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第7話 もしかしてこれ、デートなのか?

 俺達は古民家風のカフェで食事をし、今は2人でコーヒーを飲んでいる。

 当たり障りない雑談を交えながら、これまでにあった事を色々と話した。


「あ、そうや一輝(かずき)君。この辺で家具を揃えるのって、どこが一番エエんかな?」


 リサ姉がそんな質問をして来た。引っ越しをして来たばかりなら、揃っていない家具もあるだろう。


「俺が買った店で良いなら、場所を教えるけど」


「それでエエし、教えてくれへん?」


 俺はスマートフォンの地図アプリを起動して、メッセージで店舗の場所を共有した。

 マンションからそう離れておらず、配送サービスなども充実している。

 女性でも買い物に困る事はないだろう。全国展開しているチェーン店だし、品揃えも良い。


「あ、あんな、こんなん頼んで良いか分からんねんけど……」


 少し言い辛そうに、リサ姉がこちらを見ている。何だろう? 何を頼みたいのだろうか。


「ウチさあ、昔から家具を組み立てるの下手やんかぁ?」


 なるほど、その問題があったか。確かにそうだったな。


「ああ、そういう事ね」


 棚を作ろうとして、真ん中の棚を嵌め忘れる。何故か全てが微妙に斜めの状態で完成する。

 どうやったらこうなるんだ? と子供ながらに思ったものだ。よく俺が代わりに作ってあげたよな。

 リサ姉が買いたい物は、組み立てるタイプの家具なのか。そういう事なら付き合いますとも。


「何なら今から行く? 俺この後暇だし」


 特に予定もないし、ジムにでも行くか適当にゲームでもするかって所だった。

 どうしても今やらないといけない事じゃない。それよりリサ姉を手伝う方が、幾らか有意義だろう。

 やっぱりリサ姉と一緒に居るのは、大人になっても楽しいし華があって良い。


「ホンマに!? ありがとう一輝君!」


 ああなんて眩しい笑顔だ。ザ・平成ギャルって感じの見た目だけど、こうして笑うと凄く可愛いんだよな。

 これが見たくて、昔は必死に頑張ってた。叶わぬ恋でしか無かったけどね。既婚者だったし。

 それでも良いんだよ、リサ姉が喜ぶ姿を見られるのなら。初恋なんてそんなもんだよな。

 近所に済む高校生のお姉さんとか、学校の先生とか、大体は恋愛対象にすら見て貰えない相手で終わる。

 こうして大人になったとしても、リサ姉と結ばれる未来なんて来ないだろうさ。

 だけど構わない、少しでもリサ姉の役に立てるのなら。それだけでも俺は嬉しいから。


「じゃあ早速行こっか」


 リサ姉がコーヒーを飲み終わるのを見て、店を出る提案をする。


「うん、ありがとう付き合ってくれて」


 その言い方はちょっとこう、来るものがあるよな。いや分かっているけどね、その付き合うじゃないって。

 でもあるじゃない? 言われたらドキッとする単語とか、言い方とかシチュエーションとかさ。

 せめてそんな事を考えてしまうぐらいは、許されても良いんじゃないかと考えつつ会計を済ませる。

 2人で店を出て、家具を買いに向かう。10分も歩けば到着するだろう。


「美味しい店やったなぁ。また行きたいわぁ」


 気に入って頂けたみたいで、連れて来た甲斐がある。悲しい過去は洗い流せただろうか。


「また今度行く?」


 食べてないメニューはまだまだあるし、リサ姉とまた行けたら良いなとも思う。


「エエけど、ちゃんと若い子とも遊びや? 三十路の女ばっかり相手せんと」


「ん〜でも暫くはリサ姉が良いかな。あんまり話せて無かったし」


 彩智さちとの云々も含めて、2年ぐらいまともに話していなかった。もうちょっとぐらい、リサ姉と過ごしたい。

 元々は毎日のように話していたし、あの頃みたいな関係に戻りたいんだよな。

 リサ姉がまたお隣さんになったから、余計とそう思うのかも知れないけど。


「物好きやなぁ〜。ウチと居てそんなに楽しい?」


「楽しいよ! 昔からそうだったし」


 何でも出来そうで、実はそうでも無くて。結構お茶目な女性。関西人だからか話も面白い。

