第12話 憧れのお姉さんとワンナイト
リサ姉との関係が元に戻ってから、2週間が経過した。最近では良く一緒にお酒を飲む。
以前の様に酔って余計な事を言わないように、毎回気をつけながら接している。
憧れのお姉さんと飲むお酒は、正直とても美味しい。純粋に楽しいというのもある。
俺とは全然違う人生を歩んだ人だから、俺にはない視点や価値観を持っている。
だから色々と参考になると言うか、人生経験としてナチュラルにプラスだ。
「へぇ〜一輝君、大学でそんな事してたんや」
俺の学生時代に起きた事なんかを、ビールを飲みながら話している。
「学生だったから出来ただけだよ。もうあんなお酒の飲み方はしたくないかな」
大学の飲み会であった、飲み会あるあるというべき、体育会系特有の無茶。
ピッチャーで一気とかいう、下手すると急性アルコール中毒で運ばれかねない行為。
どうしても先輩に逆らえない後輩達は、多少なりとも無茶をさせられてしまう。
流石に今の会社では、そんなノリは無かったけど。とても無難で平和な新人歓迎会だった。
「ウチは大学行ってへんからなぁ〜そういうの経験ないわぁ」
「しなくて良いよ、あんなのさ」
かつての思い出を披露したり、最近あった話をしたり。他愛もない雑談をしながら、2人の時間を楽しむ。
「そう言えばリサの学生時代って、どんな感じだったの?」
あんまり聞いた事がないリサ姉の過去。薄っすら知っているだけで、詳しい事は知らない。
どんな学校生活をしていたのだろう。わりと気になるというか、可能なら聞いてみたい。
嫌だ話したくないというのであれば聞かないけど、話しても良いというなら聞きたい。
「え〜そんなエエもんちゃうよ? 真面目な生徒やなかったし」
「授業サボるとか、そういう感じ?」
何となくあるヤンキーのイメージってそんな感じだ。流石に昭和のヤンキーみたいな事はしていない筈。
昭和のヤンキーは暴力的で激しい印象があるけど、平成のヤンキーはもう少しマイルドなイメージがある。
せいぜいちょっと喧嘩するぐらいで、番長を決めるなんて事はやっていないだろう。
「授業はまあ、結構サボってたかなぁ。先生とぶつかる事は多かったし」
「サボる時って、やっぱファミレスとか行くの?」
そういう行為とは無縁だったけど、ちょっと興味はあった。真っ昼間に学校を抜け出して、ラーメンを食べに行くとか。
「そやねぇ、あとは友達の家に行くとか。河原町行くとかも結構やったなぁ。あ、河原町って分かる?」
「中学の修学旅行で行ったよ。もうあんまり覚えてないけど」
修学旅行の定番、京都へは一度行っている。10年近く前だから、記憶は結構朧げだ。
観光客が大量に歩いていて、人の多さに驚いたのは覚えている。海外の人も結構多かったな。
三条大橋だっけ? 凄い沢山の人が居て歩くのが大変だったな。
「京都の学生が河原町行くって言うたら、基本的には新京極の事やねんけどね」
「うんうん」
学校を抜け出して友人達と、華やかな青春を送った話をしてくれる。
俺とは違う、派手な高校生活だ。ホストに絡まれたり、警察に補導されたり。
良い事ばかりでは無いけれど、でも楽しそうだとは思う。だって話しているリサ姉は楽しそうだし。
「色々あったけど、最後は学校の先生に感謝したんよ。こんな滅茶苦茶してるウチに、いつも付き合ってくれたから」
元々家族と上手く行っていなくて、そのせいで荒れていた時期があったという。
それでも学校の先生は、リサ姉を見捨てなかった。ただの不良生徒として諦めなかった。
「良い先生だね」
「ホンマにな。今でも感謝しとるんよ」
色々あったのだなぁ。家族との折り合いがつかないと、しんどいのは俺も分かる。
俺は自分の母親と、もう会いたくない。すぐに手が出る人だったし、浮気もしていた。
関わりたいとは思わないタイプの人種だ。もし父親が離婚をしていなければ、俺だってどうなっていたか分からない。
「高校卒業までは良かったんやで? 親身になってくれた先生との別れも済ませてな。問題はその後や。男を見る目が無かったんやな……」
「あ……うん……」
リサ姉が妊娠して、杏奈ちゃんが生まれた。その頃に俺達は知り合い、そして今に至る。
結果的にこうなってしまったけど、全てが悪かったわけではないと思う。
リサ姉が幸せそうにしていたのを、俺は覚えているから。だからこそ色々と辛いのだろうな。
「もう30やしなぁ、婚活も厳しいやろうし。24とかやったらなぁ、バツイチでも何とかなるんやろうけど」
アルコールが入った事で、漏れ出たリサ姉の愚痴。確かに30歳だけど、リサ姉はまだまだ若々しい。
今日だって俺は正直ドキドキしている。温かくなったからか、薄着のリサ姉は破壊力が高い。
丈の短いヘソ出しのTシャツに、ホットパンツ姿だ。確かに今日は4月にしては暑いけどさ。
それにしても肌色成分が多過ぎる。相手が俺だからって、ちょっと油断し過ぎじゃない?
