第42話 何の為の関係であるのか
高嶺部長に上手く言いくるめられた感は否めない。だが既に高嶺部長はシャワーを浴びに行った後だ。
やっぱり今から帰りますというのも、それはそれで失礼な気がするし。もう高嶺部長はそのつもりみたいだし。
凄く光栄ではあるけれど、いざとなると二の足を踏んでしまうというか。本当に良いのか? という思いは消えない。
悩んでいる内に高嶺部長は風呂場から出て来て、次は俺の番となった。流れでシャワーを浴びるけれど、どうも考えが纏まらない。
武士は食わねど高楊枝……じゃない据え膳食わぬは男の恥、だっけか? ここまで来て引くのもダサいだろうか?
俺はリサ姉と付き合っていない。だからこれは浮気じゃない。2人の女性がどちらも納得した上での行為。
それは分かっているけど、ついこの前まで童貞だった俺には急展開過ぎる。どうしてこうなったんだ本当に。
元ヤンギャルだけど可愛い美人なリサ姉と、クールでカッコイイ仕事の出来る元ギャルな高嶺部長。
普通に考えたらこんな高嶺の花達と、セフレになるなんて有り得ない。どんな幸運が舞い込んだ結果なのだろう。
そして浴び終わってしまったシャワー。念入りに洗ったつもりだけど、これで大丈夫だろうか。
「あ、あの、シャワーお借りしました」
「じゃあこっちに来て頂戴」
リビングに戻ると、バスタオル1枚を巻いただけの高嶺部長が待ってした。その後に続いて俺は寝室へと入る。
美人上司の寝室なんて、入るだけで緊張してくる。毎日高嶺部長が寝ている部屋に俺は居る。
とても良い匂いがするのは、高嶺部長の香りなのだろうか。玄関から入った時以上に、スズランに似た香りがしている。
リサ姉の甘い香りとはまた違っている。正直どうにかなりそうだが、グッと堪えてベッドに座る高嶺部長の隣に腰を下ろす。
「緊張しているのかしら?」
「そ、それもありますけど、本当に……良いのかなって」
今更なのは分かっているけど、どうしても気になってしまう。俺はこのまま、高嶺部長とも関係を持って良いのかと。
1人セフレが居るのと、2人居るのではまた違うだろう。浮気とは言わないだろうけど、軽薄な男みたいで少し嫌だ。
これぐらい世間じゃ普通なのかも知れないけど、俺の常識には無かった在り方だ。どうしても悩んでしまう。
「難しく考えなくて良いのよ。一輝が今より上手になれば、理沙だって喜ぶわよ」
「た、高嶺部長……」
スッと高嶺部長が距離を詰めて、熱烈なキスをして来た。リサ姉とはまた違った唇や舌の感触。人によってこうも違うのか。
高嶺部長から漂うのは、濃厚なフェロモンなのだろうか。信じられないぐらい興奮している自分がいる。
まるで絡新婦の巣に捕まって、喰われるのを待つだけの獲物になった気分だ。心拍数がどんどん上がって行く。
「こういう時ぐらい、名前で呼ぶものよ」
高嶺部長の熱い視線が、その表情があまりにも妖艶で脳が蕩けそうだ。男漁りをしていたというのは、きっと本当なのだろう。
気に入った男性達を、こうやって虜にして来たのだろう。こんなの俺だって、どうにかなってしまいそうだ。
さっきまで考えていた事が、全部吹き飛んでしまった。高嶺部長の事しか考えられなくされてしまった。
「し、雫……さん……」
「さあ、楽しみましょう一輝」
元から候補だった、好みだったというのは本当なのだろう。高嶺部長は見た事もない程に楽しそうだ。
まるで最後まで取っておいた、好物のケーキでも食べるみたいに迫って来る。俺の知らない高嶺部長のもう1つの顔。
艶やかな裸体を晒し、高嶺部長は俺をベッドに押し倒す。リサ姉に負けず劣らずの細い腰、肉付きの良い臀部や太もも。
そしてかなりのボリュームを持った胸が、俺の目の前に2つ並んでいる。大きいとは思っていたけど、これはリサ姉クラスだ。
「まだ理沙しか経験がないのでしょう?」
「は、はい。そうです」
「なら教えてあげるわ。私が色々とね」
ペロリと唇を舐める高嶺部長は、完全に喰らう側の表情になっていた。俺はもう高嶺部長の事しか頭にない。
激しく意識させられて、目の前に広がる肌色しか追えない。高嶺部長が楽しそうに俺を喰らう姿を眺めている。
