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憧れの元ヤンギャルママ(30)が可愛すぎる  作者: ナカジマ
第3章 家族という関係
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第69話 何気ない日々の中に潜む悲しみ

 特に何も無い平日の夜、食材や日用品を買う為に、リサ姉と2人でスーパーに来ている。昔のようで懐かしい気持ちと、恋人としての行動という新鮮さがある。

 今までもやっていた事が、付き合い始めると色々と変わっていく。これからも俺達は、2人で新しい関係を築いて行くのだろう。

 そう思うと些細な事までも、共同で行う特別な事に思えて来る。ただ買い出しに出掛けただけの事であったとしても。

 リサ姉はどうなのだろうか? 同じように感じてくれているのだろうか。数ヶ月前を思えば、随分と笑顔が増えたけれど。


さむうなって来たし、シチューにでもしよか?」


「良いね。せっかくだし、作り置きしようよ」


 一気に寒くなったので、朝晩はかなり冷える。少し多めに作っておけば、明日の朝ご飯に丁度良いだろう。気温も下がったから、すぐには痛まないし。

 色んな野菜を同時に摂れるから、栄養バランスも良い。最悪余ったとしても、会社に持って行けば良い。電子レンジが食堂にあるから。

 2人で材料を選びながら、スーパーの売り場を回って行く。昔もこうやって、リサ姉と買い物に来ていた。2人きりでは無かったけど。

 あの頃は娘の杏奈(あんな)ちゃんも居て、3人で仲良く行動していた。あの頃の杏奈ちゃん、お菓子が欲しいと駄々を良くこねていたっけ。

 お菓子を食べ過ぎて、ご飯が食べられなくなると良くリサ姉が注意していたな。俺達の間に子供が出来たら、またあんな風になるのだろうか。


「どうする一輝(かずき)君? ビール買って帰る?」


「うーん、こっちにしよう」


 俺は最近、ビールから発泡酒に変えた。飲む頻度も少しずつ減らして行っている。これも貯金をする為の、適度な節約だ。

 全く飲まなくしてしまうと、夜の楽しみが減ってしまう。余計なストレスを抱えたくはない。絶対飲みたいわけじゃないけど。

 毎日とは言わずとも、たまに飲めればそれで良い。アルコールはそれなりに好きだ。趣味らしい趣味はあまりないけど、洋酒を集めるのは楽しい。

 酒瓶がオシャレだと、飾りたくなってしまう。特別お酒に詳しいわけじゃないけど、色々と探すのは楽しい。もちろん散財するつもりはないけど。


「お鍋の素も買わへん? そろそろお鍋の時期やしな」


「良いね、日曜日にでもやる?」


 リサ姉と鍋を囲むのは、中学以来じゃないだろうか。高校受験を控えた俺を、応援する目的で細やかなお祝いをして貰った。

 今となっては懐かしい記憶だ。あれももう5年以上前になるのか。初恋の女性に応援されるのは、凄く嬉しかった。

 決して報われない恋だとしても、あの頃の俺にとっては勲章みたいなものだった。凄く励みになったんだよな。


「どれにしよか?」


 寒くなったからか、売り場には沢山の鍋の素が並んでいる。昆布だしに鶏ガラスープ、キムチ鍋や鶏白湯。どれも美味しそうだ。


「この旨辛鍋の素はどう?」


「ええね! ほなこれにしよか」


 2人で週末の鍋を楽しみにしながら、雑談を交わす俺達。最後の鍋の思い出を話したら、リサ姉も覚えていてくれたらしい。

 あの時はどうだったとか、昔話に花が咲く。そのお陰か、あの時の鍋と似た具材を選ぶ事にした。案外鍋の具まで覚えているものだ。

 それだけ俺にとって、記憶に残る食事だったのだろう。リサ姉に応援して貰えたのが、凄く嬉しかったのを覚えている。

 他にも柔道の大会で、優勝した時にお祝いしてもらった時もあった。俺の過去には、リサ姉との思い出が沢山あるのだなと改めて思う。

 というよりも、ガキだった頃の俺は本当にリサ姉ばっかりだな。今思うと本当に、ガチで惚れていたのだなと思う。


「いやっ! これ買うの!」


「ちょっと~ワガママ言わないの!」


 そんな話をしていたら、レジの近くで1組の母娘がもめている。どうやらおまけ付きのお菓子が、小さい女の子は欲しいらしい。

