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鷲羽国物語 〜異世界救済2 救済されない世界の話  作者: たかなしコとり


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15/19

その15 日没

日は沈みかけている。

「もうお帰りください。」

タニアは窓の外へ目をやった。こんな田舎で、女一人暮らしの家に男が長居すれば、何を言われるか分からない。


「分かった。」

エシルは座り込んでいた床から立ち上がった。

「どうしても、俺ではダメか。」

聞いてみる。

タニアは何か言いかけて、唇を震わせる。


「何も持っていない、ただのエシルでも、駄目か。」

「ずっと」

タニアは両手で自分を抱くようにした。

「諦めてきました。遠いお方だと。だからどうしていいか分かりません。」

「遠くない。ここにいる。お前と同じ流れて来たもの、だ。」

エシルはタニアを覗き込んだ。


「泊まって行ってもいいか?」

タニアは涙をポロポロこぼし始めた。

「ダメか?」

ベッドは一つしかない。

「本当に、私でよいのですか?」

エシルは大きく笑んだ。

「お前が良いのだ。」


よい夜だった。

冬の冷気も二人の間には入り込む余地はなかった。

夜明け前に、赤ん坊の泣き声で起こされるまでは。


急いで起き出したタニアが、裸のまま赤ん坊を抱き上げて、お襁褓を替える。

小麦粉をお湯で溶いて、飲ませる。

その様子をベッドから見ていて、エシルは思う。


夕べは夢中だったから気にならなかったが、やっぱりひどく痩せている。

まだ十七の娘が、一人で子供を産んで育てるなんて、無謀過ぎるのだ。


「タニア。」

そっと声をかける。

「本当に、ここで子供を育てるつもりか?せめて、領都に来るつもりはないのか。」

「翡翠の君に、居場所を知られるような事はしたくないのです。」

タニアは即答だった。

だからって飢え死にしては元も子もないだろうとは思うが。


「分かった。」

エシルは起きあがって、タニアの肩に毛布を掛けた。

「だったら、俺もここに住む。」

「まぁ。」

タニアは部屋を見回す。

「こんな所に?」

「何とかなる。」


領内を虱潰しに歩き回ったからずいぶん時間がかかったが、場所さえ分かれば、馬で領都まで半日かからない。

なんなら通えるぐらいだ。


「少し待ってろ。夕方には戻る。」

手早く体を拭いて、昨日脱ぎ散らした服を身に着ける。

「誰かに俺の事を聞かれたら、『夫が来た』と言っておけ。名前はフェナン。」

タニアは思わずふふっと微笑む。


「それは、偽名ですか?」

「領主の息子が来ていたらまずいだろう。」

「『怠け者』はちょっと。もう少し無難な方がよろしいのでは?」

「せっかく考えたのに、評判悪いな。」

ぶつくさ言いながら、エシルは荷物の中から財布を取り出した。


「これで美味いパンを買っといてくれ。」

ずっしりと重い。

エシルはそこから二枚だけ金貨を取り出して、自分のポケットに入れた。

「泊まってた宿を引き払ってくる。ついでに晩飯になりそうな物も買ってくる。赤ん坊の新しい毛布も見繕って来よう。」

「こんな大金・・」


タニアに渡されたのは、慎ましく暮らせば、二年は保つ額だ。

「バラして、暖炉の灰の中にでも隠しておけ。」

「ふふ。絶対に誰にも見つからない所に隠しておきます。」

タニアはイタズラっぽく笑った。

ああ、この笑顔がまた見られるなんて。俺は幸せ者だ。


「じゃあ、ちょっと行ってくる。」

見送ろうとする半裸のタニアを、一度ぎゅっと抱き締めた後、外は寒いからと押し留めてドアを開ける。

放ったらかしにされていた愛馬が、不満そうに、ヒンヒンと鼻を鳴らす。


「すまんな。お前のことをすっかり忘れていた。」

胴を撫でて、少しなだめてから騎乗する。

窓からこちらを見るタニアに、軽く手を振って、手綱を鳴らした。


まずは、泊まっていた宿に向かう。

思っていたより、ずっと近い。

来る時は探しながらだから、パン屋に辿り着くまで半日かかったのに、まっすぐ戻ると、ほんの四半刻だった。


泊まっていた部屋を片付けて、宿代を精算しても、まだ日が昇ったかどうかという時間である。

「魚は買えたのかい?」

宿の主人にお釣りを貰いながらそう聞かれて、エシルは重々しく答えた。

「美味い魚だった。」

「そうか。そりゃ良かった。」


朝早く発つ客の為に、宿の朝は早い。

それに紛れて、エシルも宿を発った。


さて、と考える。

この先、タニアと暮らすとして、三年たったら一度領都に戻ると、母と約束している。

領都まで、馬なら片道二刻かからない。今なら夕方までに往復出来る。


一丁知らせて、安心させてやるか。

それに領都なら、食材も暖かい服も、ここより良い物が手に入る。

エシルは、飼い葉をたっぷり食べて元気いっぱいになった愛馬を引き出し、跨った。


元は、家から追い出されて終わりでしたが、あんまり報われなくて可哀想なので、救済してしまいました。。ガンバレ主人公。

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