第66話 俺の新しい恋人
朝起きると、俺の隣には好きな女性が居る。美しい顔立ちを持つ年上のお姉さんだ。30歳になっても、昔から変わらない魅力に溢れている。
今はまだ、毎朝夢ではないかと思ってしまう。初恋のお姉さんが、俺の恋人であるという事が。だって本来なら、在り得なかった関係だから。
俺が都合良く見ているただの夢で、ふと目が覚めたら1人だった。そうだったとしても、不思議ではない。だが俺達は、付き合っているのだ。
付き合い出してからの土曜日の朝は、少し体が重たい。次の日が休みだと分かっているから、夜の方が平日よりも長くなる。
女性の性欲は30歳からピークに向かう、なんて研究結果もあるらしい。個人差があるらしいから、リサ姉がどうなのかは分からないけど。
「……おはよう一輝君」
「うん、おはようリサ姉」
セフレだった頃とは、また違った朝を迎えている。以前よりもリサ姉は、朝からスキンシップを求めるようになった。
性的な意味ではなく、ただ触れ合うだけの時間だ。朝から抱き締められたがるリサ姉が、凄く可愛いから困る。
これが高嶺部長の言っていた、リサ姉の甘えなのだろうか。付き合い出してから1ヶ月、こういう面が顔を出し始めた。
可愛いなという気持ちがあるのは当然として、一般的な男性として朝からこうしているとね。色々とこう、来るものがあるというか。
リサ姉がそんなつもりではないと知っていても、柔らかい感触とか良い匂いとかがね。男の本能がどうしても反応する。
「その、リサ姉……」
「思ったより一輝君て、朝から元気やんな」
付き合い出したから余計になのか、俺も自分で驚いている。抑圧からの解放とでも言うのか、性欲が強まったように思う。
心理的変化の結果なのか、純粋に恋人という関係性がそうさせるのか。自分の事ながら、良く分かっていない。
流石に平日の朝はなるべく我慢しているけど、休みの日は歯止めが効かない。リサ姉も嫌がらないから、甘えさせて貰う。
セフレではなく彼女だ、という認識がより俺の感覚を刺激する。やはり精神的要因が、大きく影響しているのかも知れない。
朝からガッツリとリサ姉とセックスをしてから、朝食の準備へと移る。10月に入っても、気温が高く蒸し暑い。
「まだまだ暑いよね」
「せやなぁ。ホンマかなんわ」
暑いのは気温だけのせいでは無いが、わざわざそんな事を言う必要はない。さっき付けたエアコンの風が心地いい。
2人で料理をして朝食を用意し、動画を垂れ流しの状態にしておく。普段と変わらない朝の始まりは、穏やかに過ぎて行く。
今までもこうして来たけど、幸福感が以前よりも遥かに高い。心なしか距離感も、縮まったような気がする。心理的にも、物理的にも。
こうしていると、初恋が実ったという喜びが溢れて来る。もうリサ姉は、手の届かない女性じゃない。すぐ隣で、俺と共に居てくれる。
未来について、考えないといけない事は多い。どうやってリサ姉を幸せにしていくかとか、子供はどうするんだとか。
「昼から買い物行きたいんやけど、かまへん?」
「良いよ。付き合う」
何がどうという事も無い時間が、ただ過ぎて行くだけ。特別なイベントが起きる事もなく、日常を2人で共有している。
それだけの事が、素晴らしい時間となっている。俺とリサ姉は、それで良いから。もう余計なイベントなんて、必要ないのだ。
暫くは難しい事を考えず、恋人という関係を楽しみたい。どうせいずれ、俺はリサ姉の幸せを優先せねばならなくなる。
だけどそれは、同時に俺から見ても幸せに繋がる。だって俺が願っていたのは、リサ姉が幸せに過ごす事なのだから。
誰かではなく、俺がその役目を担う事になった。近くで見守るだけじゃなくて、俺がリサ姉を幸せにしていく。
「ほな行こっか」
「うん」