 今やっている女児向けアニメの商品らしい。まさにさっき思い返した、リサ姉と杏奈ちゃんを思い出させる光景だった。

 どこの家庭でも、似たような事が起きているものだ。そう珍しくない光景だったが、リサ姉の表情が硬い。

 そうか……俺には微笑ましく見えても、リサ姉からすれば辛い光景だよな。離れて暮らす事になった、娘が居るのだから。


「リサ姉、行こう」


 俺は優しくリサ姉の手を取り、レジの待機列へと向かう。これ以上この光景を見せていてはいけない。


「う、うん。ごめんな」


「気にしないで」


 そう言えば、ずっと疑問だった事がある。聞くに聞けない話題でもあったというのもある。他人の俺は、触れない方が良いのではないかと。

 だけど今は、リサ姉の彼氏だ。結婚の予定だってある。いつかは聞いておかないといけない話なのだ。どうせならこの機会に、聞いてしまうべきか?

 俺は悩みながら、会計を済ませて商品をエコバッグに詰めていく。やはりリサ姉の表情は、あまり優れていない様子だ。

 こんな状態の時に聞いて良い事か? だがどうせ辛い話にはなるのだから、先延ばしにするよりは良いのではないか?

 俺はスーパーを出たタイミングで、リサ姉へ尋ねる事にした。恐らくはかなり、クリティカルな話題になる。それを分かった上で、確かめないと。


「あのさリサ姉、1つ聞いて良いかな?」


「……何?」


 これを聞くのは凄く辛い。でもきっとリサ姉は、もっと辛い筈なんだ。俺がここで、踏みとどまってはいけない。

 ちゃんと聞いた上で、寄り添う必要がある事だ。もう俺は、リサ姉結婚すると決めたのだから。


「リサ姉、杏奈ちゃんと会ってる?」


「……」


 その沈黙は、答えているようなもの。本来離婚をしたからと言って、娘と会えなくなるとは限らない。親権が向こうでも、面会は出来る筈だ。

 俺がたまに見る洋画では、そのような描写が良く出て来る。あれはアメリカの制度だけど、日本だってそう変わらないだろう。

 うろ覚えだが、学校でも習った気がする。子供に拒否をされない限り、会う機会を用意して貰えるのではないか?

 でも会えていないのなら、何か理由が必ずある筈だ。一方的に元旦那さんが、拒絶する事は出来ないだろうし。絶対に有り得ないとは言えないけど。


「杏奈がな、ウチと会いたくないねんて。いっつも怒ってばっかりやったから、仕方ないのかなって」


「そんな……だって、それは親として当然の事で……」


 元旦那さん経由で聞かされた、杏奈ちゃんの主張。年齢的に反抗期だというのも分かるけど、明確に拒絶するなんて。

 確かにリサ姉が怒る役で、元旦那さんがケアする側だった。困ったらお父さんのところへ、という光景は何度も見て来た。

 だけどそれは、リサ姉が指導として行った事だ。親として当然の行動で、杏奈ちゃんに意地悪をしていたのではない。

 離婚という制度が、まだ良く分かっていないだけだろう。だって彼女は、まだ12歳の子供だ。リサ姉が勝手に出て行ったとでも、誤解しているのでは?


「ウチも親と喧嘩して、それっきりやしな。(おんな)じことなんかなって」


「……もう少し大きくなったら、きっと分かってくれるよ」


 来年になれば杏奈ちゃんは中学生になるし、家族や婚姻制度についても学ぶ筈。決してリサ姉が勝手に出て行ったのではないと、分かってくれるだろう。

 それまでは辛いかも知れないけれど、それだって数年の我慢だ。高校生になる頃には、色々と社会を理解出来ていると思う。

 杏奈ちゃんは頭の良い子だから、理解するまでそう時間は掛からないだろう。だけどそれまで、リサ姉は辛いままだ。

 そのケアをするのは、今はもう俺の役目だ。聞き出したのは、真実を知る為だ。知った以上は、全力でリサ姉を慰めよう。


「杏奈ちゃんは、リサ姉が大好きだった。それは間違いないよ」


「……そうやったら、エエねんけどな」


 暗い表情をしているリサ姉を、俺は優しく抱き締めた。これで娘が居ない寂しさを、紛らわす事は出来ないだろう。

 だけど1人ではないのだと、分かってくれる筈だ。せめて埋まらない隙間を、少しでも俺が埋めて行こう。どれだけ時間が掛かったとしても。

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