第60話 考えを整理する一輝
世間はお盆休みへと入った。もちろん俺は休みだし、リサ姉と雫さんも同じだ。
1日目の朝から、3人で朝食を取っている。今週はリサ姉の家で集合だ。最近3人で居る事が増え、この状況にもかなり慣れて来た。
リサ姉と雫さんの仲が元々良かったから、特別問題も起きる事なく時間が過ぎて行く。穏やかな休日の始まりだ。
今朝はシンプルにパンで済ましている。昨日は俺達が謝恩会だったのもあり、軽い食事が有難い。
二日酔いとまでは行かないが、結構飲んでいたからあまり沢山は食べる気になれない。二次会もあったからなぁ。
「昨日は結構遅かったんやろ?」
「ええそうね。最終の電車には間に合ったけれど」
二次会では西川と中沢さんも参加しており、だいぶ雫さんにも慣れた様子だった。明るい雫さんの雰囲気を見た他の参加者に、良い印象を残せただろう。
色んな意味でお世話になっている人だから、少しでもお返しをしておきたい。俺に出来る範囲で、役に立っておきたい。
仕事とプライベートに拘らず、やれる事をやっているつもりだ。それにこんな良い人が、誤解されたままは嫌だしな。
俺の私情が含まれているのは否めないが、結果的にプラスになるなら良いだろう。終わりよければ全て良しってヤツ。
「一輝君は楽しめたん?」
「あ~うん。最初は緊張したけどね」
複数の会社から偉い人が来ていたから、序盤は正直ヒヤヒヤしていた。酒の席のマナーについて、雫さんから教わっておいて良かった。
色んな細かいマナーがあって、対応するのは大変だった。学校では教えないルールだからなぁ。会社の飲み会も減っているらしいし。
今じゃあオンラインで行う会社も多いらしい。まだ謝恩会しか経験していないかけど、ウチの会社は年末とかどうなるのだろう?
また今度聞いておこう。正直気を遣うから、年末ぐらいはオンラインでも良いなぁ。雫さんとは個別に会えるしな。
「大きい会社の飲み会って、ウチは知らんのよなぁ」
「あ~そうだよね。リサ姉はパートと子育てで忙しかったしね」
OLの経験がないリサ姉は、パート以外で働いた事がない。接客業が中心で、仕事が終われば家事と育児が待っていた。
飲み会も殆ど断っていたみたいで、大手のスーパーで働いていた時も飲み会は行っていない筈。あの頃は家族が全てだったからな。
それだけ頑張ったいたのに、こうなってしまったのはやはり残念だ。これも結婚生活の難しさという事なのか。
もし俺がリサ姉と付き合うなら、結婚しようというなら。絶対に悲しい想いはさせたくない。それだけはゴメンだ。
ずっと雫さんから教え込まれている女性との接し方。パートナーとどう向き合うか、その大切さについて。
今の俺は、彩智と付き合っていた頃とは違う。しかしどれだけ成長出来たのかは、正直良く分からない。ゲームみたいに、現実はレベルなんてない。
現状では、どれぐらい女性の事を理解出来ているのだろう。リサ姉の隣に立つ上で、相応しい男になれたのだろうか。
何気ないこんな朝の一幕であっても、俺にとっては大切な時間だ。リサ姉にとっては、どうなのだろう。大切だと思ってくれている?
「なぁ、今日はこの後どうするん?」
「私は買い物に行きたいのだけど、2人はどうかしら?」
まだ掴めないリサ姉の本音。いつも通りの表情で過ごしているリサ姉。今は何を思っているのだろうか。
「ウチはそんでエエよ。一輝君は?」
「……え? あ、ごめん。俺は何でも良いよ」
つい考え込んでしまって、反応が遅れてしまった。何か意味有り気な視線を向けて来る雫さんは、何を考えているんだ?
リサ姉もだけど、この人も分からない部分がある。謎めいているというか、本音が見えないというか。ミステリアスと言えば良いのかな?