着替えた俺達は、マンションを出て駅へと向かう。10月になっても暑いお陰で、リサ姉の肌色成分は多めだ。
今日も小麦色の肌が、リサ姉の魅力を引き立てている。ただのTシャツとハーフパンツ姿でも、凄く高級感が出ている。
服に着られているのではなく、ちゃんと着こなしているからだ。学生時代に読者モデル、やれば良かったのになぁ。
でもそうしていたら、俺と出会う事は無かったかも知れない。活躍が見たかったという気持ちと、これで良かったと思う気持ちがある。
「どうかしたん?」
小首を傾げる動作が、やはりこの人は可愛いと思わせる。昔からずっと、俺が憧れていた女性はこんなにも魅力的だ。
「いや、今日も綺麗だなって」
「もう! こんなとこで言わんでエエやん」
照れている姿が、もっと見ていたいと思わせる。だけどたしかに、外で交わすやり取りではない。こんな姿は、俺だけが知っていれば良い。
他の男性だっている所で、リサ姉の可愛い姿を見せなくていい。思わず口にしてしまったけど、注意しておかないとな。
もうリサ姉は、俺の彼女なのだから。少しぐらい独占欲を発揮しても許されるだろう。俺にはその権利があるのだから。
俺達は繫華街へ移動し、リサ姉の買い物に付き合う。リサ姉はコスメ関連を買いに来たらしい。色々な店を回って行く。女性は大変だよなぁ。
「あ、リサ姉。あそこ」
「え? 何?」
俺はふと、アクセサリーショップが気になった。そう言えば、リサ姉とはペアリングをまだ買っていない。
彩智と付き合っていた頃は、ちょくちょく新調していた。もう今となっては、関係のない話だけれど。ただペアリングは、持っておきたい。
今度こそはこの女性と、結婚まで行くぞという意味を込めて。まだ俺の収入では、養うだけの余裕も、結婚式をやる余裕もない。
だけどせめて、ペアリングぐらいは。いつか必ず、その薬指に結婚指輪を通すから。だからそれまで、待っていて欲しい。
その意思を伝えると、リサ姉は了承してくれた。俺は絶対に、リサ姉を裏切らない。絶対に幸せな家庭を築くんだ。
「ほ、ほな、一緒に選ぼ」
「どんなのが良い?」
俺達はアクセサリーショップでペアアクセサリーを眺める。リングだけじゃなくて、ペンダントなどもある。
ただ付き合うだけなら、何でも良かっただろう。だけどこれは、結婚する意思がある事を示すもの。選ぶならペアリング一択だ。
色々と悩んだ結果、シルバーとピンクゴールドのシンプルなデザインを選んだ。俺達は学生じゃないから、そこまで派手じゃない方が良い。
落ち着いたデザインのペアリングを、俺達は購入した。買い物を済ませて帰宅した俺達は、ペアリングを開封する。
「俺が嵌めて良い?」
「ど、どうぞ」
リサ姉の左手を取って、俺は薬指に指輪を通す。かつては結婚指輪が嵌められていた、憧れのお姉さんの指。俺がそこに、新たな指輪を通す。
もうリサ姉は、俺が好きになって良い相手だ。結婚を望んでも良い女性となった。だったら俺が、今度こそ幸せにする。
裏切られて夜な夜な涙を流させるような、そんな生活はさせない。いつも笑って過ごせる日々を、目の前で送って貰うんだ。
「リサ姉。これからは俺が、ずっと大切にするから」
「……うん」
俺がこの手で、幸せにしてみせる。悲しむリサ姉は、もう見たくないから。リサ姉が失ってしまった未来を、俺が一緒に作って行く。
あの頃のように、幸せな母親をさせてあげたい。失った時間は戻らないけど、これからまた再スタートすれば良いだけだ。
もう俺は、遠回りなんてしない。必要な事は教わったし、もう間違えない。同じ失敗は繰り返さない。真っ正面からリサ姉と向き合う。
これはその為の儀式で、宣言でもある。目の前に居るこの人を、必ず幸せにしてみせる。だからリサ姉、安心して欲しい。俺は絶対に、約束を守るから。
2章はここまでで、次からは最終章である3章となります。




