第51話 雫さんとリサ姉の過去について
リサ姉と雫さんと共に過ごす連休。水着姿の美女2人と一緒に、ビーチで過ごしている。今は海の家で買って来た昼食を食べている最中だ。
定番とも言うべき焼きそばとイカ焼き、そして真昼間からのビール。コース料理と比べたら質素だけど、今の俺にはご馳走だ。
黒のビキニを着た雫さんと、ヒョウ柄のチューブトップを着たリサ姉が、こうして俺の目の前に居るから。
お金を払っても、こんな光景を見るのは難しいだろう。極上の美女が2人、ほろ酔い気分で笑っている。何て目に優しい光景だろうか。
同時に刺激的過ぎるので、困ってしまう要素でもあるのだけれど。贅沢な悩みを抱えながら、俺は2人と雑談をしつつ焼きそばを食べる。
「そう言えば、2人の高校時代って、どんな感じだったの?」
リサ姉の過去を少しだけ聞いた事がある。ただそれは触りだけで、詳しい話を聞いたわけではない。今なら雫さんも居るし聞いてみたい。
2人は高校時代、きっとモテただろう事は疑う余地がない。ただ分かるのはそれぐらいで、どんな日々だったのか興味がある。
「どんなって、見たまんまよ」
「え~! 雫はもっとヤンチャやったやんか」
リサ姉から雫さんの過去が語られる。リサ姉と同じく、良く教師を困らせていた生徒だったと。そうは見えないから意外だ。
良く2人で学校を抜け出して、サボっていた過去がある。ただ勉強は得意だったから、成績自体は良かったらしい。
何となくそれは想像出来る。頭が良いというのは、今のイメージとそう大きく変わらない。問題児だったのは想定外だが。
「別に授業を受けなくても勉強は出来るから、必要性を感じなかっただけよ」
「エエよなぁホンマ、ウチなんて全然勉強出来ひんかったのに」
リサ姉はまあ……勉強が苦手なのは知っている。杏奈ちゃんに教えるのを、結構苦労していたから。俺も杏奈ちゃんの宿題、良く手伝ったよなぁ。
それにしても雫さん、昔から優秀だったんだな。出来過ぎるからこそ、集団からハミ出てしまうタイプだったのか。
今と状況が似ているなぁ。こうなってしまうのは、そんなに昔からだったのか。どうやら筋金入りらしい。だから気にしていないのかな。
きっとこれまでも、そんな生活をして来たのだろう。会社で怖がられているのも、どうでも良い事なのかも知れない。
「理沙はやれば出来るのに、やらなかっただけでしょう。」
「だって勉強は好きやないし……」
2人の過去の話は、思っていたより面白い。というかリサ姉がいちいち可愛いから困る。雫さんと居ると、こんな姿も見せてくれるのか。
昔からきっと、こういう空気感だったのだろうな。俺が知る事の無かった時代の、リサ姉の姿。出会う前の話は、もっと色々聞きたい。
「部活とかはやっていたの?」
勝手なイメージだけど、ダンス部とかやっていそうなイメージがある。ギャルだからっていう、先入観ありきだけど。
「部活やないけど、雫が読モやってたで。ウチは帰宅部やったけど」
「……昔の話よ」
少し照れ臭そうに、雫さんが視線を外す。読モって、読者モデルの事だったよな? マジ? 雫さんもしかしたら、芸能人になったかも知れないのか。
納得の美しさだから、そこまで驚く事ではないけれど。詳しく聞いてみたら、リサ姉スカウトをされていたらしい。
ただ自分がモデルをやるのは乗り気になれず、断りを入れたらしい。ファッションは好きだけど、あくまで着るのが好きなだけ。
リサ姉にとって読者モデルは、やりたい仕事では無かった。ファッションを考えるのは好きだったけれど。
逆に雫さんは、読者モデルを通じてファッションの世界へ行こうとした。自分でブランドを立ち上げる夢を、当時から持っていたから。
「だけど無理だった……だから大学を出てから、普通に就職したのよ」
「ウチは行けると思ったんやけどなぁ。雫のデザイン、めっちゃ良かったし」
