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第23話 変わらない日々もある

 帰宅した俺達は、お揃いのペア雑貨をお互いの家に置いた。

 全部を1カ所に集中させるのではなく、半分ずつ置く事となった。

 お揃いのお箸はリサ姉の家で、マグカップは俺の家。そんな風にどちらの家に居ても、ペア雑貨が何かしらある状態だ。

 それから俺は、セフレの居る人々について色々とネットで調べてみた。

 セフレだけじゃなくて、セカンドパートナーってやつも含めて。


(案外、普通に楽しんでいる人達が居るんだな)


 昨夜帰宅してから、寝る前にスマートフォンを見ていて思った事だ。

 昨日は流石に2人で寝ていない。一昨日は1日中セックスをしたし、夕方にはラブホで過ごした。

 その上で夜も致す程、俺達は性欲が爆発していない。出来るか出来ないかで言えば、まあ出来るけれども。


 なんて事よりも、世間ではセフレ等を作る人は想像より多いという話の方が重要だ。

 俺が考え過ぎなだけで、今の関係を素直に楽しめば良いのだと理解した。

 何より俺達は未成年じゃない。しっかり避妊をして肉体関係を続ける分には、誰に何を言われる筋合いもない。


(俺がリサ姉の心を埋めて、リサ姉が俺の心を埋める。それだけで良いじゃないか)


