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第5話 初恋のお姉さんとお出掛け

 一夜明けて日曜日。普段よりも早く目が覚めた俺は、着ていく服装に悩んでいた。

 4月の暖かな陽気に包まれた、爽やかな朝だ。南側のベランダからは、太陽の日差しが差し込んでいる。

 俺が暮らしているワンルームマンションは、洋室が17畳でキッチン部分が3畳となっている。

 元々あるクローゼットは小さく、服が入り切らないので簡易クローゼットを買い足した。

 不満があるとしたらそれぐらいで、特に困っている事は無い。これで家賃が7万円だから素晴らしい。


 体が大きいから、7畳ぐらいだと狭く感じる。これぐらい広いと暮らしやすい。

 物件としては、結構良いほうじゃないだろうか? 駅からそれほど遠くないし。

 買い物に困る様な事もない。駐車場も付いているから、もし車を買うとなっても困らない。

 洗面所もあるし、風呂はユニットバスだけど別に構わない。彼女を泊めるだけのスペースもある。

 まあ、その意味も失われた後だけどな。それはともかく、充実した生活を送るには十分だ。


(朝はパンで良いや)


 適当にサラダを作って、コーヒーと食パンで朝食を済ます。日持ちをさせる為に、残りの食パンは冷凍庫へ。

 さて問題は、この後リサ(ねえ)と行くお昼。どんな服を着て行こうか。

 そりゃデートではないけど、出来るなら好印象を持たれたい。

 大人の男性になったんだよと、知人にしっかりと見せておきたいのは普通の感覚だろう。

 そこに疚しい考えはない。褒められて嫌がる変わり者でもないし。


「うーん、あっ……」


 クローゼットを開けたら、先日買ったライトグレーのジャケットが目に入った。

 次に彩智とデートをする時に、着て行こうと買っておいた新品だ。

 結構良い値段だった代物で、『AT(エーティー)』という男性向け中堅ブランドの一品。

 Astushi(あつし) Takaoka(たかおか)という本家から、若い世代向けにシフトした子ブランドである。


(何だかなぁ……いやでもデザインは好きだし)


 元カノと過ごす為に買ったのも事実。だけどデザインに罪はないわけで。

 1万円で買った服を、使わないままで居るのもなぁ……。着もしないで売る程の事ではないし。

 ただなぁ……リサ姉に失礼かなとか、ちょっと考えてしまうんだよな。

 いや彼氏でもないのに、そんな事を気にしてどうするって話なんだが。


(いちいち言わなければ、分からないしな)


 さてそうと決まれば、他は何を選ぶかだ。厚着をするほどまだ暑くないし、下はTシャツで良いだろう。

 同じブランドで以前から持っていた、ピンクの文字入りTシャツをチョイス。

 そして下は別ブランドのジーンズに決定。シワが付かないよう、ベランダ(そば)のベッドに乗せておく。

 まだ朝の8時で、約束の時間は11時半だ。微妙な空き時間が出来てしまった。

 本来は9時に起きる予定だったのに。仕方がないので、掃除や洗濯を軽く済ませる。


 それでも時間が空いたから、筋トレをやる事にした。柔道は辞めたけど、体が鈍るのは嫌だ。

 定期的な筋トレを、今も欠かさず続けている。鍛えておいて損はないしね。

 良い感じに筋肉への負荷をかけられたし、シャワーを済ませれば時間も潰れる。

 そろそろ約束の時間になるから、着替えてお気に入りの香水を使用する。

 洗面所でワックスを使い髪型をセット。ペタンと寝ていた髪を、軽く上げていつものスタイルに。


「これで良し」


 ヒゲは剃ってあるし、化粧水も塗ったから肌の状態もオッケーだ。

 ジーンズのポケットに長財布を入れ、小物が入った小さめのショルダーバッグを背負う。

 11時28分、少し早いけどまあ大丈夫かな。スニーカーを履いて家を出て、隣にあるリサ姉の家に。


(東雲(しののめ)……? あっ、離婚したからか。リサ姉の旧姓は東雲っていうのか)


