第47話 目的の変化
高嶺部長と2時間の休憩を挟んでから帰宅すると、リサ姉が俺の家で待っていた。やっぱり待たせてしまったよなぁ。
一応ラブホテルを出てからは、連絡を入れておいたんだけどな。普段から2時間もズレれば流石にな。
「あの……ごめんリサ姉。連絡が遅れて」
「どうせ雫が連絡させへんかったんやろ? 雫はそういう事するタイプやし」
実際その通りなのだけれど、俺も逆らえなかったからな。流されてしまったのは俺の責任だ。全部が高嶺部長のせいではない。
だから申し訳ないと思っている。これからは曜日を固定するから、こんな事は起きないと思うのだけれど。
それにしても、本当にリサ姉はいつもと変わっていない。本当にリサ姉は俺を好きなのか? だとしたらこの反応は変だ。
あまりにも嫉妬心を感じない。怒っている様子も見られない。もし俺だったら、もっと気にしてしまうけどな。
高嶺部長から、リサ姉は恋愛関係だと頑なだって聞いている。だからこういう反応なのだろうか? 良く分からない。
「夕食はウチが作っといたから、はよ食べよう」
「う、うん」
どこからどう見ても、不満を感じているようには見えない。リサ姉が怒っている時は、ストレートに表現する。
彩智が怒った時は察しろと言われて来たけど、リサ姉はそうじゃない。察するまでもなく怒りを見せる。
だから怒ってはいないと思う。そもそも高嶺部長と関係を持つよう、俺に進めたのはリサ姉だしな。
怒られたら理不尽な話ではあるんだけど……こうも無反応だと自身が無くなる。やっぱり俺は、好かれていないのか?
高嶺部長が都合の良い関係を続ける為に、俺を騙しているとか? でもそんな事をする意味って、あんまり無いよな。
「雫を好きになれそう?」
「えっ? いや……どうかなぁ? 綺麗な人だとは思うけど」
どうしてそんな事を聞くのだろう。そんなに俺と高嶺部長を、くっつけたいのかな? でも高嶺部長は、交際する気がないと言っていた。
分からない、2人の交際しない宣言の真実が。高嶺部長は恋人が要らない、リサ姉は俺と付き合う気がない。
どちらも同じ事を言いながら、俺と交際をさせようとしている。リサ姉は俺と高嶺部長を、高嶺部長は俺とリサ姉を。
女性経験が少なすぎる俺には、2人の狙いが全く分からない。どうなって欲しいのかな? 1回聞いてみよう。
「リサ姉はさ……その、俺と高嶺部長にくっついて欲しいの?」
「ウチと違ってバツ無しやし、収入もしっかり有る。雫は年下好きやし、丁度エエやん。ウチも雫やったら、安心して任せられるし」
やっぱり、そう思っているのか。どうしてそんな風に思うのだろうか。バツイチのイメージが悪いのは分かる。
大体の親なら、自分の子供がいきなりバツイチと結婚するとなれば、それなりの抵抗感があるだろう。あまり良い顔はしないと思う。
だけど本人が幸せだったら、それで良いのでは? と俺は思ってしまう。まだ親になっていないから、そう思えるだけかも知れないけど。
俺にも子供が出来たのなら、理解出来る感覚なのかも知れない。少なくとも年齢差については、俺にも理解出来ている。
まだ12歳の杏奈ちゃんを、俺は恋愛対象に見ようと思えない。俺とリサ姉の年齢差は8歳だけど、10歳差と8歳差に大きな違いはない。
年下好きの高嶺部長なら、俺を恋愛対象に出来るのかも知れない。だけどリサ姉は、特別年下好きというわけではない。
俺の事を結構タイプだとは言ってくれるけど、それだってどこまで信じて良いのやら。ただ慰める為に、言っているだけかも知れない。
だって俺達は、失恋の傷を舐め合う者同士だ。相手が傷付いていると知っているのに、慰めない筈がない。
相手を褒めたり優しくしたりして、今日まで慰め合って来た。だからと言って、本当に心から好きかは別の話だ。
お互いの傷に、塩を塗るような事はしない。温かな言葉を投げ合う為に、こんな関係を続けているだけで。
「……俺は別に、リサ姉が居てくれれば十分だけど」
「そんなんアカンて。まだ若いんやから、時間を大切にせなアカンよ。こんな結婚に失敗した女と、いつまでも居るもんちゃう」
言いたい事は分かるけど、そうまで頑なになる必要はないと思う。結果的に失敗だったかも知れない。だけどそれは、リサ姉のせいじゃない。
