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鷲羽国物語 〜異世界救済2 救済されない世界の話  作者: たかなしコとり


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18/19

その18 廃嫡

夜も更けて、従兄のテュルンが自宅に帰った後、母は自室にエシルを呼んだ。

「タニアに子供がいるのね?男の子?」

直球の質問に、エシルは返事できない。

さっきは何とかごまかしたが、母にごまかしきれるとは思わなかった。


「はい。」

観念して、エシルは答えた。

母はため息。やがて

「だったら、タニアとは結婚できないわ。この先、国母になるかもしれない人ですからね。」

「一緒に暮らすだけなら、出来るだろ?」

「そうね。でもタニアは、王都に帰ることを渋っているんでしょ?そう言う人と一緒に暮らすという事は、あなたも帰って来ないという事だわ。あなたが帰ってこないなら、いずれ廃嫡の手続きをするということよ。」

アイカは毅然として言った。


「私は、あなたの幸せも願ってはいるけれど、このエルデム家の将来のことも考えなくてはいけないの。」


そう言って母が説明したのは、エルデム家の危機的状況だった。

ここ数ヶ月、エルデム将軍が体調不良を理由に王宮へ出仕しないため、国王から代替わりを勧められているのだという。

伯父に頼み込み、エシルの不在工作を行ったが、長くは保たない。


伯父は快く引き受けてくれたらしいが、それだって、王家を謀った罪で、バレれば家門に傷がつく。

エシルが戻らないなら戻らないで、早く廃嫡と養子の申し立てをしなくてはならない。


「あなたを好きにさせた私にも責任はあるから、それは何とかするわ。ただ戻ってくるか来ないか、早く決めて欲しいの。あなたのお父様は、あなたを廃嫡して他に後継ぎを求めるぐらいなら、この家を潰していいと仰るんだけど。私はそうはしたくないのよ。」

てきぱきと話す母に、びっくりしてエシルは聞き返した。


「家を潰す?」

「だって、他所から養子をとったら、結局お父様の血筋ではありませんからね。」

「そんな馬鹿な。」

「だからテュルンと一緒に、お父様を何とか説得しようとしていたんでしょう。」


よく考えなさい、と部屋を出されて、エシルは考え込む。

戻ってきて欲しいに決まっている。しかしアイカはそれを口にしなかった。

そして、父も戻って来いとは言わなかった。


エシルの意志を尊重してくれているのだとは思う。

しかし戻って来いと言われなくては、反発のしようもない。その辺りも、エシルの性格をよく知っている二人らしかった。


ぐるぐる考えても答えはすぐにでない。

とにかく「戻る」とタニアと約束したのだ。一度村に戻らないといけない。


翌朝早く、王都を発つ準備をする。

何とか十日は猶予が欲しい、と頼み込んでの出立だった。

厨房から譲ってもらった、ハムだのチーズだの持てるだけを馬に積み込む。また、女中達の助言で毛布や巻いた布、毛糸の束なども、鞍袋に詰め込んだので、行商人のようになった。


夜明け前には出たかったが、荷物が多くて馬が嫌がったので、結局積み直したりして少し遅くなる。


タニアは怒っているだろうか。

会いたいのに気が重い。それに、一緒に暮らそうと言った言葉を、どうやって叶えたらいい?


結婚は出来ない。

無論、結婚だけが最終目的だった訳ではない。ただ彼女を守るのに、それが一番手っ取り早かっただけだ。

他の道はあるのか。


例えばあの村で、夫婦として暮らすとして、どうやって生活する?

右も左も小麦畑のあの村では、狩人の技も役には立つまい。例え農地を買ったとしても、自分に畑を耕す術はあるのか?


あんな古い家でなく、せめて領都の屋敷に連れて来られれば、暖かく冬が過ごせるのに。

いやいや、エシルが家を継がなければ、あの領都の屋敷も、人手に渡るという事だ。


自分が家を継いで、彼女を王都に連れて来て、一緒に暮らす。それしかないように思う。

彼女が嫌がったら。何もかも捨てて二人で外国へ行くか。一緒に暮らす事を諦めるか。その二択になるという事だ。


ギリギリ夜明けと共に家を出る。

しかし南の国境にいるという不在工作のため、南の門を使う必要がある。

結構遠い。馬を飛ばすことも出来ない。

案の定、南の城門に着いた時には、もう他の商人や旅人たちで、それなりに混み合っていた。


王都に入る時は通行手形を見せるだけだが、出る時は通行手形と共に通行料を払わなくてはならない。

前もって払っておくことも出来るが、そんな暇はなかった。


任務ならタダだが、それが通じるか分からないので、おとなしく料金を払う列に並ぶ。

何人かに、おや、という顔をされた。

それだけエシルの顔は知られている。


やっとあと数人でエシルの番、という時だった。

「エシル殿はいるか!」

馬の足音、そこにいる人々のどよめき、エシルを呼ばわる声が同時に起こった。


慌ててフードを被ったが、もう遅い。

何人かに振り向かれて、呼ばわった馬上の男はすぐにエシルを見つけた。

「エシル殿!」


人違いだ、と言いたかったが、無理そうだった。仕方ない。

「何だ。」

返事をする。

男は馬を寄せて、エシルを見下ろした。

「国王陛下のお呼びである。直ちに王宮へ向かうように。」


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