昔から雫さんは、ノートに自分の考えた衣装の絵を書いていたという。リサ姉としては、センスの塊だったと思っているそうだ。
雫さんは今でも暇な時に、デザインの勉強を続けているらしい。夢を完全に諦めたのではないと。資金を貯めて、リトライするつもりだと言う。
確かな目標があって羨ましいと思った。俺にはそういう夢みたいな、目指す何かが特にないから。柔道は楽しかったけど、夢にまでは昇華出来なかった。
日本代表になりたいとか、世界に挑戦しようとか、特に思わなかった。体を動かすのも、強くなるのも楽しいとは思えた。でもそれだけだ。
大人になったら、何か変わるのだろうかと思っていた。しかし何も変わる事なく、社会人になって働いている。
強いて言うなら、リサ姉と楽しく過ごせたら良いなってぐらいだ。でもそれは目標というより、ただの願望みたいな何かだ。
いつまでにどうして、どこを目指すとか、具体的な方向性は無い。あくまでも曖昧な、憧れの延長戦。それだけの事でしかない。
「羨ましいなぁ、目標があって」
「何を言っているのよ、まだまだ若いのだから」
そうは言われても、本当に何も無い。俺みたいな同世代は、多いんじゃないかな。明確な目的は特になく、働く必要があるから働く。
皆がそうするから、自分もそうしている。大学時代には、そんな同級生ばかりだった。敢えて言うなら、稼げる仕事に就きたいってぐらい。
何か目的がある連中は、専門的な分野を選んで進学して行った。だけど今更俺は何かをやりたいなんて、思う事は特にないんだよな。
資産形成ぐらいは、ちゃんと出来るようになりたいとは思うけど。必要な事だと、父さんからは言われているから。
「ちょっとお手洗いに行くわ」
「あ、ウチも行っとこう」
2人が揃ってトイレに向かう。こういう所では、女性のトイレって凄い並ぶからなぁ。男性用でも大概なのに。
「あ、じゃあ俺も着いて行くよ」
まだ食べかけの焼きそばやカップ等が、テーブルの上に乗っている。もし潮風で飛ばされて、ひっくり返ったら最悪だ。
一旦片付けて、全部クーラーボックスに移しておく。それから3人で、ビーチに設置されたトイレへと向かう。
やはりと言うか、女子トイレの列が既に見えて来た。男子トイレでも大概並んでいるのに、女性は倍どころじゃない。
暫く待つ事になるだろうけど、2人を放置するのは危険だ。ナンパや絡まれたりする可能性があるから。俺が目を光らせておかないと。
到着してから2人と分かれた俺は、男子トイレの列に並ぶ。やはりそれなりに並んでいたが、スムーズに人は流れている。
あまり長い時間待つ必要はなく、順番は進んでいき俺の番が回って来る。さっさと用を足して、俺は女子トイレの方に向かう。
「ねぇねぇ、俺達と遊ばない?」
「お姉さん達、めっちゃ綺麗じゃん」
嘘だろおい……。こんな短時間で、ナンパを引き当ててしまうのか。2人が凄い美人なのは確かだけど、こうも早く目を付けられたとは。
いや待てよ……もしかして、ずっと女子トイレの周囲で張っているのか? ある意味賢いけど、やっている事は頭が悪過ぎる。
トイレの列に並んでいる女性達から、滅茶苦茶冷たい視線を向けられているのが分かっていないのか? この調子じゃあ成功なんてしないだろう。
俺が近付いて来るのが見えたのか、リサ姉が手を振っている。軽く振り返しながら、俺は小走りで2人の下へ向かう。
「せめてこの子ぐらい、鍛えてから出直しなさい」
同じく気付いていた雫さんが、俺の右腕を捕まえて言う。でも貴女、出直して来ても相手する気ありませんよね?
「そんな貧相なほっそい体で、ナンパしようなんて甘いで」
今度は左腕に、リサ姉が捕まりながら宣言する。最後に俺がまだ何か、用があるのか聞けば終了。3人のナンパ野郎共は押し黙る。
ついでに周囲の女性達からも、クスクスという笑い声が届き始める。恥ずかしかったのか、彼らは退散して行った。




