第64話 恋人として過ごす最初の夜
俺はリサ姉に告白して、付き合う事が出来た。改めて考えてみると、凄い事になったな。あのリサ姉と俺が、なんて。
高嶺部長の言う通り、リサ姉は俺を好きで居てくれた。本当にそうだったなんて、今でも信じられない。
もちろん高嶺部長を信じていなかったのではない。ただ実感がなくて、夢のようだというだけで。
12年前に初めて会った、隣に住む美人なお姉さん。今年に入って再開したら、離婚していて独り身になっていた。
こんな男の理想みたいなシチュエーションから、交際まで行く事が出来た。こんな話、そうある事ではないだろう。
「めっちゃ綺麗やったな、花火」
「うん、行って良かったね」
告白のお陰で途中からしか見ていないけど、凄く良い想い出になったと思う。思い切って告白して、良かったと思っている。
いつも通りリサ姉と腕を組んでいるけど、どこか普段と違うように感じる。駅まで歩く間、電車の中、そして家までの帰り道。
その全てのタイミングで、俺達はすぐ近くに居る。セフレから恋人に変わったからか、何もかもが新鮮に感じる。
リサ姉がいつもより可愛く見える。それは着飾っているからじゃない。憧れだったお姉さんが、彼女になったからだ。
より特別な存在になった事で、今までよりも魅力的に映る。今ではこの可愛いお姉さんが、俺の恋人なのだ。そう思うだけで凄く嬉しい。
「な、何か恥ずかしいわぁ。ウチ、恋する中学生みたいな事してもうたし」
「いやそれは、俺も言えた事じゃないし」
お互いに遠回りをして、良く分からない行動を取った。昔を思い出していたとは言え、言動まで幼くなる必要は無かった。
それにリサ姉をヤキモキさせたのは、俺の行動の結果だ。自分じゃない女性を選ばせようとしたリサ姉も、らしくない事をしていた。
いや頑固なところは、ある意味リサ姉らしかったけど。頑なに俺と付き合わないって、意地を張り続けていたわけだし。
肉体関係を持ってから、大体約4ヶ月ぐらい。高嶺部長も参加してから、2ヶ月ぐらい。結構な期間に渡って、交際しない宣言を守っていた。
半年ぐらい続けた事になる。何時から好きで居てくれたのかは、分からないんだけどさ。あくまでセフレになってからの計算だから。
「でもなぁ、ホンマ意外やわ。雫やのうて、ウチを選ぶか普通?」
「高嶺部長は美人だけど、俺はリサ姉が良いよ」
本当に心の底からそう思っている。ストレートに伝えなさいと言われていたから、何の捻りもなく好意を伝える。偽りならざる本心だ。
俺が高嶺部長と付き合うビジョンは、結局まともに浮かばなかった。昔出会ったのが、リサ姉ではなく高嶺部長だったらワンチャンぐらいで。
他に高嶺部長と、恋に発展する未来は無かったと思う。高嶺部長も多分、同じ答えじゃないかな。肉体関係を持ったからこそ、伝わる気持ちがある。
高嶺部長は間違いなく、俺を恋愛対象として見ていなかった。そこまでの想いは、全く感じなかった。セフレとしてなら、好かれていたと思うけど。
「確かに年上好きではあるんだろうけど、結局その切っ掛けはリサ姉だし」
「……ほ、ホンマに初恋がウチなんや」
まだその話、信じてなかったんだ。こんなに魅力的な人が近くに居て、好きにならない筈がない。今も昔も、その事実は変わらない。
そんなやり取りをしながら、俺達は自宅のあるマンションまで帰って来た。一旦お互いに着替えようか悩んだけど、このまま家にリサ姉を連れ込んだ。
せっかくの余韻を、リセットしてしまいたくなかった。告白して付き合って、花火大会を楽しんだ空気はまだ消したくない。
それにもう少しだけ、浴衣姿を見ていたいから。もう終わりになんて、したくなかった。彼女になったリサ姉の、可愛い格好を楽しみたい。
「あ~その、晩御飯どないする?」
「……一緒に作る?」
