表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第三章 合い食む餓狼

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/114

20317 ナンパテクニック講座


「正直言ってね、僕は今は忙しいんだ」


 ある日の午後、長月の指導のもとの訓練が一区切りついたタイミングで、(こおり)がたまり場に現れた。

 クフはお尋ね者になっているが、前王の治世を懐かしむ人間は一定数いる。彼らを頼り、笛吹(うすい)たちは身を隠していた。


 長月の指導は、武器の扱いや戦い方ではなく、ほとんど戦場の心得、あるいは暗殺者としての基礎訓練だった。

 笛吹と(ばん)は基礎体力が出来上がっているので、隠密行動や潜伏、追跡などの実技を次々に叩き込まれていた。


「僕にとっては今がかき入れ時ってこと。新しい王様のやり方に不満の人妻を一日に何人『慰め』られるかっていうね」


「昼間っから?」

「旦那が仕事に行ってるのか娼館に行ってるのか分からないんだぜ?」


 蛮は舌を巻いた。これがイタリア人のナンパテク……なんとまあ、連戦連敗の蛮の理解の範疇を越えている。


「教わったらどうだ?」

「先生……お願いしても」

「え? やだよ……なんで男とおしゃべりしなきゃいけないのさ」


 大変正直な郡、これには蛮も苦笑い。

 

「郡さん、【望み】は?」

「女の子」


 そしてこの即答である。徹底している。


「でも、正直信じてないんだよね。本当に叶うの?」


 乾いた笑み。さもありなん。【ラストイル】は信用していいのか分からない。

 蛮もまた、本当に【望み】が叶うのか疑い半分だった。


 そして蛮は、実は自分の【望み】がなんなのかも理解しきれていない。


「叶う、郡さんは2024年人か?」

「そうだよ」


 断言する笛吹。郡も蛮も、そして酒を飲んでいた佐香も、そんな笛吹に目を向けた。疑わしく、興味深く。

 自分は叶えていないくせに、なぜ言い切れる? 


「蛮、なんて言ったか? 漫画雑誌の裏表紙の広告の……」

「『ラストウィル』か?」

「そう、人気だろ? スマホのゲーム」


 顔を見合わせる一同。聞いたことがあるという顔、そしてその名前……。


「分かるな?」

「分からん」「なんか聞いた気がする」「酒飲んでゲームはできんわなー」


 今度は笛吹が困惑顔をする方だった。水桶を片手に長月が座る。【望み】が叶うのかどうか、彼女にも気になる問題だ。


「『そんなゲーム存在しない記憶』があるだろう? あれは張井(ハリー)が叶えた【望み】だな。【狩人】を集めるために」

「張井はやったのか! それで、連絡は?」


 食い付いたのは長月だった。笛吹は困ったように(かぶり)を振った。


「すまん、オレは電話を持っていない。連絡手段がない」

「そうか……」

「とにかく、叶うんだ。本当にな」


 大きく息を吐いたのほ郡だった。へらへらした態度から、一瞬だけ真剣極まる顔に。


「女の子を褒めて、優しくするだけさ。…………キミ、ちょっと佐香ちゃんを口説いてごらんよ」

「蛮です……褒めて優しく? 佐香さん、美人でおっぱいデカいですね、お酒注ぎましょうか?」


「0点」「0点」「0点」「30点」


 女たちの辛辣な評価と違い、郡だけは多少の点をつけた。


「かわいいとか、美人とか、そんな当たり前のこと言うなよ。あとおっぱいを褒めるならもっとさりげなく…………。

 佐香ちゃん、何が好き? 当ててみようか……缶チューハイ?」


 郡が佐香の隣に座り、コップを手に取った。


「違いまーす」

「ほら、脈あり」

「ウソでしょ?」


 完全に取り付く島もないのだが? 蛮は恐れ慄いた。佐香は不愉快そう。


「もっとアルコール高い感じ? ウィスキーとか? 僕は渋い赤か好きかな、トマト系の煮込みに合わせる。肉は赤身がいいな」

「赤ワインならラムとか生ハムじゃないのー? 脂と合うでしょ」


 返事をして、佐香は不思議そうにした。普通に答えてしまった。


「佐香ちゃんお酒詳しいね、僕は飲み方が我流だから、色々教えてくれると嬉しいな」

「やだー」

「若いのにちゃんと詳しい子は珍しいよね。みんな高けりゃおいしいと思い込んでるし、お酒の好みは……辛いの好きそう」


 ズバズバと踏み込む郡、佐香は返事をしかけてお酒を口に入れた。


「特定分野が好きな相手には、自分を下げて教わればいいんだ。同じように、喋りたいことを引き出す。

 質問する時、イエス・ノーで答えられる質問にすると、答える側のハードルは下がる。『どのお酒が好き?』だけなら無視されたけど、こっちが種類を言ったら返事をしてくれたでしょ?」


 蛮に向かってさらっと喋る。口で言うのは簡単そうだ。口だけなら。


「そういえば佐香ちゃんの【望み】は何? 僕はね、まあ見ての通り女の子なんだけどね。実は三年前までフィアンセがいてね」

「女癖が悪くて婚約破棄されたんか?」


 会話の内容にツッコミ所があると、ついつい口を挟む人間も多かろう。佐香は再び無視できずに口を開いていた、


「こりゃ手厳しい! でもまあそんな感じ。やり直したいわけじゃないんだけどねー」


 さみしげに微笑む郡。佐香は眉に酒を塗った。


「ぎゃっ!? しみる!」

「バカなのか……?」「知ってた」


 蛮にナンパテクニックの説明をするための雑なウソ。その時は誰もがそう思った。まともに取り合わなかった。

 実際の所どうなのか、蛮たちがそれを知る時、郡はすでに帰らぬ人となっていた。


 召喚から十七日。ザクロを討ち果たして三日後。二組の【狩人】の戦いは本格的に動くことになる。

 六対七から、四対七に。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