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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第三章 合い食む餓狼

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20316 中身のない女


「はぁー、はぁーっ……我々は善のために戦うべきです。我々の力は人々を守り悪を討つためのもの、私利私欲のために使うなど言語道断です」


「相変わらず口だけはご立派だなぁメス豚!」

「ひ、ひぎいぃぃぃっっっ!!?」


 笛吹(うすい)たちが訓練し、ザクロを追っている間、門浦たちも遊んでいた訳では…………遊んでいた。

 少しばかり自由を与えた巴静が反乱を企み、即座に露見したのである。


 兵士たちを扇動してクーデターを企んだ静であったが、残念ながらその兵士たちの中に裏切り者が出た。

 門浦はその裏切り者どもを取り立て、『拷問官』に任命、静を教育させた。


「申し訳ありません……申し訳ありません門浦様……御慈悲を、許してくださいぃ……っ」


 『拷問官』になった約十人は代わる代わるに静を好き放題した。そこには文字通りの拷問も含まれていた。

 寝る間も食事も与えられない地獄の責め苦、それが中断されるのは門浦が見に来た時だけ。


 静は今度こそ完璧に門浦へと屈服した。他にムチ役がいる以上、門浦はアメになり得る。静は門浦に救いを求め、門浦は(わら)いながら救いの手を差し伸べた。

 こうして静は門浦の庇護を約束され、門浦以外からは脅かされなくなった。


 その証として、『拷問官』は全員斬首され、反逆者扱いでその首を晒された。

 静は絶対服従を宣言し、永遠に門浦の奴隷になると誓った。絶対に騙されていた。美咲は詳しいのだ。恩を売り、感謝させることで憎悪をコントロールし依存に変えるのだ。


 一方、ひどい負傷をした出羽は一日寝込んで回復した。もっと苦しめばいいのだが、【義体】の耐久性と回復力が働いてしまった。

 美咲は出羽が寝込んでいる間にこれ幸いと動き回り、城を探索した。


「芸術に興味があるのかね?」

「芸術よりも【ドラゴン】に興味があるでやすね」


 両手の血汚れを洗い流す巌野に話しかけられ、美咲は不快感を隠しながら答えた。

 巌野はふむと頷き、クツクツと笑った。


「中身のない女、お前の【望み】はなんだ?」

「『それ』…………『中身』を守ることでやすね」


 巌野の言葉に美咲は警戒心も露わに答えた。『中身のない女』……なんて的確な言葉だろうか。ほとんど話したことがないというのにこの自称芸術家は美咲の何たるかを理解しているというのか?


「私の【望み】は人間の内側にある『輝き』を見ることだ。それを石に掘り出したいのだ。生きている人間には確かに輝きがあり、美しくまばゆい。しかし、死はその輝きを破壊してしまう。取り去ってしまう。つまり輝きは生命的なエネルギーそのものだ……ここまでは分かるか?」

「わかんねーでやす」

「だろうな、お前には『輝き』が無い」


 美咲はムッとした。『生きていない』と言われた気がした。


「無気力に生きるものや、流されるだけのものによく見られる。その点、この時代はいい。人々が命に飽きていない」

「…………」


 自分を持たず、周囲に流されるがまま。現代人にはありがちなことだと思う。

 しかし、だからといって次から次に取っ替え引っ替えに人間を解体していいものではあるまい。


「分かるか? 私は【ドラゴン】など、心底どうでもいいということだ。恐らく門浦殿もマツもそうだ。

 出羽の小僧もそうだろう。その事を念頭に置いて動くがいい」


 これはアドバイスだ。美咲は居住まいを正した。なぜ? 少し考える。

 警戒していないから? 何かを期待されている? しかし巌野に好かれる理由はない。


「…………あっしには『輝き』が無いのでは?」

「無い。だが……何かを隠しているだろう」


 何も隠していない。美咲は心の奥の不満と苛立ちを、いつも通りに上手に隠した。巌野はその表情を、曖昧(あいまい)な笑みを見て壮絶に笑う。


「お前は空っぽだな」

「…………知ってやすよ」

「何でも入れられるということだ」


 会話はそれでおしまいだった。巌野は突然美咲に興味を失い、両手の水を払うと背を向けて『屠殺場』と揶揄されるアトリエに戻っていった。

 美咲は…………自分の下腹部に手を当てた。臍の下、丹田。その下の……子宮。


 『これまでのルール』通りならば、失われた生命の数の人格がこの身に宿った。



 …………妖怪『七人ミサキ』は、七人組の幽霊である。犠牲者を仲間に取り込み、代わりに一人が成仏する。

 美咲の仇はあと二人。五人殺した。


 そして、美咲の中に居た人格はあと二つ。残りは殺すたびに深い眠りについた。

 次を殺したら、どちらが残るのだろう。全員殺したらこの体はどうなってしまうのだろう。


 そんなことは、考える必要はない。



 七人の男に監禁され続け、虐待を受け続け。妊娠しては水にされた六つの魂。そして、深い絶望の底で狂気に陥った本体、月山(しあ)の冥福のためにも。

 美咲は戦い続けなければならない、死地妊(しちにん)を失うわけにはいかない。



 …………だがもし、もしもだ。



 何らかの奇跡が起きて、美咲の中の眠ったままの誰かが起きてくれるのならば。

 何もできない、役立たずの美咲にも何かができるかもしれない。出羽を排除し、【ドラゴン】を殺すために行動できるかもしれない。


 そのためにはまず。

 美咲は巌野の言葉に従うことにした。


 つまり、あの時口にされなかった【狩人】を、あの妖しい神崎か、胡散臭い宍戸と接触し、協力を仰ぐのだ。



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