何となくの思いつきで、2人で料理をする事に決めた。浴衣が汚れたら困るから、火を使うのは俺が担当する。
昔みたいに、2人で台所に立つ。これまでにも何度かやったけど、今日は特別な意味がある。恋人として、2人で料理をしているのだから。
あの頃の俺に、こんな未来が待っているなんて思えなかった。初恋のお姉さんは、既婚者だったのだから。
それがこうして、大人になってから結ばれた。夢じゃなくて、妄想でもない。今俺は、リサ姉と一緒だ。彼氏と彼女という関係で。
今になって、凄く嬉しくなって来た。自宅に居るという現実感が、余計に喜びを生んでいる。この生活が、日常になるのだと。
セフレとしての毎日ではなく、恋人としての日々だ。明らかにこれまでと違う。嬉しいという気持ちが、幾らでも湧いて来る。
「ほ、ほな、食べよっか」
「うん。頂きます」
2人で向かい合って、遅めの夕食を摂る。凄くシンプルなメニューだけど、何だか鮮やかに見える。ただの焼き魚と野菜炒めが輝いている。
白米と味噌汁が、いつもより美味しく感じる。溢れる幸福感が、全てを素晴らしい物に変えてくれている。俺は今日という日を、決して忘れないだろう。
何となく気恥ずかしい感覚を覚えながら、2人で食べる夕食。照れ臭そうにしているリサ姉が、あまりにも可愛いから困る。
まるで普通の女の子みたいで、全てのリアクションが新鮮だ。付き合い立てのリサ姉って、こんな感じだったのか。
「じゃ、じゃあウチ、そろそろ着替えて――」
「待って、リサ姉」
食べ終えたリサ姉が、着替えに戻ろうとする。だけどせっかくの可愛い姿を、もう少し見ていたい。そんなに慌てて着替えなくても良い。
俺が腕を掴むと、急にリサ姉が大人しくなった。どうしたのだろうか? 少し落ち着きが無い。恥ずかしがっている? 何を?
「どうしたの?」
「……その、彼氏出来たん、久し振りやし――彼氏との初めての夜も」
だから可愛い反応をするのは止めて欲しい。俺の理性がどこかへ行ってしまいそうだ。どうしてこう、リサ姉は俺に対してクリティカルな事を言うのか。
結局最後はこうなったのだろうけど、意識させられた以上はもう止まれない。初恋のお姉さんを、彼女として抱く事が出来るのだから。
これまでだって、何度もセックスをして来た。それは間違いないけど、今日は特別なんだ。大切な時間にしたい。
緊張しているリサ姉を、優しく引き寄せて抱き締める。雰囲気作りの大切さは、高嶺部長からしっかり教わった。
いきなりベッドに連れて行くのはNGだ。ちゃんと盛り上げて、それから自然と連れていくのがスマートな進め方。
「好きだよ、理沙」
「……うん」
抱き締めて、心を解してからのキス。こんなやり方、少し前の俺なら知らなかった。学んだ技術を駆使して、リサ姉との時間を楽しむ。
ただセックスをするだけではない。これは大事なコミュニケーションなのだから。相手へと気持ちを、伝える為の行為。
初恋をしたあの頃から、理想の女性は貴女だった。それはこれからも変わらない。この気持ちは、揺らぐ事はないから。
だから俺は絶対に、貴女を裏切らない。だって10年以上も、貴女に対する憧れは消えなかった。その想いを、ただ伝えるだけだ。セックスを通して。
「あ、アカン! めっちゃドキドキしてまう」
「俺だってそうだよ」
恥ずかしそうにしているリサ姉に、優しく触れて下着を脱がす。この状況で浴衣まで脱がす気にはなれない。凄く似合っているから。
そんな無粋な真似は出来なかった。俺は気持ちのままに、リサ姉を抱く。押し寄せる快楽は、これまでで一番だ。
セフレではなく、恋人としてのセックスは格別だった。俺が知らなかった世界を、また1つ知る事が出来た。これが恋人同士の夜なのか。
俺達は日付が変わるまで、お互いに求め合った。そこには傷の舐め合いも、慰め合いも無かった。ただ純粋に、相手を求め続ける行為だった。




