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憧れの元ヤンギャルママ(30)が可愛すぎる  作者: ナカジマ
第3章 家族という関係
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第71話 父と息子と

 俺はリサ姉と共に、夜の繁華街の一角で待ち合わせをしている。今日のリサ姉は、いつものように派手ではない。

 シンプルな紺色のワンピースに、厚手のコートを羽織っている。ストッキングを履いているので、肌色成分は殆ど無い。

 化粧も普段よりは大人しく、清楚な雰囲気が漂っている。何故そんな真面目そうな格好かと言えば、これから会う人物に理由がある。

 待ち合わせ場所で待っていると、信号を挟んで向かい側の歩道に1人の男性が現れた。どう見ても、カタギの人間には見えない厳つい顔。

 

 もうすぐ50歳だというのに、今だに分厚いままの胸板。手足もガッシリとしており、タックルでもされたら押し倒されそうだ。

 どこでも売っているようなダウンジャケットに、普通のジーンズを履いているが異様に目立つ。放つ威圧感が明らかに、一般人ではない。

 それもそうだろう。だってかつてマル暴と呼ばれ、今では捜査4課と呼ばれている組織に所属している刑事なのだから。

 名前は間島孝介(まじまこうすけ)、49歳の俺の父親だ。普段から反社会的な勢力と、戦い続けているその道のベテランだ。潜って来た修羅場の数が違う。

 信号が青に変わると、ゆっくりと父さんが歩いて来る。迫力をもう少し抑えられないのだろうか。これじゃあ叔父貴(オジキ)と若い衆の会合みたいだろ。


「やあ理沙(りさ)ちゃん、久しぶりだね」


 威圧感のある低い声で、気さくな話しかけ方をする父さん。リサ姉は慣れているから良いけど、普通の女性なら間違いなく怖いだろう。

 ヤバイ人に声を掛けられたと思う事だろう。俺も歳を取ったら、こんな見た目になるのだろうか。ちょっと嫌かも知れない。


「お久しぶりです、孝介さん」


「こうして3人で会うのは、いつ以来だろうねぇ」


 ガハハと豪快に笑いながら、父さんは俺の肩を叩いている。普通に痛いから止めて欲しい。というか、早くここから移動したい。

 周囲にいる人達がチラチラと見ながら、スマートフォンを操作している。110番通報の為ではないと信じたい。通報される刑事なんて笑えない。


「それより、早く行こうよ父さん」


「おう、そうだったな」


 俺はリサ姉と父さんを連れて、高嶺たかみね部長に教えて貰った個室制の焼肉屋へと向かう。それなりのお値段で、高級焼き肉店の雰囲気を味わえる店だ。

 普通よりは少し高いが、食べ放題も用意されている。お酒のメニューも豊富で、こうして気の知れた相手と入るのに丁度良い。

 店の外観は白で統一されて高そうに見えるが、俺みたいな社会人1年目でも入って行ける価格帯だ。そのわりに店内は、とても落ち着いている。

 予約を取っておいたから、俺達は待つ事なく席へ通される。4人掛けのテーブルに、俺とリサ姉が並んで座る。父さんとは向かい合う形だ。

 こうして3人で会う事にしたのは、1つしか理由がない。俺達が付き合い始めた事、そして結婚するつもりである事を伝える為だ。


「食べ放題だから、好きに頼んでくれて良いよ」


「ハッ! まだ若造の癖に、見栄を張りやがって」


 一番大切な話はまだしない。もう少し食べながら、空気を温めてから話したい。まあどうせ、気付いてはいるんだろうけどさ。

 リサ姉の元旦那さんと、俺の実家は隣接している。離婚した事ぐらい知っているだろうし、ある程度察する事は出来る筈だ。

 今年の春頃に離婚して出て行った筈のリサ姉と、俺が一緒に居るのだから。何もないと思う方が変な話だろう。

 薄々察してはいても、黙ってくれているのだろう。この程度の事も見抜けないで、刑事が務まる筈もない。恐らく約束を取り付けた時点で、何かを感じていただろう。


「理沙ちゃんは、元気にしていたかい?」


「はい、お陰様で。色々と大変でしたけど、何とかなりました」


 何だかんだ言っても、気にはなっていたのだろう。父さんはリサ姉が引っ越して来てすぐから、何かと気に掛けていたから。

 若い夫婦と小さな子供の組み合わせだけに、きっと心配だったのだろう。見た目だけなら、凄く派手な夫婦だったから。

