20321 四対七
「はははははは! ははははははははは!!! 素晴らしい! 素晴らしい闘争だった!!!」
郊外の一軒家に、血が凍りつくような哄笑が響き渡る。室内は凄惨無比。家具という家具は破壊され、血でまだら模様に染まっていた。
「死んだら消えるのか……殺すなよ静」
「はぁはぁ……はい」
室内に人影は五つ。床に倒れて動かない……顔面を殴られ続け死亡した郡貞郎。自身も血まみれのボロボロながら、マウントポジションで高笑いするマツ。
完全に拘束され、身動き取れない長月と、抵抗されて左目に傷を負った巴静。
そして、唯一無事な椅子に座って、佐香の残していった酒を楽しんでいた門浦。
「楽しかったか?」
「素晴らしい戦士だった」
血まみれの奥歯を吐き捨てながらマツが笑う。地獄の悪鬼のような、血まみれなのにとろけるような微笑み。
「門浦様、あ、あ、あの……」
「あ?」
「わ、私は何も、誓って誰にも……!!」
静は秘密警察活動と、今回の襲撃をどの【狩人】にも秘密にしてきた。門浦にそう言いつけられていたからだ。
だが、この場にはマツがいる。静は彼の出現以降震え上がっていた。過呼吸気味だった。拘束した長月に一度は振りほどかれて、目潰しをされる程だ。
「お前の秘密警察も大したことねーな」
「ひっ」
「俺様が出かける時、マツはいつでも遠巻きに尾けて来てる。強敵が俺を襲うのを楽しみにしてやがるからな」
楽しそうに笑う門浦、マツは悪びれもせずに頷いた。
「……え?」
「門浦は囮だ……笛吹は次こそ来てくれるだろうか」
「まあ、そういうこった」
「…………」
生き残った長月は手足を拘束され、猿轡を噛まされていた。ぐったりと抵抗をやめた彼女を、門浦が舐めるように見る。
「安心しろ長月、すぐには殺さねえよ」
「…………」
郡の死は、無駄にできない。死んではならない。長月は静かに門浦を見た。
門浦について分かったことが三つ。マツの弱点が一つ。巴静についてが一つ。
門浦は、というか【ドラゴン】には、銃弾による攻撃が効かない。粒子によって守られた。これが発射速度なのか、火薬に反応したのか、別の理由なのかはまだ不明。検証が必要になる。
二つ目、門浦は相手を屈服させた場合【武器】を奪えると聞いていた。少なくとも『一回目』はそうだったのだろう。
それは川魚の精神的成長、あるいは制限時間超過によって返却され、逆に門浦のカトラスが貸与された。
それが恐らく【ドラゴン】化によって強化されていた。郡がナイフを手放した時に奪われたのだ。
「お前の【武器】……【盾】にもなんだろ? 最高じゃねぇか」
強制的にトンファーを奪われる。一度に何種類奪えるのか、保持できるのか分からない。
しかし三つ目。持ち主が死んだ場合は保持できなくなる。郡が死亡した今、もはやナイフは出せない様子だ。
【盾】を奪われたのは致命的だ。門浦の戦闘能力に貢献してしまう。舌を噛みたいところだが、誰かに伝えるまではそれもできない。
「静、表の連中にマツを運ばせろ」
「は?」
「気を失ってやがる」
マツの弱点、それは相手に合わせるところだ。
郡相手にマツは【武器】を抜かなかった。殴り合いで決着した。それでもマツが勝ったわけだが、これは確実に付け入る隙だ。
戦いに固執するあまり、ハンデを喜んで自分に課す。馬鹿だ。
その結果メリケンサックでボッコボコにされて、顔面はズタズタ、肉はえぐれて血も大量に失い重傷だ。狙うなら今だろう。
最後、静は【武器】が無い、使う気配が一切無かった。狭い室内だからとかそういう理由もなく、【武器】を使う発想がない。
彼女もまた門浦に奪われている。
つまり、最低でも門浦はいま、長月のトンファーと静の【武器】を使える。
どうにかしなければ。どうにか伝えなければ。
「こいつはどうします? 牢屋にでも入れますか」
「いや、ちょうど【狩人】を欲しがってる奴がいるだろ?」
「…………は?」
ろくでもない事になりそうだ。長月は眉根を寄せた。
「巌野にくれてやれ、ただし一週間は保たせろと。よし、返ってやることやるぞ」
「はっはい……っ」
メスの声をあげる静。その顔面を、門浦がノーモーションでぶん殴った。
「勘違いすんなボケがッ!! 迎撃の準備だ! こちとら居城が知られてんだよ!」
長月は舌を巻いた。困ったな、門浦が優秀に見える。勝って兜の緒を緩めず、強襲してくるだろう笛吹たちを迎え撃つつもりだ。
「全員に状況説明の伝令を飛ばせ、ついでに監視だ! 内通者が居たらそいつも殺す。まあ、宍戸か神崎だろうがな」
疑われているぞ宍戸……長月は彼の無事を祈った。自分が死んだとしても、宍戸が生き残れば、お互いの現代での死は回避できる可能性が高まる。
門浦が【ドラゴン】である以上、宍戸は門浦に心から恭順することはありえない。
そうであってほしいと、長月は考えていた。もちろん、希望的観測に過ぎないが。
――――――郡貞郎、死亡。
――――――長月瞳花、拘束。
四対七。




