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第6話 あの日何を言ったのか

 しっかりと着飾ったリサ(ねえ)を連れて、俺はオススメのカフェを訪れた。

 今の家に引っ越して来た後、自分なりに良い感じのスポットを探して来た。

 もちろんデートをする為だったけど、それも今では無意味となってしまった。

 まだこうしてリサ姉を連れて来られただけ、マシだったかと思うしかない。


 目的の店はチェーン店ではなく、個人で経営しているカフェ。古民家を改築して作られた、和の趣がある。

 店内に入ると、オシャレな内装が広がっていた。半分がテーブル席で、半分は畳を敷いたお座敷風。

 今回予約したのは、お座敷風の席だ。畳の上に座布団があり、落ち着いたダークブラウンの机が置かれている。

 俺達は机を挟んで向かい合わせで座った。店員さんが利用方法を軽く説明してくれた。


「ご注文がお決まりでしたら、そちらのボタンを押して下さい」


 お冷とメニュー表を渡され、俺達は何を頼むかそれぞれ考えていた。

 洋食と和食の両方が選べて、和食を選ぶとセットでついて来る自家製コーヒーが、オシャレな湯呑みで出てくる。

 洋食の場合は、オリジナルデザインのカップで提供される仕組みだ。

 雰囲気を活かした面白い店だと思う。テーブル席なら洋食で、畳なら和食みたいなチョイスで良いかも知れない。

 逆もまた面白い気がするし、楽しみ方は色々とありそうだ。


「エエ店知ってるやんか、女の子を良く連れて来てるんか?」


 イタズラっぽい表情で、リサ姉が俺を見ている。そんな事、俺がするわけないよ。


「そんな事無いって、誰か連れて来たのは今日が初めてだよ」


「モテる男は皆そうやってな、女の子には言うんやで」


 だから違うよ! 俺はモテる男などではない。彼女なんて人生で1人しか居た事がない。


「モテないって、俺なんて。人生で唯一告白してくれた彼女に、フラレたばかりなんだから」


 そう言うとリサ姉は、とても驚いた顔をしている。どこに驚く要素があったのだろう?

 あ、もしかして1人しか恋愛経験が無い所ところか? リサ姉みたいな美人からすれば、1人なんて少なすぎるか。


「そうなん? もっと告白されてそうな感じやのに。ちゃんと女の子と会話してる?」


「し、してるつもりだけど……」


 コレは何の質問なんだ? もしかして俺、女性と話すのが下手過ぎるとか?

