第56話 雫による指導
「良い一輝? セックスは何も、性的に満足するだけの行為じゃない」
今日も仕事終わりに。高嶺部長の自宅へ来ている。雫さんによる指導が、新しい段階に入った。
お互いバスタオル1枚の格好で、横並びにベッドの上に座っている。今日も雫さんの妖艶なフェロモンが、すぐ隣から漂っている。
「それは俺なりに、分かってはいるのですが……」
「もっと深く理解しなさい。セックスは大事なコミュニケーションなの」
日本は世界的に見て、セックスレスな傾向が強い国である。というのは知っている。そんなネットニュースが幾つもある。
だからこそ、俺もあまり良く分かっていない。リサ姉との慰め合いは、お互いの傷を舐め合うもの。最近は少し違うけど。
そんな関係を続けて来た中で、何となく分かった事がある。しかしそれは、感覚的な理解でしかない。
言葉で明確に説明出来る程に、何かを掴んだとは言えない。強いて言うなら、相手を満足させる事ぐらいか。
「気持ちを確かめ合う行為でもあるの。例えば私は、貴方になら触れられても良いと思っている。でも年下だったら、誰でも良いとは思っていないわ」
雫さんみたいな美女に、そう思って貰えているの素直に嬉しい。もう既に何度も関係を持ったけど、素晴らしい体験をさせて貰った。
信じられない程の快楽と、女性というものを教えられた。単なる性欲の解消だけではなく、触り方など細かい技術も教えて貰っている。
どうすれば女性が喜ぶか、気持ち良いと思えるか。がむしゃらに頑張るだけが、気持ちの良いセックスではないと知った。
スローペースなソフトな繋がり合いでも、得られる快楽はある。相手を満足させる事が出来るのだと理解した。
「貴方も私を不快に思っていない。単なる上司として接してもいない。オバサンだとも、思っていない」
「え、ええまあ。その通りです」
そうやって全部伝わるのが、良いセックスなのだと雫さんは言う。お互いに信頼し、尊重し合える関係でしか出来ない行為なのだと。
「それに一輝は、余計な嘘を吐かないわ。必要性のない嘘は、邪魔なだけなの。真っ直ぐに気持ちを交換する。それこそが大切」
ただ目の前の相手に集中して、快楽を蓄積していく。そうした先にある、最高の瞬間を迎える為のセックスなのだという。
相手を思いやっているかは、行為の全てに出るらしい。自己中心的なセックスは、相手が満足出来ないそうだ。
それは何となく分かる気がする。自分だけが気持ちよければそれでいい、なんて考えていたらダメだろうな。
雫さんの時だけじゃなく、リサ姉が相手であっても常にそうだ。快楽だけに流されそうになるのを、どうにか耐えている。
結構大変だけど、ギリギリなんとかなっている――と思いたい。少なくとも、相手のリアクションはしっかり見ている。
「ある意味、相手への思いやりが一番出る行為だと思うわ」
「な、なるほど」
何となく分かったつもりになっていた俺とは、あまりにも視座が違う。これまでも感じていたが、やはり経験豊富な女性の余裕がある。
恋愛もセフレとしての関係も、俺とは比べ物にならないだけの経験を積んでいるのだ。俺とは大きな差があって当然だろう。
だからこそ、教えを請う相手として最高の相手でもある。俺みたいな恋愛初心者が、立派な男へと成長する為。
リサ姉をちゃんと愛せるように、満足させられるように、そしてつまらない男と思われない為に。足りない部分を補わなくては。
「さあ――その事を忘れないように、今日もやってみなさい」
「え、ええ」
あくまでも丁寧な触れ方、強引すぎないソフトな接触。軽く唇が触れるだけのキス。凄くいい香りが鼻腔をくすぐるが、焦ってはいけない。
相手が超の付く魅力的な女性だというのは、最初から分かっている。下心に任せて暴走しないよう、教わった事を実践していく。