セクシーな面を注目してしまいがちだけど、結構考えている事が分からない時もある。今みたいな瞬間とか。
どういう意味の視線だったのだろうか。明らかに俺に向けた視線だったが、特に何かを言われるわけでもない。
これで意図が察せるようになる事が、良い男の条件なのだろうか。難しいなと思いつつ、俺は出掛ける準備を始める。
「じゃあ、すぐ用意して来るから」
「そう急がなくても良いわよ」
雫さんは既に外出用の格好で来ている。オリーブ色のシンプルなワンピース姿だ。それだけなのに、上品な色気を放っている。
リサ姉も当然オシャレな格好をするだろう。この美女2人に見合った格好をせねばならない。いつも大変だよ本当に。
嫌じゃないけど、毎回見劣りしないか不安に思う。不合格を貰った事はないから、多分大丈夫なのだとは思うけど。
自分で衣装を作れる雫さんにセンスを褒めて貰えたから、少なくともダサいという事は無いだろう。駄目なら指摘するだろうし。
色の組み合わせについて、レクチャーを受ける時もある。もっと良く見える組み合わせとか、これまでも教えて貰った。
思えば雫さんから学んだ事はかなり多い。細かな事を含めれば、相当あるんだよな実際。本当に、良い上司に恵まれたと思う。
仕事以外でも凄く頼りになるし、俺もあんな風になれたら良いな。リサ姉が理想的な母親で、雫さんは理想的な上司。そんな感じだ。
ただ2人を頼るだけじゃだめだ。俺もちゃんと、成長して行く必要がある。1人の人間として、男として。
父親のように、家庭を築く事が出来るだろうか。今の俺が、家族を持てるか? その時相手は、リサ姉になっているのだろうか。
でもそうなりたいなら、俺はリサ姉を愛せねばならない。憧れで終わらせずに、家族として愛情を持てないと無理だ。
(憧れ、恋、愛。全部似ているけど、別のもの)
距離が近かったからこそ、分からない俺の感情。リサ姉への想いは、この気持は愛なのか。それとも違うのか。
ずっと考えているけど、今もまだ分からない。好きかどうかと言われたら、間違いなく好きだと答えられる。それは分かっている事だ。
だけどこれが、姉へ向けるような好きなのか、女性へと向ける好きなのか。彩智へ向けていた感情とは、少し違うから混乱する。
長い時間を共に過ごして来たからこそ、生まれて来た感情。リサ姉だけは、他の女性達と全然違う感覚を持っている。
(大人って、難しいよな)
ちょっと好きかも。それだけで付き合えるのは、学生の間だけだ。恋人が欲しいからって、適当に付き合うというのもそうだ。
大人になれば、嫌でも家庭を持つ事が前提となる。雫さんみたいなタイプは例外だけど。あの人は結婚願望が無いからな。
だけどリサ姉は違う。子供が好きで、家族を大事にする人だ。また新しい家庭を持ちたいのは分かっている。
時間が経てば経つ程に、重みがどんどん増して行く。リサ姉と付き合って、やっぱり違ったとなっては困る。
俺はまだ再出発出来るけど、リサ姉はそうじゃない。俺がやろうとしている事は、それだけ責任が重い行為だ。
(俺はリサ姉が好きだ。それは分かっている)
仮に告白をするにしても、シチュエーションも大事だろう。いつするか、どんな風に伝えるか。伝える想いの内容はどうするか。
俺がリサ姉に告白する未来なんて、考えた事が無かった。恋愛をして良い相手じゃ無かったから。だから余計と難しい。
中途半端な気持ちじゃだめだ。年上の女性と付き合うというのは、同級生と付き合うのとは違う。相手に明確なタイムリミットがある。
リサ姉が子供を望むなら、もうそんなに猶予は残っていない。だからこそ、真剣に自分の気持ちと向き合う必要がある。
残された貴重な時間を、俺が分けて貰うのだから。出さないと行けない答えを、なるべく早く見つけよう。
後はどう行動するか、いつ行動するか。とりあえず今は、待ってい2人の所へ行こう。




