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第1話 元ヤンギャルママとの再会

以前に書いた『浮気クズ夫に捨てられた元ヤンギャル系お姉さんが魅力的過ぎる【短編版】 』から、タイトルをギュッと圧縮し、設定を少し変えています。

展開も結構変えています。

 大学を卒業して社会人になる。そんな普通の人生を歩んだ俺は、地元にある食料品メーカーへ就職した。東京に本社がある結構大きな企業だ。

 株式会社田邉(たなべ)物産という会社に務め始めた俺は、社会人生活を難無くスタート。配属された営業部門でも、最初の挨拶をしっかり決めた。


間島一輝(まじまかずき)と申します! 宜しくお願いします!」


 綺麗なオフィスの中で、深く頭を下げて自己紹介をした。俺は父親の影響で柔道を続けて来たので、このような先輩方に囲まれた状況も慣れている。

 声を震わせる事もなく、ハキハキと受け答えを続けた。直属の上司は年上の女性で、仕事の出来そうな美人だった。

 入社してすぐに判断して良いのかは分からないが、職場の雰囲気はとても良い気がした。

 ガタイが良いのでたまに怖がられる事もあるが、この会社では今のところそんな反応はない。これが大人の空間という事なのだろうか。

 そんな感じで始まった俺の社会人生活は、順調に進んでいると思っていた。

 

『私達、もう別れよう。一輝は幼馴染としては良いけど、恋人としてはちょっと物足りないし』


 これが晴天の霹靂ってやつなのか? 会社から帰宅している途中に、恋人であり同級生の畑山彩智(はたやまさち)から、こんな電話が掛かって来た。


「はっ!? 何でだよ急に!? 俺が何か彩智(さち)にしたか?」


『一輝は真面目過ぎてつまらないんだよ』


 お互い違う会社に行っても、仲良くしようねと言ったのは彩智の方だろ? 処女でセックスは不安だから待って欲しい、そう言って来たのも彩智の方だ。

 これまでに彩智から言われた事を、しっかりと守っていただけなのに。それの何がいけなかったんだ?

 俺は彩智としか恋愛経験が無いから、まともに女性経験と呼べる相手は彼女だけしかいない。

 他の女性も皆こうなのか? 言われた事を守っていたら、真面目過ぎると振って来るのか?


『他に好きな人も出来たし。じゃあね、()()()


「ちょっまっ!? 話はまだ――」


 全然意味が分からないままに、一方的に関係が終わった俺は茫然と立ち尽くす。既に通話は切られており、もう彩智の声は聞こえて来ない。

 社会人になって1週間、爽やかな気持ちで始まった筈の日常生活が崩壊した。卒業式の日に彩智と交わした会話や、これまでの想い出が浮かんでは消えていく。

 一体俺の何がいけなかったんだ? 女子の言う嫌というのは建前って話が、本当だったというのか? そんな漫画みたいな事があるって言うのか?

 俺は頭の中がぐちゃぐちゃになりながらも、いつの間にか帰宅していたらしい。気づけば新しく住み始めたワンルームマンションに居た。


 俺は荷物を一旦置いて水を飲む。だけどその程度では、全く気持ちは落ち着かない。とっくに日が落ちた薄暗い自室で、ただフラれた事実を反芻する。

 1人虚しくボーッとしているだけだったところに、突然インターホンの音が鳴り響く。

 ネット通販で頼んだ荷物はまだ届かない筈だけど、もしかしてもう届いたのだろうか?

 俺がフラレた事と、運送会社の配達員は無関係だ。無駄に待たせるのは良くないだろう。ハンコを手にした俺は、自宅のドアをスッと開けた。


「受け取りですよね?」


 いつもの配達員さんが立っていると思っていたのに、そこに居たのは私服姿の女性だった。

 金髪に染めたショートカットと、日焼けサロンで焼いた小麦色の肌。

 ギャル系のメイクが原因で、見た目だけはキツそうに見えるけれど、中身は優しいお姉さん。

 整った顔立ちの美人であり、誰もが振り返る様な華やかさがある。


 女性らしい丸みがありながらも、スラリとした細身の身体は()()()()()()

 細身なのに出る所は出ていて、所謂グラマラスなボディラインをしている。これで1児の母とは未だに信じられない。

 というか、何でこの人がここに居るんだ? 俺の実家のお隣に住んでいる筈なのに。


「リサ……(ねえ)? なんで?」


 昔とても仲が良かった、元ヤンでギャルママなお姉さん。何故か俺の目の前に立っている。彼女の名前は高田理沙(たかだりさ)

 幼馴染にフラレたショックで、初恋のお姉さんを幻視するとは。それだけのダメージだったという事だろうか。

 