 初めて知ったリサ姉本来の姓を知り、何だか少し嬉しかった。知らなかった面を知れたというか。

 まあそんな事は後で良い。今からリサ姉と出掛けるのだから。

 呼び鈴を鳴らすと、聞き慣れた関西弁が聞こえた。リサ姉がもうすぐ出て来る。


「おはよう、一輝(かずき)君」


 ……………………俺はすぐに挨拶を返せ無かった。だって私服姿のリサ姉が、あまりにも可愛すぎたから。

 いつも通り金髪のショートカットは変わらない。だけどそれ以外がいつもと違っている。

 上はワインレッドの袖付きオフショルダーシャツ。下はブルーのダボッとした、スウェット生地のパンツ。


 厚底のサンダルも含めて、全てがとても似合っている。それに何より、昨日までと違いガッツリメイクをしている。

 マスカラで強調された睫毛、丁寧に引かれたアイライン。リップは綺麗なピンク色。

 いつもは剃った眉毛をそのままにしていたのに、今日はしっかり眉を描いている。


「どないしたん?」


 不思議そうに、リサ姉は俺を見上げている。慌てて俺は反応を返す。


「あ、いやその、今日はオシャレだなって」


「せやろ〜! もうお1人様やからさ、またファッションを楽しもうかなって(おも)てん」


 ほぼ素っぴんでもクッソ可愛いのに、これは流石に反則だろう。育児優先だったリサ姉は、昔からメイクは薄めだった。

 ここまで完璧に仕上げた姿は、もしかしたら初めて見たかも知れない。

 と言うかこれで30歳って、もはや年齢詐称だろ。どう見ても俺と大差ない年齢にしか見えないぞ。


「どうどう? 似合っとる?」


「…………すげぇ可愛いと思う」


 思わず本音が漏れてしまった。もう少し言い方があっただろうが。


「も〜! お世辞言うても奢らへんで!」


 いやお世辞じゃないんだけどな。俺が知る限りで、今のリサ姉より可愛い女性を知らないぞ。

 芸能人でも、そう簡単にこのリサ姉は超えられない。元々可愛いけど、今日は破壊力が尋常じゃない。

 こんな人が子供の頃から側に居たのだから、初恋をしても仕方ないよな。

 そうは居ないだろ、このレベルの美女を知っていて惚れない男子は。


「それより行こうや、予約してあるんやろ?」


 そうだ、リサ姉に見惚れている場合じゃない。今からオススメの店に連れて行くんじゃないか。


「そ、そうだね! 案内するよ」


「一輝君のオススメ、楽しみやわぁ」


 ニコニコと笑っているリサ姉は、あまりにも魅力的過ぎる。鼻の下を伸ばさない様にしないと。

 下心があって誘ったのではなく、酔って失礼な事を言わなかったか聞き出すのが目的だ。

 何の為にこんな事をしているのか、忘れてはならない。リサ姉とデートをするのではないんだ。

 でも本当に、なんで高田さんはリサ姉を裏切ったのだろうか? こんなにも最高の女性だというのに。


「仕事はどうなん? 上手く行ってる?」


「ああうん、今の所は。上司がちょっと、厳しい人っぽいけど」


 上司が如何にもキャリアウーマンな、ピリッとした雰囲気の女性だ。

 物凄い美人だけど、上手くやっていけるかなぁ。まだあんまり接点がなくて、人柄は良く分からない。

 ただ指示を出す姿や、ミスをした人への対応を見る限りは厳しそうなイメージだ。

 意思の強い女性はリサ姉で慣れているから、そういう意味では多分大丈夫だとは思う。

 全く合わないという事は…………多分ないと思いたい。1年目から上司に嫌われるのは勘弁だ。


「なんや、女の人なん? 鼻の下伸びてんで」


 ニヤニヤと笑いながら、リサ姉がからかって来た。


「ち、違うって! これはリサ姉が……いや何でもない」


 単にリサ姉の方が好みだなと、改めて確認していただけだ。上司に鼻の下を伸ばしたのではない。

 確かに綺麗な人だけど、今日のリサ姉を見たら認識が変わった。

 初恋ブーストは否めないにしても、やっぱりこの人が最高に可愛い女性である事は変わりない。

 こんなに魅力的なのだから、リサ姉は再婚をするのかな? 今度は裏切らない人と、結ばれて欲しいな。

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