあった。しかしそれでも、彼の考え方は昭和の思想に染まっていた。娘は父親の許しを得て、結婚するものだ。

 そう考えていた昔と、今の考えは大きく変わっている。現代の価値観を理解した宗司は、自分が少し意固地だった事を反省していたのだ。

 もう少し話し合うべきだったのではないか。嫌ならば出て行けと言ってしまった自分を、後悔したのは全てが終わった後だった。


「母さんも居るから、はよ入って来なさい」


「うん……」


 門を開けた父親に導かれ、12年振りに理沙は自宅の敷地に足を踏み入れた。かつて暮らしていた家の玄関は、理沙が幼かった頃と変わらない。

 ただ全てが同じではなく、リフォームの痕跡は所々にある。玄関には手すりが設置されているし、初めて見る掛け軸が掛かっている。

 それでも理沙の目には、昔と同じ実家の風景が映っていた。ここまで来るには、随分と時間が掛かってしまった。

 自分の過ちを認めて帰って来るまで、12年もかかった。その事を理沙は複雑に思いながら、スリッパを履いて廊下に向かう。


「母さんならいつもの場所や」


「……そっか」


 理沙の母親は良く和室に居る。琴教室をやっているのもあるが、元々和室で過ごすのが好きな人だったからだ。

 宗司に連れられた理沙は、ゆっくりと廊下を歩んで行く。何度も歩いた廊下が、今では他人の家のように感じてしまう。

 喧嘩別れとなった事で、理沙の認識が変わってしまったからだ。もう帰る場所じゃないという意識が、頭の中にあったから。

 だというのに、懐かしいという気持ちも持っている。これまでの生活が、色々な影響を理沙に与えた。良い事も、悪い事も全て含めて。

 理沙と掃除は琴教室のために広く作られた、和室の前までやって来た。襖の向こうには、理沙の母親が待っている。


「さあ、おいで」


「…………うん」


 父親が襖を開けた先には、座布団に座ってお茶を飲んでいる女性が居た。和服を着た上品な姿は、記憶にある理沙の母親そのままだった。

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