その4 再出征
エシルが二日間の休日をとっている間、タニアは戻ってこなかった。
サディナが、王太子妃主催の茶会に呼ばれていったぐらいで、他にすることもなく、心ならずも「家でゴロゴロしたい」という希望がかなえられた格好だ。
その間に、また宝石屋が来ていたので、タニアに送るペンダントを注文する。
宝石屋に自分より一つ下の息子がいるのだが、そいつがいつも宝石屋の父親について来て、事あるごとにサディナの機嫌を取るのが気に入らない。きりっとした男前だ。サディナがうっかり引っかかってしまわないか、気になる。
「そりゃね。お父様が勧める将軍家の人がいいんだろうとは思うけど。」
サディナは笑う。
「結婚したら、その先ずーーーっとその顔を見て暮らすのよ?そりゃ人柄がいいに越したことはないけど、どうせなら、顔のいい人がいいに決まってるじゃないの。」
それもちょっと問題がある気がする。
でもまあ、見目でタニアを選んだと言われれば、言い返せないエシルである。
翌々朝、出勤しようと門番に門を開けさせたところに、タニアが戻って来た。
「おはようございます、兄さ・・エシル様。」
家令に叱られるので、タニアは最近屋敷の中での呼び方を改めた。
馬上から声をかける。
「行ってくる。」
「行ってらっしゃいませ。」
タニアににこっと微笑まれて、気分が上がる。
あーもう、本当に可愛い。どうしよう。馬を降りて今すぐ抱きしめたい。
「夕方には戻る。」
せいぜいしかつめらしく言い置くと、タニアはうなずいた。
「はい。お気をつけて。」
手綱を鳴らして馬を出す。
いい天気だ。なるべく早く帰って来よう。
しかしその日、エシルに特別任務が言い渡される。
先日捕らえた盗賊どもを王都に護送する際、近くの森に巣食う別の山賊の襲撃に遭って、取り逃がしたらしい。その盗賊どもを再度捕縛しろというものだ。
騎士団の中隊長に言われて、エシルはげんなりする。
「先日、討伐から帰ったばかりなんですが。」
「だからこそだ。逃げたらどうなるかを思い知らせねばならん。」
「はぁ。」
あそこはアレンダ侯領だから、本当は領主軍が兵を出して討伐するべき事柄だ。しかし反乱を起こさないように、領主軍の規模は千人以下と決められている。その代わり、手に負えない事象が起きたら、国王軍から兵を出すことになっている。
それをいいことに、結構こき使われていると思う。
「十日後には帰れますか。」
「それはお前の努力次第だ。」
なったばかりの小隊長に、あちこちの隊から寄せ集められて十人。
小隊が五つで中隊。その中隊二つで、再討伐に向かう。
みんなげんなりしているが、仕方ない。
翌朝出発と言われて、一旦家に戻る。
「お帰りなさい。」
屋敷に入ると、タニアが笑顔で出迎えてくれて、心がほどける。
「また遠征だ。」
「御役目、大変ですね。」
お前の誕生日までには戻る、と心の中で誓うが、口に出しては約束できない。
この前も、ただ盗賊を追い払うのだけで四日かかった。
こちらは地理に不慣れだし、逆にあちらには地の利がある。人数も多い。
盗賊どもの頭と思われる男を片端から射て、やっと逃げ散ったのだ。
何人か生きたまま捕まえて、情報を得ようとしたところに、この失態だ。
「仕方ない。収穫期に荒らされたら、どうしようもないからな。それまでに手を打っておかないと。」
「お気をつけて。」
横でサディナがにやにやしている。
「なんだ。気味が悪いな。」
「んー?兄様の幸せを願ってるだけよん。」
どうも怪しい。
タニアと二人で、こそこそ話していたり、くすくす笑っていたりするので気持ち悪い。
我が妹ながら、気風が良くて男前、思い切りのいい所があるので、何かしでかすのではないかという心配が少しある。
もし自分がタニアと駆け落ちした場合、おとなしくどこかの将軍家から婿を取ってくれるだろうか、と考えると、駆け落ちを止められたのは、結局サディナ自身のためだったんじゃないかと思える。
まあ、俺がタニアと結婚出来ればそれで済むことだ。
忙しくってなかなか投稿できません(涙
次話、気長にお待ちください