大きな胸に優しく触れる。いきなりデリケートな部分には触れない。あくまでこれから触れますよ、という相手に示すサインだ。
「そう、上手よ一輝」
いきなりフルスロットルで、というセックスも時には良いらしい。ただそれは、事前にそれだけ盛り上げておく必要がある。
普通に始まった時は、少しずつ女性をその気にさせて行かないとダメだ。気持ちを高ぶらせるだけの、事前準備はとても大切。
適当に準備を進めて、自分だけ満足して終了ではいけない。相手のリアクション、表情や雰囲気を見ておく必要がある。
何より女性によって、好きな行為は微妙に違う。雫さんとリサ姉では、好む前戯が違っている。一番好きなポイントも当然違う。
例えば雫さんは、手で触れられる方が好みだ。だがリサ姉は、口でされる方を好む。相手に合わせて、何をするか決める。
「今日はもう少し、強くしても良いわよ」
「う、うん。分かった」
シャワーをしたばかりの雫さんの肌は、いつも以上に瑞々しい。触れるだけで吸い付くような水気を感じる。
全身で俺を求めてくれているように感じてしまう。つい1時間ほど前は、会社でキリッとしていた女性が、今は艶めかしい姿を見せている。
その現実が俺の脳を焼いて行く。平日の夜に雫さんを抱いていると、会社での高嶺部長とのギャップがより一層興奮を誘う。
勤務先で俺だけが知っている姿。一糸まとわぬ姿で、体を震わせている美人上司。こんな甘い声を、俺だけは知っている。
「もう十分よ――来なさい一輝」
これ以上は必要ないとの表明。つまり後は、本番へと移行するだけだ。真っ白な肌を持つ雫さんを、俺は軽く抱き締めながら行為を進める。
お互いが繋がりを確かめ合うように、ゆっくりと進めていく。AVのような激しい行為は好まれない。あれはファンタジーでしかない。
相手の女性が喜べているか、不快感を示していないか。無理をさせていないか、注意を払いながらお互いを求め合う。
体位も1つだけで終わらせない。攻める側を交代したり、立っての行為を行ったり。飽きさせない工夫も忘れてはダメ。全部教わった事だ。
「だいぶ分かって来たじゃない」
「ほ、本当?」
凄まじい快楽に負けてしまわないように、必死で耐え続ける。雫さんとのセックスは、視覚的満足感だけでもかなりの効果がある。
その上で、肉体的刺激が俺を襲う。呑まれてしまいそうになりつつも、ギリギリのラインで我慢する。まだ終わりではない。
雫さんが満足してくれるまで、俺はただ彼女を抱き続ける。雫さんの性欲は、リサ姉よりも強い。半端な行為では満足してくれない。
体力が続く限り頑張り続けて俺は、満足感と達成感を同時に感じていた。最近は以前よりも、だいぶマシになったのではないだろうか。
純粋に持久力もそうだけど、満足させるだけの技術が身に着いて来た気がする。褒めてもらう機会も増えて来た。
「この感覚を忘れたらダメよ? 良く覚えておきなさい」
全てを出し切って覆いかぶさっている俺を、優しく撫でながら雫さんが労ってくれる。流石年下が好きなだけはある。こういうところで、高い母性を感じさせられる。
「ふぅ……了解です」
尽き果てかけた体力を振り絞り、どうにか体を雫さんの隣へ移動させる。流石に体のデカい俺が、いつまでも上に居たら邪魔だろう。
呼吸を整えながら、俺は隣に寝ている雫さんの方を見る。リサ姉との違いは、あくまでも純粋なセフレだという事。
行為が終わってからも、雫さんは抱き着いて来る事はない。腕を絡めたり、手を繋いで来たりしない。やはりリサ姉は……いや、それよりも。
「それでその、次のステップの件ですけど……」
「ええ、分かっているわ。明日また、よろしくね」
フッと笑みを浮かべた雫さんが、悪戯を企むような雰囲気を醸し出す。本当にこれで、リサ姉の意思は揺らぐのだろうか?




