第34話 高嶺部長と飲むお酒
章設定を入れ忘れていました。ここから2章開始です。3章で完結の予定です。
社会人生活目3ヶ月ちょい。それなりに慣れて来たのではないかと思う。
俺が就職したのは、株式会社田邉物産という大手食品流通企業である。
東京に本社があり、22歳の俺でも手取りは20万円を超える。
週休2日制で土日は休み。祝日も基本的にはカレンダー通りで、ブラックとは程遠い。
社風は穏やかで、特にパワハラなどはない。変な根性論を押し付けられる事もない。
かなり良い就職先だったと思う。地方でこんな好条件は、そう簡単に就職出来ない。
順調に仲の良い同期は増えていき、上司や先輩とも良好な関係を築けている。
それ自体は良い事だと思うし、俺としてもありがたい限りではある。
あるのだが……どうしてこうなったのかと。いや本当に悪い事じゃないのだけども。
ただその……こんな状況をどう判断すれば良いのだろうかと。
今俺は、会社の美人上司と2人で居酒屋に居る。高嶺雫さん、我らが営業部の部長。
常に営業成績はトップを維持。取引先からの信頼度はかなり高い。
まさにキャリアウーマンという言葉が似合う、魅力的な30歳の女性。
腰まである長い髪はいつも艷やかで、シャンプーのCMに出演出来そうなレベル。
クールで厳しそうに見えるけど、面倒見は良くて優しい頼れる上司だ。
俺が入社して間もない頃から、教育係を担当してくれた。そのお陰か、大和撫子とも言うべき美人と、仲良くさせて貰っている。
とても光栄な話であり、感謝すべき状況であるのは間違いない。
俺にとって初恋の女性であるリサ姉こと、東雲理沙とタメを張れる超絶美人と酒を飲んでいる。
どうしてこうなったのだろう。今俺は、美人上司のプライベートを垣間見ている。
「間島君は、良く誰かとお酒を飲むのかしら?」
「そうですね、知り合いと良く飲みます」
実際はセフレなのだが、この場では濁しておく。流石にイメージが良くないだろうし。
男性ならあまり気にしないかも知れないが、高嶺部長は女性だ。セクハラになりかねない。
「羨ましいわね。私はいつも1人だから」
「えっ!? 高嶺部長、既婚者じゃないんですか?」
こんなに魅力的な人だから、てっきり結婚していると思っていた。
子供が居ても全く違和感はない。というか、今のもセクハラになるのか? やってしまったかも知れない。
「……それ良く言われるけど、私はあまり結婚願望がないのよね」
「あ、す、すいません。勝手に決めつけて」
そうだよな、今は結婚が全ての時代じゃない。綺麗だから結婚しているなんて、偏見も甚だしい。
見た目だけで判断されるのを嫌う俺が、ナチュラルにそんな事を考えていたのは駄目だろう。
俺は刑事をやっている父親に似て、ガタイが良くて強面なせいで良く勘違いされた。
何もしていないのに、怖がられた経験は何度もある。大きいというのは、それだけで圧力があるのだ。
でもそれだけで、俺が怖い人だと思われるのは心外だ。ただ発育が良かっただけ。
第一印象だけで判断される辛さは、良く分かっていた筈なのに。
「それは構わないけど、そんなに旦那が居そうに見える?」
「旦那が居そうというよりは、頼りになるから……ですかね。落ち着いているというか。家庭を持っていそうに見えます」
こんな人が結婚相手だったら、きっと毎日が幸せだろうなと思う。
綺麗だからというのもあるけど、純粋にとても良い人だから。
2〜3歳年下の恋人や旦那が居ると、非常に納得が行くイメージがある。
「ふふ、何それ? 間島君の口説き文句?」
「ち、違いますよ! そんなつもりはないです」
高嶺部長を口説こうなんて真似、俺がやろうとするわけが無い。
ただでさえリサ姉という美女と関係を持っているのに、その上で高嶺部長もなんて。
次の日には落雷で死んでも不思議ではない。もしくは隕石の直撃とか。
俺はそんな欲張りじゃない。リサ姉だけでも、大概欲張りだとは思うけど。
「冗談よ。間島君なら、彼女ぐらい居るでしょうしね」
