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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第三章 合い食む餓狼

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20318 捜査の手


「警察は、基本的に犯罪が発生してから動きます。常に動けるのは『事が起きてから』です。私は常々それでは遅いと思っていました。

 善良なる人々を守るには、積極的に犯罪者予備軍を取り締まらなければなりません。歴史に学ぶべきです。門浦様もそう思いますよね? ぺろぺろ」


 紐も同然の、裸よりいやらしい衣装をまとい、巴静は土下座の姿勢で門浦の足を舐めていた。


「どうしたい?」

「秘密警察を組織し、密告を推奨します」


 恐怖政治の始まりだ。門浦はニヤニヤと笑った。彼が静を殺さない理由は二つある。

 その一つが、静から垣間見える悪辣(あくらつ)さだ。門浦も現実世界では密告と裏切りを推奨していた。


「そうしたらどうなる?」

「逃げおおせた襲撃者を見つけ出すことができるでしょう。前王派の反乱分子も見つけ出せます。いまだ見つからない前王の息子もすぐに見つけ出せるはずです」


 門浦は頷いた。あまり好ましくない話ではあるが、やはりこの女は自分に似ている。


「条件が二つある」

「はい」

「まず、秘密裏に行え。特に神崎と宍戸には気取られるな」


 静が顔を上げた。だがすぐに気が付いて舌を足に伸ばす。


「もう一つ、もしも他の【狩人】を見つけたら……捕縛は俺と貴様の二人だけで行く」

「はっ?」


 今度こそ、静は動作を止めた。馬鹿な、それは、あまりにも……。


「誰にも漏らすな、絶対にだ。これを機会に、薄汚え裏切り者をあぶり出すぞ」


 言うに事欠いて、裏切り者と。門浦は足元の女を嗤った。静は……少なくとも一度明確に裏切った女は笑うことができずに硬い表情で頷いた。






 笛吹(うすい)たちはたまり場を数日ごとに変えていた。門浦たちに見つかるのを防ぐためである。

 しかし、この点においては静が圧倒的に上手であった。彼女はプロであった。兵士たちを使いたまり場を囲み、自分が先頭に立って扉を叩いた。


「はい?」


 その日、笛吹と(ばん)は訓練に出ていた。その家の住民はおらず、飲み続ける佐香とその膝のクフ、長月、そして(こおり)がいた。

 ドアを開けたのは長月だった。


「こちらに指名手配されている人物が潜んでいるという通報を受けております。私はこういう者です」


 キチッと折り目のついた紺のパンツスーツに、ワイシャツ、ネクタイ。髪は背中側で束ねられている。

 居丈高な物言いと、突き付けられた警察手帳に、長月ほ胡乱(うろん)な目を向けた。


「ようこそ。私は長月だ」

「目上に敬語も使えないのか?」

「お互い【狩人】ならば年齢ではなく実力で分からせろ。それとも、手下を集めるしかできない完全サポートタイプか? 三十人以上見てきたが、初めてだな」


 無防備に背を向けて奥に向かう長月に、静の頬が羞恥(しゅうち)と怒りに燃える。

 ほんの僅かなやり取りで、【狩人】としての経験値、知識の差を叩きつけられた。


「この私を愚弄(ぐろう)するのか?」

「怒らせてしまったのならば申し訳ない。育ちが悪いものでね。相手に合わせてしまうんだ」

「長月くぅん、美しいお嬢さんをいじめるもんじゃないよ」


 ……何だコイツラは、静は眉根を寄せた。異様に酒臭い。昼間っから酒盛りしているのか?

 酔っぱらいの男女と、酒を注ぐ小間使の現地人少年。王子には見えない立場。出羽とマツを退けた剣士の姿もない。


「私が探しているのは、前王の遺児クヌムクフと、先日のパレードにおける王神門浦様の暗殺未遂犯だ」

「暗殺未遂! それは恐ろしい、見に行ったけど気付かなかったな。二人はどうだ?」


 しれっと答える長月。マツと出羽から報告は聞いている。『イケメンの剣士と髪の長い女児』後者がこの長月であることは間違いないだろうに。


「飲んでたし」「あの日口説いた女性の顔なら全部覚えているんだがね……一杯どうだい?」

「結構だ」


 いっそ、実力行使で……静は四人を分析した。子供が一人、酔っ払いが二人、現地人の子供一人。

 静は暴力の手っ取り早さを知っていた。元から知っていた上に、門浦に思い知らされた事で暴力信仰に染まったと言ってもいい。


「やめとけ、そんなだから負けるんだよ雑魚が」

「も、申し訳ありませんッ!」


 やると決めると同時に、入口からのっそりと、絹の礼服を着た大男が入ってきた。

 脂ぎった顔に下卑た笑みを浮かべ、顎の剛毛は整え、黄金の装飾品をまとっている。鈍重そうなビール腹だが、実際には筋肉の上から脂肪をまとった凶悪な肉体である。


 門浦(カドゥーラ)随一(スフィス)は【(ドラゴン)】だ!


「楽にしていいぜ」

「改めて見ると案外似合うな、ジャージよりも様になっている。腹が貫禄に繋がるからか?」

「オッサンきらーい」「僕も妙齢の御婦人がいいな」


 話にならない【狩人】たち、しかし長月の言葉は嘘ではなかった。不摂生と不潔な感じのするジャージ姿よりも、今の姿は百倍力強く見える。

 男性向けの礼服、例えばスーツなどは、腹が出てもバランスが取れる。むしろ太っても似合うように作られている。身体のラインが出る運動用のジャージなんぞよりも、ビール腹の中年男性にはよほど似合うものなのだ。


「自己紹介くらいしろよ、王の御前だぜ?」

「中学生の長月、酒カスの佐香、スケコマシの郡、日雇いのクヌくんだ」

「私は警視庁の巴静、そしてこちらが我が王、門浦様である」


 不審そうな視線を浴びながら、門浦はヒゲをしごいた。


「こおり? 冷たそうな名前…………そういや何年か前にもそんな名前の英語教師がいたな」

「…………ッ」


 何気ない言葉に、郡の雰囲気が変わる。ゾッとするような、それこそ氷のような目で門浦を見つめる。


「リノを知ってるのか?」

「なんだよ、世界は狭いな……ああ、お前あのメス豚のマヌケな婚約者か?」


 交渉も、話し合いも、始まる前に決裂した。これを運命と呼ばぬのならばなんと呼ぶ?

 千載一遇。宿命。最初で最後。またとない好機。


「詳しく教えてくれないかなぁ?」


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