「あれ!? 一輝君とちゃう!? ここ一輝君の家やったんや? ちょっと見てへん間に、えらい立派になったんやねぇ」


 その少し高めな美しい声は、間違いなくリサ姉のものである。京都弁がベースの関西弁も、実に懐かしい。どうやら幻覚では無さそうだ。


「あっ!? え? えっと、どうしたの?」


「あんな〜ウチ今日から隣の家に引っ越して来てん」


 なんで?? リサ姉が引っ越す必要なんて特にない筈だが? 俺の実家の隣に、立派な3階建ての一軒家があるじゃないか。


「引っ越し? どうして?」


「あ〜〜その、ちょっとな、事情があって…………少し上がらして貰ってもエエやろか?」


 何だか分からないが、目の前に居るリサ姉は本物であり、事情とやらの説明がしたいらしい。

 今更リサ姉を招き入れる事に、抵抗感なんて一切ない。やや混乱はしているが、とりあえず話だけでも聞こうか。


「あんまり綺麗じゃないけど、どうぞ」


「ごめんなぁなんか」


 リサ姉が近付いて来た瞬間、甘い香りが漂って来た。久しぶりに感じたリサの香りに、少しドキドキしてしまう。

 昔からこの香りが刺激的で、思春期の男子としては色々と大変だった。

 大人になってもどうやら、この感覚は変わらないらしい。今も変わらず魅力的な女性だ。

 少しドキドキしている気持ちを落ち着かせながら、来客用の座布団をクローゼットから出して来る。

 リビングの中央に設置したローテーブルの前に、座布団を置いてリサ姉を座らせる。


「あ、お茶でも入れるよ」


「えぇ、そんなんエエのに!」


「久しぶりに会ったんだから、それぐらいさせてよ」


 初恋のお姉さんだからか、どうしてもリサ姉の前では良い格好をしようとしてしまう。

 そのせいで彩智を怒らせた事もあったなぁ。まあ今やそんな過去を振り返っても、フラレた現実は変わらないが。

 冷蔵庫に入れてあったペットボトルの緑茶を、グラスに入れてリサ姉の前に置く。


「相変わらずエエ子やなぁ」


「や、止めてよ。もう俺は大人だよ」


 子供の時みたいに褒められて、少し恥ずかしくなる。昔はリサ姉に褒めて貰いたくて、色々やっていたけれども。

 今では俺も大人になり、社会人になった。大人の男性として見て欲しいんだけどな。

 なんて言ってもリサ姉は既婚者で子持ち、俺が何かを望む事は出来ない。不倫は立派な法律違反だ。

 そう言えば俺達が知り合ってもう12年が経つ。娘の杏奈ちゃんはもう12歳か。時間の流れは早いな。


「…………実はウチな、この前離婚したんや」


 いきなりリサ姉は、とんでもない事実を告白して来た。離婚って、あの離婚? 何で?


「え? 嘘でしょ?」


 あんなに幸せそうな家庭だったのに、離婚をしたと言うのか? 何でまた?

 娘さんは可愛いし、リサ姉は理想的な奥さんだ。旦那さんだって、建設会社の社長の筈。

 そこから離婚に至る理由が、俺にはちょっと思い浮かばない。

 典型的な地方都市で幸せな家庭を築く、仲の良い夫婦をやっていたのに。


「ホンマやねんて…………なぁ聞いてくれへん!? アイツ不倫しとってんで!?」


「え? 不倫? 高田さんが? 本当に?」


 こんなに美人でスタイルの良いリサ姉が居るのに、旦那の高田さんは不倫をしていたらしい。

 誰かに聞いて欲しかったのか、どれだけ不倫を繰り返されていたかを話すリサ姉。

 俺には全く理解出来ない話だった。どのエピソードを聞いても、リサ姉が居るのに? という感想しか出て来ない。

 俺がリサ姉と結婚していたら、毎日リサ姉の事しか考えられないけどな。

 他の女性なんて全く目に入らないのに。それぐらい魅力的な女性を相手に、良くもまあ不倫とは。


「せや、一輝君もうお酒は飲めるんやんな?」


 勢いに乗って来たらしいリサ姉は、このままお酒を飲もうと提案している。

 正直俺も今はそういう気分なので、断る理由が見当たらない。

 一瞬だけ彩智の顔が頭に浮かんだが、もうフラレたのだから気を遣う必要もないか。

 予想外な出来事が続いたけれど、俺は初恋のお姉さんとお酒を飲む事になった。

明日から今週末までは、朝7時台と夜7時台の2回更新で、ある程度キリの良い所までアップします。

以降は朝7時台の1回更新です。

これまでは学生が主人公でしたが、本作では大人の恋愛をテーマにしています。

ただ好きというだけで、付き合う事を選べるのは学生の間だけというか、そういう大人の事情を含んでいます。

それから前回のラブコメは、ややコメディ色と青春部分にフォーカスし過ぎたかなと思い、今回はラブの方に注力しました。

若干エッチな感じです。

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