 色んな表情を見せてくれる人で、優しいお母さんで。たまに怒られたけど。

 そんな日々が、俺にとっては宝物みたいだった。初恋云々を抜きにしても、毎日が楽しかった。


「一輝君も女を掌で転がすようになってもうたんやね」


 ちょいちょい、それは全くの誤解だ。そんな真似が出来た事実はないし、一度もやった事がない。

 つまらないとフラレるような男が、そんなモテ男ムーブを出来よう筈がない。


「どんな誤解? 掌で転がすなんて出来ないよ」


「ホンマかなぁ? 一輝君、昔よりも女性の扱いが上手くなってるし」


 この俺が? 上手くなった? そんなバカな。上手く出来たらこうなってないよ。

 彼女すらまともに満足させられないのに、女性の扱いが上手いわけない。


「俺元カノに滅茶苦茶怒られてたよ? 扱いが上手いなんて有り得ないって」


 何度も彩智に怒られて、改善をさせられて来た。まだまだ悪い部分はあるだろう。

 だからこそフラレたわけで、直近で分かったのは『真面目過ぎてつまらない』という点を改善する必要がある。

 そんなのどうやって、直して行けば良いのか分からないけどね。


「そうなん? そんな風には見えへんけど」


 2人でそんな会話をしながら歩き続け、目的の家具店に到着した。

 日曜日だからか、お客さんはかなり多いみたいだ。殆どは家族連れや老夫婦で、少し場違い感がある。

 中には独り暮らしの人だって居るだろうし、あんまり気にする必要はないとは思うけど。


「リサ姉は何を買いたいの?」


 少し前を歩くリサ姉を追い掛けながら、本日の目的を尋ねる。


「物を入れる棚と、お風呂用のカゴやろ。あとベッドは絶対に買いたいねん」


 ベッドねぇ、そりゃそうだよな。離婚して引っ越して来たのだから、持って無いよね当然。

 リサ姉の家は、確かダブルベッドだった筈だし。最近も2人で寝ていたのかは分からないけど。

 下手に触れて良い話題じゃないから、他の話題に変えようとした時だった。


「ちょっとお兄さん、奥さんがこれ落としたよ」


 知らないお婆ちゃんが、そう言ってハンカチを手渡して来た。

 さっきリサ姉がバッグから財布を出した時に、落としたのだろうか。

 喫茶店で使っているのを見たので、記憶に残っている。多分リサ姉のハンカチだろう。

 ありがとうございますとお礼を言って、受け取り…………今のお婆ちゃん何と言った?


「なあなあ聞いた今の!? 奥さんやって! ウチってホンマに25歳ぐらいに見えてんのかな!?」


 実年齢より若く見られたからと、リサ姉は喜んでいるらしい。それは良かったんだけどさ。

 俺達ってそういう風に見えてるって事? マジで? レンタル怖い人ではなく?


「う、うん。だから言ったでしょ」


 俺はそんな風にしか返せ無かった。だってこれ、考え方次第ではデートなのか?

 俺が? リサ姉と? いやいや、そんな考え過ぎで…………と思っていたらリサ姉が腕を組んで来た。

 なんで!? どういうアレでこうなったの!? リサ姉は一体何がしたい?


「ほなこうしてたら、余計と若く見えるって事やんな!」


「あ、ああ、そういう事ね」


 リサ姉は昔から、たまに良く分からない事をやる。今みたいに。こんな事をしなくても、若く見えるよ。

 と言いたいけれど、この状況を楽しまないのは損じゃないか? 役得というか、そういう感じで。

 このノリの軽さは、流石は元ヤンギャルというべきか。距離が近くなり、リサ姉の良い匂いが漂って来た。

 そして俺の右腕に、とても柔らかい感触が伝わって来る。知っていたけど、デカいなぁ。


 彩智は真逆のタイプだったから、腕を組まれても特にこう言った事は起こらず。

 22歳になっても童貞の俺には、とても抗い難い誘惑であり、暫くこのままで居ようと判断した。

 リサ姉も喜んでいるし、向こうからやって来たのだから良いよね。

 分かっているさ。こんな事を考えるような男だから、今もまだ童貞なんだって。

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