第38話 2人の美女とお酒を飲む
俺は今、2人の麗しい女性と食事を共にしている。1人はいつも通りリサ姉で、もう1人は会社の上司である高嶺部長だ。
どうやら2人は中学時代からの親友らしく、昔からとても仲が良かったそう。
片や金髪ショートのギャル系お姉さんなリサ姉と、真逆を行く黒髪ロングのクールな高嶺部長。
タイプは全然違う2人だが、今でもたまにお酒を一緒に飲む仲だったらしい。まさかの繋がりにビックリだ。
「リサ姉と高嶺部長って、全然タイプが違うのに……」
リサ姉はどちらかと言えば学校をサボるタイプで、高嶺部長は委員長タイプに見える。あくまで俺のイメージだけど。
「何言うてんの? 雫も昔はバリバリのギャルやったで?」
「えっ!? 嘘でしょ!?」
俺は驚いて高嶺部長の方を見る。どう見てもギャル系には見えない。真面目でクールな女性だと思っていた。
だがリサ姉は、かつて高嶺部長がギャルだったと言っている。俺の視線を受けて、高嶺部長は目を逸らした。
まさか本当だと言うのか? 会社では超の付く真面目で、冷静な上司をやっているのに。
学生時代は結構なヤンチャをやっていたのだろうか? 駄目だ……今までのイメージと違い過ぎて、脳が混乱している。
「ちょう待ってや…………ほら、これが高校を卒業した日のウチら」
リサ姉がスマートフォンの画面を見せる。そこには校門前で立っている2人の姿が写っていた。
何と言えば良いのだろう。上司の過去を知ってしまって非常に複雑だ。写真に写る高嶺部長は、どう見てもギャルだ。
髪は染めていないが派手なギャル系メイクで、スカートの丈が異様に短い。そして、ダボダボのルーズソックス。
この頃なら絶対に校則で禁止されていたであろう、ピアスもしっかり空けている。今の姿からは想像も出来ない。
そしてこの頃から、2人ともとんでもない美少女だったらしい。同級生だった当時の男子達が羨ましい。
「ちょっと理沙、やめてよ」
「ええやん別に。隠すことちゃうやんか」
部下に自分の過去をバラされたのが恥ずかしいのか、高嶺部長は少し顔が赤い。確かに衝撃的ではあるけど、恥ずかしがる事ではない。
昔から綺麗な人だったんだなと思ったぐらいだ。イメージは崩れてしまったが、悪い印象は全くない。
どんな学生時代を送っていたのか、むしろ聞きたくなったぐらいだ。2人はどんな高校生だったのだろうか。
「間島君、この事は忘れなさい」
高嶺部長が俺の目をしっかり見ながら、見なかった事にしろと圧を掛けている。そう言われても、インパクトがあり過ぎた。
「そう気にしなくても良いのでは? この頃から綺麗な女性だったみたいですし」
昔は太っていたとか、垢抜けていなかったとか。そういう写真なら隠すのもまだ分かる。だけど過去の高嶺部長はそうじゃない。
自慢しても良いぐらいに、2人共とても美しい。無かった事にしてしまうのは勿体ない。
学校でミスコンとかあったら、絶対2人でワンツーフィニッシュを決めていただろう。あったかどうかは知らないけど。
「……理沙、間島君って、プライベートはこういう感じなの?」
「そうやで。急に来るから困るやろ?」
何故俺の話を? 2人で何か分かり合っているみたいだけど、俺には全く分からない。説明を求めたいところだ。
だけど2人の世界に入っていて、全然ついていけない。一体俺が何だというのだろうか。
「間島君……貴方、女遊びをする子だったの?」
「えっ!? そんなわけないでしょう!」
どうしてそんな話に? 俺の女性経験は片手も埋められない程度だ。指が2本あれば足りてしまう。
既にフラれた後の彩智と、最近肉体関係を持ったリサ姉だけだ。リサ姉は恋人じゃないし、女性経験に入れて良いのか怪しいけど。
そんな俺が女遊びなんて、出来る筈がない。最近まで童貞だったぐらいで、浅い経験しか積めていない。
遊べる程の余裕はなく、女心なんて全然分かっていない。どうやってこれで女性と遊べばいいのか。