え〜と……その、返答に困るな。少し前にフラレたから独り身で、だけどセフレは居て。
この場合なんと返すべきなのか。嘘にならない範囲で答えるなら……。
「……彼女が居た事ならあります。今は彼女、居ませんけど」
これぐらいが無難な回答か? 少なくとも嘘ではないし。リサ姉は彼女ではないから。
「今の若い子達は、恋愛への興味が薄いというものね。間島君もそうなのかしら?」
「そこまでではありませんが……女心って難しいなと」
俺の恋愛経験は、同級生だった畑山彩智だけ。それも向こうから告白されたからだ。
初恋の女性はリサ姉で、当時は既婚者だったから恋愛関係に発展する筈もなく。
恋愛関係にあった女性のサンプルとして、知っているのは実質彩智だけだ。
今のリサ姉との関係は、都合の良い相手というだけで恋愛ではない。
「なるほどねぇ……悩んでいるのね」
「悩みっていうか、良く分からないなって。つまらないと言われまして」
リサ姉はそんな事ないと言ってくれるけど、元々仲が良かった姉みたいな人だ。
全くの他人から始まった場合とは、また違うだろうし。彩智は同級生だったから、全くの赤の他人スタートじゃないとしても。
つまらないって何だよと、思わなくはない。どうであれば、つまらなくないのか。
俺としては、真っ当で健全な交際のつもりだった。それが駄目だというのだろうか。
「あぁ……若い子だと間島君みたいなタイプは、合わないかも知れないわね。落ち着いているから」
「落ち着いている、ですか?」
たまに言われるその言葉。人生で何度か言われる定番の文言。
学生時代に女子から良く言われたな。同性からは冷静だと言われていた。
単に警察官の子供として相応しいように、そしてリサ姉にガキだと思われないように生きて来ただけ。
ただその結果が今の俺というだけだ。つまらないかどうかは……良く分からない。
お笑い芸人の息子だったら違うのか? とか思いはしたけど答えは出ず。
インターネットで見られる情報なんて、半分はあてにならない内容ばかり。
未だにどうすれば良かったのか、答えが出ないまま。今の俺は恋人が欲しいとは、あまり思わない。
むしろまた失敗したらどうしようと、二の足を踏んでしまう。リサ姉以外に対しては。
多分リサ姉となら、上手く行きそうな予感だけはある。今の関係は非常に心地よい。
ただ実際に付き合ったら、成功するという保証なんてない。またフラレるかも知れない。
これがチキンな考えなのは分かっている。気にせず次に行けば良いというのも。
「たまには遊んでみたらどう? 真面目に考えず、ライトな関係を持ってみるとか」
「え? それはどういう……」
高嶺部長の言いたい事が分からない。友達以上、恋人未満みたいな話か?
「若いのだから、色んな女性と関係を持ってみたら? 経験しないと、女心は分からないわよ」
「あ、あ〜そういう話ですか」
セフレなら居ますよ、とここでは言えない。遊びの関係ではないからだ。
そんなつもりでリサ姉と共に居るのではない。あくまでも、お互いの空白を埋め合っているだけ。
真面目に都合の良い関係をやっている。それこそ子供が出来たら、責任は取るつもりだ。
取れるかどうかは別だけど。でも遮二無二働いたら、養育費ぐらいは何とかなるだろうし。
トラックでもマグロ漁船でも、乗ってやるさその時は。体力と筋力だけなら自信はある。
「複数人と関係があるから、生まれる余裕もあると思うわよ」
会社に居る時は見せない、フランクな態度を高嶺部長は見せている。
普段見せない柔らかな笑顔は、途轍もない破壊力があった。
俺にリサ姉という極上の女性を知らなければ、コロッと落ちていたかも知れない。
オフの高嶺部長って、こんな感じなのか。親しみがあって、余計と魅力が際立つ。
「ま、まあその、考えてみます」
無難な回答で済ませて、別の話題へと移る。少しドキドキさせられたけど、無事に何事もなく俺は帰宅した。
何故か分からないけど、リサ姉には女性と居た事がバレた。エスパーか?
※明日から4日までの間、10時10分の更新とします。朝はゆっくりして下さい。