 大人になった今なら、父さんの気持ちが少し分かる。虐待やネグレクトなどが、思い浮かんでしまったのだろう。

 リサ姉は18歳で出産している女性だ。警察関係者なら気にするのも分かる。結局育児の方は問題無かったけど、こうなってしまった。

 女子大生を連れ込むようになった高田(たかだ)さんを見て、父さんは何を思ったのだろうか。あまり聞きたい話ではないけれど。


「へぇ、うめぇな。一輝(かずき)、お前良くこんな店知ってたな」


「会社の上司に教えて貰ったんだよ」


 雑談をしながら、俺とリサ姉は機会を伺っている。アルコールも入って良い感じになって来た場の雰囲気。

 昔と変わらない雰囲気に包まれて、とても懐かしい気分だ。これで離婚なんてせずに済んでいれば。リサ姉が悲しむ事なんて無かった。

 だけどその結果、俺はリサ姉を恋人に出来た。どうにも複雑ではあるけれど、俺はもう決めたから。俺がリサ姉を幸せにするんだって。


「父さんその、俺達さ。今付き合っていて」


「ウチらは結婚も考えてます」


 俺とリサ姉は、2人で付き合い始めた事を告げる。リサ姉はやっぱり、不安に思っているのだろう。声が少し硬くなっている。

 8歳という年齢差に、バツイチという経歴。普通の家庭であれば、難色を示す条件だから。しかし俺の父さんもまた、バツイチの身だ。

 だから俺は、そこまで不安に思う事じゃないと伝えてある。だけどやっぱり、言葉だけでは解決しない。机の下で繋いだ手は、少し震えていた。

 俺はきっと大丈夫だと示す為に、リサ姉の手を少しだけ強く握る。震えなくても良いのだと、ハッキリと示す為に。

 食べる手を止めて、ビールを一口飲んだ父さん。今何を考えているのだろうか。表情からでは、何も伝わって来ない。不快感は無さそうだけれど。


「……うちの息子で本当に良いのかい? まだまだ若造で、大した金も無い。漢気だって、まだまだ足りねぇ」


「金はこれから……頑張って稼ぐさ」


 社会人1年目の俺には、それを言われてしまうと弱い。色々足りないのは事実であって、リサ姉に相応しい男へなれたとは思っていない。

 だけどこれから、見合うだけの存在になってみせる。今はまだ未熟でも、これからもずっと足りないままじゃない。


「ウチは一輝君を、良く知っています。素敵な人やって、分かっていますから。昔からずっと、ウチを支えてくれました」


 リサ姉はハッキリとした意思で、父さんに伝えてくれた。こうして堂々と言われると、少し気恥ずかしい。嫌な気分は全くしないけれど。

 俺達が意思を示すと、父さんは目を瞑って考え始めた。社会人1年目から、息子が結婚すると女性を連れて来た。何も感じない筈はない。

 暫く反応を待っていた俺達に向かって、父さんがゆっくりと口を開く。纏っている雰囲気は、とても重苦しいものだ。


「一輝……お前まで理沙ちゃんを悲しませたら、絶対に許さんぞ」


「……分かっているよ。そんなつもりは無い」


 とても真剣な表情で、父さんは俺への警告をして来た。俺と同じように、父さんもまた昔からリサ姉を知っている。

 自分の娘みたいに、父さんは可愛がって来た。だからこそ、考える事は俺と似ている。もう二度と、リサ姉を不幸にしたくない。

 次の相手を担うのが、自分の息子だというのだ。分かっているだろうなと、視線から圧力が伝わって来る。今ここで、約束しろという事なのだろう。

 半端な気持ちで口にしているのなら、リサ姉ではなく俺を認めないという事だろう。試されているのは、リサ姉じゃなく俺の方だ。


「俺がこの手で、リサ姉を幸せにしたいんだ」


「まあお前は昔から、理沙ちゃんが大好きだったもんな」


 ニヤリと笑いながら、父さんは俺を見ている。何で知っているんだと思ったけれど、よく考えたらそうか。だって俺達は、リサ姉の幸せを願っていた。

 俺は憧れのお姉さんとして、父さんは娘同然の存在として。大切に想っていた事だけは、何も変わらないのだから。


「じゃあ理沙ちゃん、思う存分尻に敷いてやってくれや」


「……ありがとうございます」


 それからは和やかな時間だった。他愛もない話に花を咲かせながら、焼肉とお酒をまったりと楽しませて貰った。

一輝君のお父さんは、はよ開けんかいコラァ! をやっている人です。

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