その3 プロポーズしたい
明るくて可愛らしくて働き者。屋敷の中をパタパタ小走りに動いている様子は、小鳥のような風情だし、サディナに付き合って刺繍をしたり、本を読んだりしている様子は、可憐なアイリスの花のよう。
他の男に取られるかもと考えるだけで、胸の奥がすうっと冷たくなる。
それでもなんとか、今まで求婚するのを我慢してきたのは、やはり十三歳では早すぎるかな、という思いがあったからだ。
それに、もし、もし万一、タニアに他に好きな男がいたら、滅茶苦茶嫌だけど、でもそれはそれで尊重したいという気持ちも、ほんのちょっとある。
主筋のエシルに求婚されたら、他に好きな男がいても、断れないだろう。
だから、慎重に見守って来た。
でももう十四だ。他の男の気配もない。
以前は、もし父の許しを得られなければ駆け落ちしたっていいと思っていた。うちはどうせサディナがいるし、どこぞの将軍家から次男か三男を養子に取ればいいのだ
自慢ではないが、弓には少々自信がある。この前の盗賊退治で、首魁を討ち取ったのもそれだ。駆け落ちして、どこか遠い国で弓で身を立てて、タニアの父と弟を呼び寄せ、幸せに暮らす。それでもいいと思っていた。
以前、サディナに計画を打ち明けたら、鼻で笑われたけれど。
「ロマンチックすぎて、ゲロ吐きそう。」
という、貴族の姫君にあるまじき感想をいただいた。
「お父様をうんと言わせれば済むでしょ。でなきゃ兄様が、他の娘と結婚しなきゃいいだけじゃない。なんでそんな穴だらけの計画に逃げるの。タニアが自分の父親と弟を置いて、王都を離れるわけがないでしょ。」
自分の甘い夢想をばっさり切って捨てられて、エシルは方向転換せざるを得なかった。
だから、国王軍で頑張ったのだ。
盗賊退治にも、自分から名乗りを上げた。首尾よく行って良かった。
「鍋の他には?」
結婚したら、新しく家を借りよう。女中も雇う。鍋だって新品を用意してやる。
もちろんタニアの父と弟も一緒に住む。
何も心配することはない。
「んー。弟の使っている石板が、もう欠けてしまってるので、それも欲しいです。」
今度は石板か。まあ、少々欠けても使えるから、後回しになりがちな品物には違いない。
「服とか、ペンダントとかはいらないのか。この前、宝石屋が来ていただろう。せっかくだから、お前も何か作れ。」
サディナには、いくつか昼食会の招きがあるらしい。ウキウキと新しいドレスとアクセサリーを用意していた。
タニアはぱあっと頬を染めた。
「ありがとうございます。でもそれをつけていく所がないんですもの。だから、どうせならもっと役に立つものがいいんです。」
あ、そうか。
タニアだって、新しいドレスや宝石が欲しいには違いない。でも着る機会をエシルが奪っている。申し訳ない。
「それに、服ならサディナ様が譲って下さるからいいんです。」
サディナは、タニアより半年ほど誕生日が遅いが、兄妹そろって並より背が高いので、服はむしろサディナの方が大きい。
「そうか。お前がそれでいいなら、いいんだ。」
だったら、誕生日には、タニアに似合うルビーのペンダントを贈ろう。新しいドレスも仕立てよう。婚約者としてタニアが何も引け目を感じないように。そして夜会で披露する。みんなタニアの可憐さに驚くだろう。
くだらないことを考えているうちに、タニアの家についた。
「どうぞ、中で何かお飲み物でも。」
とは言っても、白湯か薄いワインしかない。貴族の間で、東方から茶葉を取り寄せるのが流行しているが、とても庶民の手の届く値段ではない。
「いや、いい。当分家から出勤できるからな。お前が戻ってくるのを待ってる。誕生日、楽しみにしてろよ。」
エシルが髪を撫でて優しく言うと、タニアは真っ赤になってうなずいた。
メロメロに甘々なエシルです。
この後、失意のズンドコに落ちますが、見通しの甘い坊ちゃんだったので、仕方ないです。




