20322 あたしと童貞卒業しちゃう?
「状況は分かった。よし、たまり場に移動しよう」
「助けに行くんだな!」
逃げてきたクフと佐香。合流した笛吹と蛮。協力者である宍戸は現在門浦の居城にいる。この後の行動は、この場の四人で決めねばならない。
やる気満々の蛮を、笛吹は冷たい目で見た。
「違う。『次の』たまり場に移動して朝まで寝るんだ」
「なんでだよ!!」「聞いていい?」
激昂する蛮、逆にひどく冷めた口調の佐香。二人は長月ではない。笛吹は少し考え込んだ。
相手を傷つける喋り方は得意だが、諭すのは苦手だ。
「門浦は【武器】を奪える。これは極めて厄介だ。しかし、十中八九他の【狩人】と同じで【情報】が不足して正確なルールを把握できていない」
【防具】や【義体】を知らないものが多いように。
「【狩人】の死後、奪った【武器】が残るのか……分からないならば、長月は絶対殺さない。特別で有用だからだ。郡も可能ならば殺さない。もったいないからな」
「ならすぐに助けに行こう!!」
蛮の顔は青ざめている。門浦に蹂躙された前王族、クフの姉妹や母親が娼婦にされていることを知っている。長月も似たような目に合うだろう。
「助けに行きたいか?」
「当たり前だろうが! 人として、今すぐ行くべきだ!!」
「同感」
「よし、オレもそう思う。だから行かない」
梃子でも動かない笛吹、蛮は歯をカチカチ鳴らした。何言ってんだこいつ!!
「ワケわからん!!」
「バンさん、落ち着いてください。ウスイさんには考えがあるはずです……今すぐ助けに行ってはカドゥーラの思う壺ってことですよね?」
クフの仲裁。蛮はそれでも納得行かずに唸った。
「そうだ。向こうのアドバンテージは人数、人質、現地人の部下、【ドラゴン】による身体強化。
こちらが分かってる戦力は、門浦、マツ、『通り魔』、『スーツの女』、神崎だ」
宍戸の情報によれば、少なくともあと一人は【狩人】がいる。少女の姿をした【ドラゴン】もいる。
「こっちのアドは、お酒が無限に出せることと?」
「…………攻撃を仕掛けるタイミングが決められることか?」
少しだけ冷静さを取り戻して、蛮が言った。球技や格闘技と違い、制限時間はない。時間を利用できるなら活用しろと長月に教わっていた。砂漠に息を潜めて動かない訓練もやらされた。
「仕掛けるのはこっちだ。せっかくの有利を捨てては長月に失礼だろ? 佐香さんの【武器】を知られていないのと、蛮は存在すら知られていないのは大きい」
「あのオジサンが裏切ってなければね」
佐香は宍戸に当たりがキツイ。彼女が中年に嫌悪感を抱いているから……ではない。
少なくとも、なんだかんだで郡と酒を飲む程度には仲が良かった。宍戸の胡散臭さも理由ではない。
「宍戸は絶対に裏切らない。拷問をされてもだ」
「嘘よ」
「本当だ。お前のためだろ?」
佐香が笛吹を睨んだ。蛮は話の流れが見えない。え? あの白スーツの教祖様、佐香さんを? え? え?
「一目惚れ……?」
「馬鹿が」「死ね」
「えぇ…………」
じゃあ、なんなんだよ。蛮は女たちの辛辣さにめそっとした。
「あのね、あのひとあたしのおじいちゃん」
「あ?」
「あたしの中では十六年前に家をむちゃくちゃにして、家族のほとんどと一緒に死んじゃったクソジジイ」
蛮は口をあんぐりと開けた。佐香、2024年人で二十代。宍戸、2008年人で50くらい? 年齢的にはおかしくない。
「あたしが、酒浸りになってる、理由」
「宍戸は自分の生存のために戦っているが、お前を見た時に目の色が変わっていた」
蛮は全く分からなかった。おそらく長月も、これには気づいていない。家族の情愛に関しては、長月に理解を求めるのは酷というものであろう。
「宍戸は恐らくこの状況で一番賢く立ち回る。信じろ。だから今から夜明け前までは寝る。早朝に強襲する。オレと佐香さんが囮。本命は蛮……だが、長月たちは『探すな』」
「なんでだよ?」
「目的は【ドラゴン】殺しだからだ。最悪死んでいなければ【望み】は叶うだろう。いいか、正々堂々戦うな。門浦を暗殺しろ」
長月と郡を見捨てることは正しい。彼らに気を取られては、作戦の達成は難しくなるだろう。
戦略的に考えて、これ以上の手はない。蛮にだってそんな事くらい分かっていた。
「俺がしくじったら……」
「蛮は本番に強い。やれる」
胸がひどく痛んだ。その信頼に応えられると、断言できる自信が欲しかった。
そしてなによりも。
「笛吹、お前はどうなる」
「は? いや、囮だと言ったろう? マツの相手が必要だ」
長月からは、マツが門浦よりも強いことを聞いている。そして、笛吹と因縁のある相手だとも。
「一応言っておくが、オレはマツ一人でいいが、蛮は門浦以外の相手もする必要が出るんだぞ?」
「俺はどうでもいい」
「どうでもよくない。お前が肝心要なんだ」
蛮は息を吸い、少しだけ考えた。笛吹と何か噛み合っていない。
それまで黙って様子を見ていた佐香が首をかしげる。
「蛮クンはぁ〜、あたしと同じでまだ童貞だからでしょ〜? いっしょに卒業しちゃう?」
「あ?」
「な、何言ってんですか!?」
あからさまに不機嫌になる笛吹、クフが顔を赤らめる。佐香はコップを呷った。中の琥珀色の液体はウィスキーだろうか。
「今すぐ笛吹クンが正面から行って〜、強い人を呼び出して……三人で囲んで殺そうぜ。仲良く殺人童貞処女卒業しようや」




