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鷲羽国物語 〜異世界救済2 救済されない世界の話  作者: たかなしコとり


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1/11

その1 序

これは昔々、まだ馬と剣で戦を行っていた時代のお話。

交通の要所であり、北を見れば酪農に適したなだらかな高地、そこから東には峻険な山々につながり、南には穀倉地帯。西には穏やかな内海。強い武力で他国からの侵攻を防ぎ、国内を統率する。そんな国がありました。

その国の名を、鷲羽国。


---------------------

大通りをウキウキした足取りで歩く背の高い青年に、友人は追いすがるように言った。

「ホントに、頼むよ。うちの母に約束しちゃったんだから。」

「それはお前の勝手だろ。俺は、この休日はごろごろするって決めてたんだ。」

「もうほんとに。昼飯だけで終わるように、なんとかするから。俺の顔を立てると思って。」

背の高い青年は、大きなため息をついた。

「そう言って、妹とかとデートさせようって魂胆だろ。」

「まあ、ちょっとぐらいは話をしてもらうかもだけどさ。」

「言っとくけどな、俺は結婚相手は決めてる。お前の妹がどんなにいい子でも、それは絶対に揺るがない。」

「その話は、千回ぐらい聞いた。」

「疑ってるのか?」

「だって、まだ誰とも婚約してないだろ。逃げる口実と思われても仕方ない。」

「じゃあ、明日発表する。悪いな、お前の妹にはうまいこと言っておいてくれ。」


友人はため息をついて、足取り重く去って行った。

背の高い青年は、肩をすくめる。

このところ、休みのたびによその家の昼食に誘われる。どうせ行った先では、その家の娘だかなんだかが待ち構えていて、お昼の用意ができるまでお話でもいたしましょう、と言われるに決まっている。

体のいい見合いだ。

片っ端から断っているが、今みたいに粘られるので、ちょっと辛い。


貴族の男子は、大体学問所を卒業する十七歳の前あたりから、ぼつぼつ昼食会へのお誘いが来始める。感触がよければ夜会へのお誘いになり、十八ぐらいで婚約、二十歳になる前ぐらいに結婚、というのが一般的だ。


女子はもっと早い。

もう十三歳の終わりぐらいから、親が昼食会を開いて、これと見込んだ男子に招待状を送る。十五歳になる頃には、大抵婚約が整っている。


エシルは十八。

代々続く将軍家の跡取り息子で、本当ならもうとっくに婚約者が決まっていておかしくない。それがまだ誰とも話がまとまらないので、王族の姫君との縁談が、内々に進んでいるに違いない、という噂が流れている。しかし今の所王家には、年頃の姫君がいないので、ただただ皆、首をかしげるばかりである。


商店街を歩くと、店先であちこち呼び止められるので、エシルは裏手に回って走り出す。

友人と話していて遅くなった。

こんなことなら、父将軍に馬を貸してくれと言われても貸すんじゃなかった。

全力で屋敷町へ駆けて、今まさに裏手の門から出ようとする少女が目に入る。

よかった。間に合った。


「タニア!」

声をかけられて、少女が振り向く。

「お帰りなさい、兄様。」

明るい笑顔に、心がほっこりする。

ほっそりと華奢な体つきに、濃い茶色の巻き毛。大きな瞳。愛らしい。

「今帰るところか?」

「はい。兄様も。お勤めご苦労様でした。」


先日、王都近くの町で盗賊騒ぎがあった時、出動して盗賊の首魁を首尾よく討ち取った。そこから事後処理を含めた十二連勤だ。

「間に合ってよかった。送る。」

「そんな、兄様こそ、お疲れでしょう?。」

「いいから。」


軍の詰所でいかつい男ばかり見慣れていると、タニアの華奢な様子が、ますます際立つように思える。

エシルの妹の侍女として働くタニアだが、いつもこうやって、十日か半月に一度は実家に戻る。

すれちがいになったら嫌だな、と心配していたが、まさにそうなるところだった。

この十日余り、どんなに会いたかっただろう。


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