人生で2人目となった俺の女性経験は、2回目も大人の女性に性というモノを教え込まれた。AVなどでは味わえない、本物の大人の魅力。
性的な満足だけを追い求める高嶺部長の姿は、エロいなんて言葉では表現し切れない。普段クールな女性が見せる、隠された姿。
ただ勢いに流されるまま、高嶺部長は俺と何度も肌を重ねた。俺はセックスという行為を、まだ良く分かっていなかったと知った。
「あら、まだ出来るのね」
「体力はその、結構自信あるので」
似た事をリサ姉からも言われたなと、肉体関係を持ち始めた頃の事を思い出す。あれから俺の生活は、大きく変わってしまった。
「こら。今理沙の事を考えていたでしょう?」
「えっ!? いやその……すいません」
何で分かったんだと困惑している俺に、彼女は微笑みながら覆い被さる。今は私だけを見ていなさいと言いながら、俺は高嶺部長に喰われる。
昼過ぎぐらいから始まった高嶺部長との行為は、俺が出来なくなるまで続いた。精根尽き果てた俺は、汗だくで寝転んでいる。
隣にいる高嶺部長は、まだまだ余裕がありそうだ。女性は何度も出来るらしいけど、男性には限界が存在する。
まさかここまで高嶺部長は、激しいセックスをする人だったとは。ある意味で恐ろしさを思い知らされた。
男漁りとセフレを必要とする理由が良く分かったよ。確かにこれなら、お相手が出来る男性を厳選する必要があるだろう。
「2人目にしては上手かったわよ。理沙に良く仕込まれたのね」
「自分では良く、分かりません」
セックスが上手いかどうかなんて、俺には判断しようがない。今日初めて人生で2人目の女性を抱いた。喰われたが正しい表現だけど。
ただリサ姉が他の女性も知った方が良いと言った理由も、今なら少し分かる気がする。人によって、全然違うと分かったから。
どうされるのが好きとか、どんな体位が好きだとか。リサ姉と高嶺部長だけでも、全然好みが違っている。
望む触られ方も違うし、あまり好きじゃないやり方も全然別物。実際に体験するのと、知識だけ知っているのは違う。
女性の扱い方を学ぶという意味では、良い経験になったとは思う。他人に自慢出来る経験ではないけれど。
「どう? 私とも続ける気になった?」
高嶺部長が俺の胸元を撫でる。少し冷たい掌が、汗だくの俺には丁度良い。さて、どう答えたものだろうか。
「嫌、ではないです。光栄です。だけど、やっぱり悩ましいです」
このまま高嶺部長とも、セフレの関係を続けて良いのか。続けて何の意味があるのか。そこを良く考える必要がある。
さっきまでは高嶺部長の事しか考えられなかったのに、今は冷静に考える余裕が生まれている。これが世に言う賢者タイムか。
それとも高嶺部長が加減をしてくれているから、考える余裕が生まれたのか。どちらなのか俺には分からない。
「このまま続けたら、きっと理沙は嫉妬するようになるわ。間違いなく我慢出来なくなる筈よ」
「……本当、なんですよね?」
リサ姉が嫉妬をするぐらい、本当に俺を想ってくれているのだろうか。付き合わないという宣言を、覆す事が出来るのだろうか。
もし本当にそうであるのなら、俺も色々と考えたい。初恋を実らせる気があるのか、ただ憧れているだけなのか。
傍観者としてリサ姉が幸せになる所を見て居たいだけなのか、俺自身がリサ姉を幸せにしたいのか。そこを間違えてはいけない。
はき違えて、ただの憧れを愛だと思ってしまったら。俺自身が大切な人を傷付ける側に回ってしまうかも知れない。
そうならない為にも、色んな事を知る必要がある。自分の気持ちはもちろん、リサ姉以外の女性からも、機微を学びたいと思う。ちゃんと、俺の意思として。
「頼っても、良いんですか?」
「ええ。だって理沙は昔からの友人で、貴方は私の部下なのだから」
俺は高嶺部長の提案を飲む事にする。決して褒められた関係ではないだろう。だけど俺は、出来る事は何でもする。
リサ姉を幸せにするのは俺か俺以外か、俺がどうしたいのかを見極めながら。俺はこれから、上司とも関係を持つ。