 それで心配をされているのか? 可能性としてはゼロじゃないのが不安だ。

 女友達も居るには居たけど、あんまり仲良くすると彩智が怒るから浅い関係が多かった。


「うーん、ほんなら周りに居た子らが、見る目ぇ無かったんやろか?」


「え、な、なんで?」


 どうしてそんな回答に? 見る目が無かったとは一体? 体が大きいから、怖がられる事なら多かった。

 それは仕方ないと思うし、真っ当なリアクションだと思うけどね。

 だって自分の倍ぐらい肩幅の広い男が、正面から歩いて来たら女性なら怖いだろう。


「こんなに一輝君はカッコええのに」


「…………え!? そう見えるの?」


 そんな風に言われた事は無かった。だから自分がカッコいいなんて思わない。

 女子と関わるとしたら、力仕事や偽りの彼氏役ばかり。俺を連れていると、告白を断る時に上手く行く確率が高いとか。

 学生時代は常に、そんなポジションだった。彩智以外の女子から告白をされるような事は無かった。


「ウチは好きやで、一輝君みたいなタイプ」


 ニッコリと優しい笑顔を浮かべながら、リサ姉はそんな事を言う。


「ほ、ほんと!?」


 お世辞なのは分かっているさ。だけど初恋のお姉さんにこんな事を言われたら、嬉しいに決まっている。

 少なくとも恋愛対象の、隅の隅ぐらいには居られるのかな。だとしたら純粋に嬉しい。

 そんな会話を挟みつつ、俺達は注文を決めた。リサ姉は洋食のサンドイッチセット。


 俺は和食の和風ハンバーグ定食。店員さんを呼んで注文し、後は届くのを待つのみだ。

 そして今の時間を利用して、本題に入ってしまおう。悩みながら食べるより、スッキリした状態で食べたい。

 謝罪をするにしても、早く済ませておくべきだ。いつまでも引き延ばす事じゃない。


「あの、リサ姉、一昨日飲んだ時だけど……」


 この話を持ち出して、表情に変化が出るか観察しつつ話を進める。


「うん? あの時がどしたん?」


「…………俺、あんまり記憶なくて。変な事とか……言わなかった?」


 今のところ不快感を示すような雰囲気はない。ただの雑談に過ぎない空気が漂っている。


「あぁ〜言うてたよ色々と」


「えっ!? マジ!? どんな事!?」


 やっぱり言っていたか…………彩智(さち)にフラレた後、リサ姉と再会した。変なテンションになっていたから、不安要素は大きかったんだよな。

 謝らないといけないような、失言をしなかっただろうか? セクハラに該当する発言とか。

 ポロッと言い兼ねないぐらい、俺は酔っていた筈だ。記憶を無くす程に飲んでしまった。


「『リサ姉は可愛い』とか、『今でも魅力的』とか。三十路のおばさんに言う事ちゃうで?」


「…………え」


 俺そんな事を言ってたの!? いや本心ではあるけどさ、直接言うのはどうなんだよ。

 まるで口説こうとしているみたいじゃないか。彼女にフラレたその日からやる事じゃないだろ。

 青春時代を過ごす学生じゃないんだから、時と場合を弁えろよ。はぁ、やっちまったなぁ。


「ごめん何か、口説くみたいな事して」


「それはエエって。励まそうとしてくれたんやて、分かってるから」


 違うんです、それはただ心からの本音を漏らしただけです。励ます意味もそりゃあるけど、ダダ漏れの本心を垂れ流しただけです。

 今だって正直、滅茶苦茶可愛いと思っている。こんな彼女が居たら、最高だろうなと思う。

 でもリサ姉から見れば、俺はただの弟分だろう。もし俺を選んでくれるとしたら、妥協に妥協を重ねた結果だろう。


 俺よりも相応しい相手が、世の中には沢山居る。所詮俺は、社会人1年目を始めたばかり。

 とてもリサ姉を養うなんて出来ないし、そもそも高嶺の花なのだから。

 ただ1つだけ、今訂正しておきたい事がある。それだけは伝えておきたい。


「リサ姉はおばさんじゃないよ。今も25歳ぐらいにしか見えないし」


 それだけは間違いない。おばさんだなんて思わないで欲しい。リサ姉と付き合いたい男が、世の中にどれだけ居ると思うのか。


「ホンマに〜? ウチまだイケる?」


「大丈夫だって! 絶対イケるよ!」


 おばさんだなんて、卑下する必要なんて無い。まだまだ現役で通用するよ恋愛市場で。

 ほんと、引く手あまただろうな。俺なんかが混じる余地もないぐらいに。

 30歳ならまだ子供だって望めるし、リサ姉は料理が上手い。可愛くてスタイルも良い。

 これで通用しない恋愛市場があるなら、是非とも教えて欲しいぐらいだ。

 きっと結婚相談所に行けば、すぐに次の相手が見つかるよ。行った事ないから、勝手な想像だけど。


「じゃあさ、ウチらって今、恋人同士に見えてると思う?」


 まさかの質問に、俺は明確な回答を持ち得ない。リサ姉と俺が、彼氏彼女に見えるか?

 間違いなく俺が、リサ姉の相手として見劣りすると思うけど。

 何だろうな? せいぜいボディーガードとか、そんな感じじゃないか?


「…………レンタル怖い人を連れた、綺麗な人……とか?」


「なんやそれ〜」


 リサ姉はケラケラと笑いながら、俺の肩を叩いている。いや結構真面目な考察だったんだけどなぁ。

 恋人同士よりは、少なくともリアルな回答だったと思う。だってなぁ、それが一番現実的な見え方だろう。

 俺がもう少し、ヤンチャな感じだったら辛うじて、ギリギリそう見えなくもないだろうけど。


 そんな話をしている間に、料理が届いたので食事へと移行する。

 とりあえず先日は、リサ姉に不快な思いをさせて居なかった。それが分かったので一安心だ。

 これから2人で飲む事があっても、飲み過ぎないてやらかさないように、注意する事だけは心に誓った。

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