相手の不倫が原因だったのだから、リサ姉に落ち度はない。ちゃんと母親をやっていたのだから。俺の母親とは違って。
ただリサ姉が、自分に自信を持てない気持ちは俺も分かる。だって俺も、今彼女が欲しいかと言われると微妙だ。
リサ姉が俺を好きだと高嶺部長から聞いて、舞い上がってしまったのは否めない。今更だけど、いざ付き合うとなれば悩んでしまう。
果たして俺にリサ姉を幸せに出来るのか? また彩智のように、数年すればつまらない男と思われないか? どうしても不安になる。
俺は一生懸命に、彩智の為を考えて行動して来た。好きだったのも本当だし、そこに偽りはない。だけど……上手く行かなかった。
相手がリサ姉に変わったから大丈夫なんて、一体誰が保証出来るというのか。俺は自分自身が、全く信用出来ていないのに。
それにどんな夫婦だって、最初は上手く行くと思って結婚した筈だ。でもリサ姉みたいに、離婚してしまう。俺の両親だって離婚した。
「ウチの事は、次へ行く為の踏み台やと思ってくれたらエエから」
「踏み台って……そんな言い方あんまりだよ」
どうしていつもそうやって、自分の事を悪く言うのか。オバサンだとか踏み台とか、あんまりそんな風に言って欲しくない。
そもそも俺はそんな風に思っていない。何だろう、少しイライラして来た。こんなリサ姉を、俺は見ていたくない。
魅力的な女性だって、ちゃんと分かって欲しい。俺が初恋をしたお姉さんは、今も輝いていると証明したい。
じゃないと俺は納得出来ないよ。だって俺はこんなにも、リサ姉に女性としての魅力を感じているのだから。それだけは、分かって貰わないと。
「ちょっ!? 一輝君!? 雫として来たんちゃうの!?」
「リサ姉が分かってくれないから、俺が教えてあげるよ」
食器を片付けようとしていたリサ姉を、後ろから抱き締める。こんなに良い匂いのする女性が、オバサンなわけない。
ただ触れているだけで、頭がおかしくなりそうな程興奮出来る。これほど素晴らしい女性を、踏み台になんて出来ないよ。
高嶺部長とセックスをして来たばかりでも、俺は際限なく興奮する事が出来る。リサ姉が相手であれば、どんな時でも。
初恋をした俺の過去の気持ちは、今も忘れてはいない。凄く美人で、とても可愛くて。同級生にはない魅力が溢れていた。
それは今も変わらない。リサ姉程の魅力を持った女性は、高嶺部長ぐらいしか知らない。それぐらい希少な存在だ。
リサ姉の代わりなんて、俺は求めていない。もし次の恋愛をするなら、俺はリサ姉が良い。高嶺部長ではない。今、強くそう思った。
「リサ姉、俺決めたよ。次誰かと付き合うなら、俺はリサ姉が良い」
「そ、そんなんアカンって……まっ……ちょっ……一輝君……」
俺は必死でリサ姉を抱きながら、宣言をする。次の恋愛を、リサ姉以外とはやらないと。俺じゃあ、リサ姉を幸せに出来るかは分からない。
俺では相応しくないかも知れない。でも誰かを好きになるなら、その相手はリサ姉が良い。他の誰かでは、満足出来そうにないから。
リサ姉とのセックスが気持ち良いからじゃない。もし自分が次に恋愛をするなら、俺はリサ姉しかもう考えられなくなっていた。
それが許されないなら、ずっと体の関係でも良い。リサ姉が俺以外を選ぶなら、その時は仕方がない。潔くリサ姉の幸せを願おう。
だけどもし本当に、高嶺部長が言う通りになるなら。その時は俺も、腹を括ろうと思う。リサ姉が俺を、本当に好きだというなら。
恋愛でまた失敗をするのは怖い。同じ結果になったら、多分俺はもう立ち直れない。だけどまた頑張るのなら、その相手はリサ姉が良い。
リサ姉の為に頑張って、朽ち果てるのなら本望だ。だから俺は、もっと恋愛や女性について学ぶ必要がある。今の俺ではまだ力不足だ。
高嶺部長の本心は分からないけど、頼って良いという言葉を信じよう。リサ姉と高嶺部長、2人から女性についてしっかり学ぼう。
今日から俺の目的は少し変わった。リサ姉との関係は、傷の舐め合いだけじゃなくなった。もうそれだけではない。
リサ姉の決定を覆らせる。付き合わないという選択を、一度リセットさせてやる。それから改めて、俺達はどうしたいのか話し合おう。




