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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第三章 合い食む餓狼

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20320 銃声


 怒っていれば勝てるほど世の中は甘くないし、むしろ冷静さを欠いてしまっている以上、負ける可能性が高まる。

 だからと言って身を焦がす憤怒を止められる道理も無し。それまでの軽薄さの仮面をすべてかなぐり捨てて、(こおり)は狼の獰猛(どうもう)さで門浦に近付く。


「巴静! 門浦は【ドラゴン】だ!!」

「それが?」


 最初に動いたのは長月だった。動揺を誘う、あるいは仲間割れをさせるはずの言葉は、わずかな揺さぶりにもならなかった。


「あのメスガキめ、そんなこったろうと思ったぜ」

「貴様らには分かるまい……」


 【武器】ではなく、警棒を構える静、長月には当然分からない。当たり前だ。

 静が現実に戻ったら、警視庁のエリートコースに戻れる。それはつまり、これまで積み上げてきた努力の牙城が、門浦に破壊されて奪われるということになる。


 今、静が門浦に屈服し恭順できている理由の一つは明らかに、『ここは現実ではないから』であろう。

 プライドと、肉体と、尊厳をへし折られてはいるけれど、それでも帰れれば全てが解決する……という気持ちと同時に、戻ったら門浦にまた奪われるかもしれないという恐怖が静を拘束する。


 帰り次第先制攻撃で門浦を見つけ出して殺してしまうのが一番だろう。だが、それもまた静の人生の汚点になるのは間違いない。

 静はもう、門浦から逃げられない。無視もできない。だから【ドラゴン】だったとしても、裏切り刃を向けてしまったら……現代でどうなるか知れたものではない。


「残念だよ」


 静の【武器】は薙刀だ。一番得意な獲物である。しかし、警棒格闘も柔道もできる。


「がっ」


 容赦なく振り下ろした警棒、握る指をトンファーが打ち据えた。みぞおちにも一撃。舌打ちする門浦に、郡が肉薄。

 その間に佐香がクフを連れて明かり取りの木窓から脱出。


「死ね」

「てめえが死ね」


 郡の右手に飛び出しナイフが現れる。イタリアの本場マフィアの飛び出しナイフ(コルテッロ)。全長11インチ。他の【武器】に比べて恐ろしく頼りない。

 長月のトンファーよりも弱々しく見える。


 賢明にして記憶力に優れる読者諸君! マイナスドライバーとかいう工具のことは忘れたまえ。


 門浦の右手に光の粒子が集まる。彼の【武器】を郡は知らない。先に【武器】を見せたのは戦術的にミスであろう。

 長月は静を打ち据えながら舌打ちした。やはり頭に血が昇っている! 対して門浦は恐ろしいほどに冷静だった。


(郡は諦めるか?)


 長月に一方的に打たれても、静は倒れない。\強靭なタフネス。いや、長月は気が付いた。このスーツは【防具】だ。

 つまり、露出した手か顔を狙うしかない。


「軽いぜ」


 郡が突き出したナイフ。門浦は左腕で受け止めた。脂肪の乗った筋肉の層が細身のナイフをガッチリと咥え込む。

 カトラスの横薙ぎを、郡は下がって避けた。ボクサーのようなステップ。(わら)う門浦。


「手を離したな? 馬鹿な奴だぜ」

「なんだ……?」


 長月は瞠目(どうもく)した。まったく、想像もしていないことが起きようとしていた。いや、想像はできた。想像はできたのに!

 郡は【武器】を構えようとした。その奇妙な挙動を、唇の端から血を流しながら静が笑う。


「郡! 逃げるぞ!!」

「奥の手見せたんだ。逃がすかよ」


 長月はセーラー服のスカートを自らめくった。色気皆無のシンプルな下着が露わになる。

 だが、それよりも重要なのは太ももに巻いた革のベルトである。


 質素な下着に注目する門浦。静はベルトのホルスターに気付いた。鮮やかな手さばきで『それ』を引き抜く長月、単発式のポケットピストル。暗殺用の密造拳銃。

 銃本体は長月の掌に収まる大きさで、銃身は6センチ程度、至近距離で使用しなければ致命傷はまず望めない。それが二丁。


 銃口を向けられた静は反射的に両腕で顔を庇った。彼女のスーツは【防具】である、露出した顔を庇ったのは正しい判断だ。

 だが長月は飛び込み前転、小さな体で門浦の左側に。門浦は王神の衣装、つまり防具ではない!


「んあ? ……おごっ!?」


 長月に注目した門浦の顔面に郡の左フックが炸裂。やけにゴッツい指輪が頬肉を抉る。いや、指輪ではなくメリケンサックだ。さっきまでつけていなかった……【武器】である。

 即席にしては完璧な連携、単発式ピストルが火を吹いた。狙いは門浦の顔面、『逃げろ』はフェイクだった。長月は門浦を殺すつもり、勝つつもりだった。


 火薬が弾ける音が重なる。二丁同時発射。


「しまった! 門浦様!!」

「…………なんだそりゃ?」

「なるほど」


 静の悲鳴。愕然とする郡。そして、納得する長月。


「門浦、協力してくれないか? どこまでの火器、爆発物が通じて、何が通じないのか検証したい」

「てめえでしろっっ!!!」


 拳銃弾は門浦の眼前で緑色の粒子に阻まれて止まった。前々からの疑問の一つに、思わぬ形で答えが出た。

 100kg。つまり長月の体重の三倍以上の体躯(たいく)から繰り出された前蹴りは、少女の肉体を壁に叩きつけるには十分だった。


「がふっ!」

「門浦っ! 死ね!!」

「何度も言うんじゃねぇようっせえな!!!」


 強烈なボディブロー。巨漢が浮くような錯覚。門浦は肺の酸素とつばを飛ばした。


「ぐぇぇ……痛ってぇ……っ」

「殺す……!!」


 ナイフが……出ない。郡は一瞬遅滞した。理解できない。当たり前だ。彼は知らない。

 門浦が『屈服した相手の武器を強制貸与できる』なんて。


 そしてその力が【ドラゴン】となることで強化されているなんて。


「欲しいのは、これか?」

「!?」

「丁度良かった、俺も検証したかったんだよ」


 門浦が口元を拭いながら郡のナイフを出し入れする。【武器】が奪われていた。


「それと時間切れだぜネトラレ男」


 入口を、戦意以外の全てを削ぎ落としてきた影が塞ぐ。


「門浦、お前を張っていて正解だったな」

「こいつに勝ったら相手をしてやる」


 剣鬼マツ、戦に飢えた狼が牙を剥くように笑った。


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