 GW4日目の朝7時、気持ちを新たに俺は準備を始める。もう暫くしたらリサ姉が来る。

 朝食の準備を進めながら、窓を開けて空気を入れ替える。今日も温かな朝だ。

 ちょうど良い気温だと、何をするにしても気分が良い。暑くもなく寒くもない穏やかな気候。

 それも6月にもなれば崩れて行く。夏の蒸し暑い時期がもうすぐ来る。

 あまりに暑いと自炊をするのも面倒くさい。勘弁して欲しい所だ。


「今朝は何を作ろうか……」


 昨日はパンだったから、今日はご飯にしようかな。確か鮭の切り身が残っているよな。

 後は味噌汁でもあれば十分だろう。俺は朝から大量に食べるタイプではない。

 午前中に腹を壊すと色々と面倒だから、いつも少なめにしている。

 ドカ食いは健康に悪いし、腹八分目が理想だとされているしな。

 方針を決めた俺は着替えて顔を洗い、キッチンで米を洗って炊飯器にセットする。


「おはよう一輝かずき君」


 合鍵で玄関を開けたリサ姉が、俺の家に入って来た。ここ最近の見慣れた光景。

 もう俺の家にリサ姉が居て当たり前の状態になっている。

 今朝のリサ姉はメイクが薄めで、服装もシンプルなTシャツにハーフパンツだ。

 美人のオフを感じられてとても良い。着飾ったリサ姉も可愛いが、この日常を感じさせる姿も昔から好きだ。

 特別な関係でなければ、先ず見られないレアな状態。今は俺だけが毎日見る事が出来る。


「おはようリサ姉、今から作るからちょっと待っていてね」


「うん、ゆっくりでエエよ。祝日やし」


 リサ姉はいつものように座布団へ座り、スマートフォンを触り始めた。

 知り合いや友人達のSNSを確認しているのだろう。流石はギャルというべきか、交友関係は結構広い。

 再会して暫くしたタイミングで、相互になったら結構なアカウントでビックリした。

 フォロワー4桁超えは一般人だとかなり凄い。普通は2桁か、せいぜい3桁だろう。


「うわ、友達がアパレルブランド作ってるわ。ええなぁ〜面白そう」


 スマートフォンを見ながら、リサ姉がそんな事を言う。凄い友達が居るなぁ。


「凄いね。地元の友達?」


「うん。今も京都に住んでるねん。なぁ見て! 着物の端切れを使った服やて! めっちゃオシャレやん」


 リサ姉が近くまで来て、スマートフォンの画面を見せてくれている。

 そこには和柄の入った生地を上手く混ぜて、綺麗に作ったジーンズやスカートが映っている。

 なるほど京都らしい商売だと思った。やはりこの手の和を特徴とする商品は、京都のイメージが強い。

 海外にも売れば凄く人気が出そうだ。とても日本らしい趣きがある。


「良いね。リサ姉なら似合うよ」


「ホンマに? 友達に(たのも)かなぁ」


 朝から元気な姿を見せてくれている。強がりではないのだろう。

 こうして一緒に過ごす事で、笑えているのならそれで良い。その為の俺だ。

 俺はリサ姉の涙を拭う立場じゃない。笑える様に手助けをする人間だ。


「あ、ごめんなぁ! 邪魔してもうたわ」


「大丈夫だよ、鮭を焼いているだけだし」


 俺が貴女を邪魔に思う筈がない。何をされても嫌いにはなれない。

 そもそも俺が嫌いになるような言動を取る人じゃない。昔からずっとそうだった。

 母親としても女性としても、ただただ尊敬出来る人だ。それは今も変わらない。

 異性として魅力的だというだけでなく、人間としても魅力的だ。

 離婚なんて事態に発展する方がおかしいのだ。こんなにも素晴らしい女性だというのに。


「リサ姉、目玉焼き要る?」


 味噌汁に入れる具材を切りながら、背後に居るリサ姉へ尋ねる。


「あ〜せやなぁ。ある方がエエかも」


「オッケー」


 ベタなメニューだけど、朝に目玉焼きは悪くない。ベーコンと共に並ぶ定番料理。

 料理と言う程の労力は必要ないけど、色々とアレンジが効く。

 サニーサイドアップ、サニーサイドダウン、オーバーハード等。焼き方だけでも色々ある。

 俺はリサ姉の影響で、サニーサイドダウン、つまりは両面焼きの黄身が半熟タイプを好む。

 ご飯の上で黄身の部分を割れば、卵かけご飯風にもなる。1つで2度美味しい。


「今日は梅干しと鮭フレーク、どっちにする?」


 朝をご飯にする時は、梅干しと鮭フレークのどちらかを選択する。

 両方食べれば良いと考える人も居るだろうけど、俺達は同時に食べない。

 白ご飯に乗せる物として、食い合わせが悪い気がして。

 目玉焼きの黄身、梅干しと鮭フレーク、全部乗せるのはちょっとね。

 その意見はリサ姉と俺の間で一致している。全部盛りは意外と組合せが難しいと思う。


「今日は梅干しにしよかな。焼鮭もあるし」


「分かった」


 焼鮭があるのに、鮭フレークを選ぶ意味はあまりない。

 だけど両方を食べたくなる時もある。焼鮭と鮭フレークはイコールではない。

 焼鮭の美味しさと、鮭フレークの美味しさはまた違う。同じ魚であっても。

 朝食のお供には色々とある。海苔やふりかけ、お茶漬けにする道もある。

 昆布の佃煮も悪くない。飽きが来ないように、色々と用意している。


「今日はどうする?」


 この後の予定を聞きながら、目玉焼きを2人分焼き始める。

 焼鮭が良い具合に焼けたのを確認して、お皿に移してラップをかけておく。

 全てが完成するまでに、冷める速度を緩める事が出来るから。

 冷めてしまったとしても、温める時に役に立つ。全てはリサ姉に教わった知識。

 順番に作業を進めて行き、朝食が完成する。出来上がった料理をテーブルに運ぶ。


「美味しそうやなぁ。ホンマに料理上手くなったね」


 俺の料理は全部リサ姉に教えて貰った。謂わば師匠と弟子みたいなもの。

 だからこそリサ姉に料理を褒めて貰えた時は、誰に評価されるよりも嬉しい。


「そ、そう? リサ姉のお陰だよ」


 俺もテーブルについて、座布団に座る。対面に座るリサ姉はやっぱり可愛い。

 手を合わせて合掌し、朝食を食べ始める。いつも通りの朝だ。

 俺の日常となった、初恋のお姉さんと過ごす朝。それはとても刺激的だ。


 例えば安心しきって無防備だから、見えそうになっているリサ姉の胸元。

 Tシャツの隙間から、黒のブラジャーがチラリと見えている。見たくて見たのではない。

 たまたま見えから、意識を持っていかれただけで。盗み見るつもりは無かった。


「そんなに見たいなら、はいドーン」


 リサ姉がTシャツの首元をグッと下げた。そのお陰でブラジャーと谷間が露出する。


「いやあのっ! ごめん!」


「見てるのバレてないと思ったらアカンで?」


 いやもう本当に、すいませんでしたとしか言いようがなかった。

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