もし俺がそういうつもりだったら、大変な事になったかも知れないというのに。
「大丈夫だよ、リサ姉は綺麗だから」
「またそんな事言うて〜本気にすんで〜?」
本気にしてくれて良いよ。なんて流石に言えない。そんな勇気が俺にはない。
大体それを伝えて、どうするつもりだと言うのか。愛情を抱いているわけでもないのに。特別な女性ではあるけれども。
「もう、照れさせんといて〜暑いやんか。ちょっとお水貰おかな」
そう言って座布団から立ち上がろうとしたリサ姉は、酔っているせいか足元がフラついている。
「危ない!」
コケそうになったリサ姉を受け止めて、どうにか床に倒れるのを防いだ。
しかし結果的に、お姫様抱っこをするような形でリサ姉を抱える事になった。
リサ姉の女性としての柔らかさが、手や腕から伝わってくる。
とても良い匂いがして、どうにかなってしまいそうだ。良くないのは分かっているのに、手を離す事が出来ない。
もう少しだけこうしていたいと、男の本能が訴えている。
「あ、ありがとう一輝君」
「い、いや……怪我がなくて良かった」
いつもとは違う微妙な空気が、余計とリサ姉を意識させる。今日も本当に魅力的だ。
それが良くなかった。リサ姉程ではないが、俺も大概薄着だった。
「あの……一輝君、その……当たってんねんけど……」
「え……あっ……」
憧れのほろ酔いお姉さんを抱き抱えて、凄まじい色気を感じた俺の第二の脳は、それはもうしっかりと反応していた。
違うんですこいつはその、俺の意思とは違う所で勝手に動き出すというか。
「いや、これはその、何というか」
弁明の言葉が上手く出て来ない。こんな時にどうにか出来る程、俺に女性経験なんてない。
混乱している俺に向かって、リサ姉は更に混乱するような言葉を告げる。
「あの……一輝君が良いんやったら、ホンマにウチで捨てるか?」
少し前にも聞いた言葉。俺を狂わせる魔法の一言、ウチで捨てるか。
何をとまで言わなくても分かる。この状況で捨てるに掛かる単語は1つしかない。
「……本当に、良いの? リサ姉……」
気付けば俺はそんな事を言っていた。状況に流されたのはある。だけどそれ以上に、照れ臭そうにしているリサ姉があまりにも可愛くて。
「最近色々と慰めてもろたし、そのお礼としてやで。あっ、でも、先にシャワーだけはさせてもろてエエかな?」
俺は無言で頷き、リサ姉にお風呂を貸す。その間俺は、もはや煩悩しか頭の中にない。冷静さなんて、とても保てない。
好きとか嫌いとかの話ではなく、あくまで大人の関係を結ぶというだけ。でも本当に良いのか? いやでも、リサ姉が良いっていうし。
かすかに聞こえるシャワーの音が、やけに敏感になった俺の聴覚を刺激する。
酒に酔った頭でも、性的な興奮だけは鈍る事はない。そして風呂場から出て来る、バスタオル1枚のリサ姉。
「ほ、ほな、一輝君もどうぞ」
「う、うん……」
逸る気持ちを抑える事なんて出来る筈もなく、ただ勢いに任せてシャワーを済ませた俺は、性欲に突き動かされたまま部屋へと戻る。
バスタオルだけを巻いた憧れのお姉さんが、俺のベッドに座っている。
「じゃあその、こっちおいでや」
期待と緊張でどうにかなりそうになりながら、俺はリサ姉の隣に座る。
ここからどうしたら良いのか、童貞の俺には全く分からない。どうすれば良い?
「えっと、ほなキスからでもエエかな?」
「お、お願いします」
キスだけは経験あるがしかし、リサ姉とのキスはそれだけで達しそうになる程の刺激があった。
俺の鼻腔をくすぐるリサ姉の甘い香り、柔らかな唇の感触。
肌と肌がくっつく感覚と、バスタオル1枚で隔たれたリサ姉の大きな胸の柔らかさ。
全てが刺激的で、頭がおかしくなりそうだ。そこから先の経験は、二度と忘れる事は出来ないだろう。
俺のアルコールで犯された脳裏に、必死でリサ姉の裸体を刻みつけ続けた。