「違うの? だって理沙は、最近離婚したばかりでしょう? それなのに……」
「あ~ちゃうねん、一輝君は昔から知ってる子やねん。ほら、何度か話した事あったやろ? 隣の家に住んでる男の子の話」
どうやら高嶺部長は俺がリサ姉と、古い知り合いだった事を知らなかったらしい。それでラブホから出て来たから、勘違いをしたのか。
俺がマッチングアプリか何かで、リサ姉と出会ったと考えた。そういう事だったのか……余計な誤解をさせてしまったな。
女遊びなんて、俺は興味がない。そしてリサ姉とは遊びの関係でもない。傷の舐め合いをする仲間みたいなもの。
どちらかに恋人が出来たら、終わりになる関係。立ち直るまでの埋め合わせをしているだけだ。
傍から見れば遊びに見えるかも知れないけど、俺達の積み重ねて来た過去はそんな浅いものじゃない。
「……ああ。あれって、間島君の事だったのね」
「そうそう。昔からよう頑張ってくれてた子やねん」
「待って? リサ姉、俺の話してたの?」
知らない所で俺の話が、高嶺部長へ届いていたらしい。どんな事を話していたのだろうか。内容次第では黒歴史だぞ。
リサ姉に褒めて貰いたくて頑張った事とか、話を盛って伝えていた事とか。どれもガキの浅知恵だらけだ。
特に中学時代の俺は随分と張り切っていた。リサ姉の笑顔が、俺にとっての勲章だった時代だから。
叶わない恋と知りながらも、必死になっていたあの頃。あまり知られたくない俺の過去。初恋のお姉さんとの話。
「凄くエエ子がおるって、ちょいちょい雫に話してただけやで?」
「ほ、本当に? それだけ?」
高嶺部長の過去と違い、俺の過去については自慢出来る要素がない。ただ気に入られようとしていたガキの話だ。
隣に住む美人で可愛いお姉さんに、必死でアピールしていただけ。恥ずかしい要素なら幾らでもある。
本当にリサ姉が話していたのがそれだけなら、特に俺から言う事は何もないけれども。
むしろ余計な墓穴を掘りかねないから、これ以上の言及は避けた方が良いまである。やぶ蛇だけはごめんだ。
「ホンマやって。ウチが一輝君の事を悪く言うわけないやん」
「……そりゃあそうか」
リサ姉が高嶺部長に対して、俺の変な話をするメリットなんてない。そもそも最近まで、高嶺部長は俺を知らなかった。
知らないガキの話で盛り上がるのは難しいだろう。リサ姉の言うように、ちょっと話題に出た程度なのかな。
「じゃあ間島君が今の彼氏なのね。良いわねぇ、そういう恋も。昔から知っていた男の子なんて素敵じゃない」
高嶺部長はそう判断したらしく、ニコニコと笑っている。それは誤解だ。俺達は付き合っていない。
2人でラブホから出て来たのは、恋人だからではない。都合の良い相手、一言で言えばセフレだ。
ただ俺からその話をするのは言い出し辛く、リサ姉の様子を窺う。するとリサ姉は、俺を見て頷いた。
新しく届いたビールを飲み始めた高嶺部長に向かって、リサ姉は真実を話始める。
「ちゃうねん雫。ウチら、付き合ってはいないねん」
「……え? じゃあさっきのは……」
全てを語らなくても、高嶺部長は察したらしい。俺とリサ姉の関係性について。恋人でもないのに、ラブホから出て来る理由。
ここに居るのは何も知らない学生ではなく、良い歳をした大人だけ。どういう意味かは、敢えて言うまでもない。
個室の居酒屋だったから出来る話で、あまり表立って表明する内容ではない。褒められた関係でないのは分かっている。
「理沙はそれで良いの?」
それは親友としての言葉なのだろう。酒の席でありながらも、高嶺部長は真剣なトーンで聞いている。
「エエんやこれで。ウチの寂しさを埋めて貰ってる。一輝君は適任やねん」
そう、とだけ高嶺部長は答えた。以降は特に真剣な空気が生まれず、普通の飲み会が続いて行った。
親友とセフレになった部下を、高嶺部長はどう思っているのだろう。俺にはとても、聞く勇気が持てなかった。




