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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第三章 合い食む餓狼

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20315 提案


「知り合いか?」

「『前回』戦った。たしか名前はマツ……一応勝ったんだが」


 長月は殺し屋である。そして、鉄砲玉ではなく何度も殺人を行ってきたプロであった。

 彼女の所属する組織は大きくないが、バックアップの体勢はできている。前もって逃亡ルートは三種類程度用意していたし、尾行するのも撒くのも、追跡への対策もお手の物だった。


「早く入れッ」

「出てくるな」


 隠れ家に定めていた家の前で、ソワソワした様子の蛮がいる。お祭り騒ぎの中で、そんな落ち着かなく殺気を放ってどうする。悪目立ちするだろう。

 笛吹(うすい)はそう小言を口にしかけてやめた。心配してくれているのだ。


 建物に入ると同時に、笛吹と長月はさっと着替えた。現代のブレザーとセーラー服から、現地の服装に変えるだけで追跡は難しくなる。


「あれに勝ったのか?」

「あんなに強くなかった。【エリート】化で肉体強化を受けているな」

「『通り魔』の方も異様に頑丈だったな」


 長月が『通り魔』と呼んだのは出羽のことである。パーカーを目深に被って出刃包丁。確かに通り魔スタイルだ。

 笛吹と二人がかりでさっさと倒さなかったのは、何かしら奥の手を隠しているのが見えていたからだ。熊撃退用スプレーとは想定外だったが。


「初見で避けられた」

「それは思った、あそこで討ちたかったな」


 笛吹は必殺のタイミングで打ち込んだつもりだった。口では挑発したが、実際には避けられたのが不服だった。


「手応えは?」

「普通の布じゃなかった。【防具】だったのかもな」

「なら仕方なかろう……しかし、説得を忘れていたな」


 門浦が【ドラゴン】である。

 【望み】が欲しくば倒すべきは門浦である。そう伝え損なった。


「次の機会がある。なんなら宍戸に噂を広めてもらおう」

「着替え終わったか?」


 ドアの表から(ばん)が声をかけてくる。


「男女で着替えてるんだ、遠慮する意味がないだろ?」

「お、おう……」

「ああ、うん」


 歯切れの悪い蛮。生暖かい視線の長月。『相手の肉体スペックを見通せる』長月は分かっていたが……笛吹は男装の女剣士である。

 隠し通していると思っているようだが、蛮が気づいているのではとも疑っていた。


「クフたちと合流しよう」

「了解だ。……長月、マツと門浦どっちが強かった?」

「マツだ。強化前の自力が高すぎる」


 考え方を変えれば、笛吹も【ドラゴン】の力をもらい【エリート】になれば勝てるということ。


管金(すがね)とどっちが強い?」

「すがね?」

「『前回』一番強かった奴だ」


 強さに敏感な笛吹が、我が事のように胸を張る。蛮が眉根を寄せる。長月はソワソワした。


「門浦なら勝てるが、マツって奴は笛吹と同じタイプだ」

「…………なるほど」


 管金は一撃必殺の初見殺し。動体視力と反射神経に優れる笛吹ならば……勝てないと思うものの、強化されていれば分からない。

 笛吹は蛮を見た。少なからず不安そうに。そんなに心配する必要はないと長月は思う。蛮は強い。戦闘未経験であるという懸念事項があるものの、戦闘能力は笛吹に並ぶ。


「笛吹」

「長月、オレと蛮を鍛えてくれ。一週間で基礎だけでいい」

「え?」


 長月は想定外の言葉に瞬きした。全く思いもよらない流れだぞ?


「なんでだ? 長月は、その……」

「そうだ。戦士としての技術では笛吹に及ばないぞ?」

「オレのは試合剣術だ」


 笛吹はフェンシングでオリンピックを目指している。そして、それは不可能ではないと言われている天才剣士だ。

 尋常なる立ち会いをするのならば、【狩人】全体でもトップクラスの実力者である。


「明らかに戦力が足りていない。宍戸の話だと、神崎を除いてあと二人もいる」

「こちらも戦力を整えたいな。現地人の兵士も馬鹿にできないし」

「あー、その件だが」


 蛮が少し困ったように頭を掻いた。


「一人増えた」





「おいしいものを食べて、女の子を抱いて、それ以上の幸せなんてないじゃないか? それが人生のすべて、全てさ」

「つまり、お酒サイコーってことね。オジサン話分かるっ!」


「君がそこまでへべれけでなければもう少し魅力的なんだけどなぁ」

「あははははははははは!!! ないないない! 二次性徴過ぎたジジイとババアはお帰りくださーい!」


 男どもが元王族の裸を見るためにパレードに行っている間に、不満を抱えたご婦人方を『慰めて』いた男を、クフが見咎めたのである。


「私は(こおり)。郡貞郎だ、しがないサラリーマンさ」


 二十代後半と思われる、彫りが深いイケメンで、全ての動作が気障な伊達男。【狩人】を見つけたと胸を張るクフ。


「それと、この所不思議な事件が起きているそうです。それも『客人』関係なのではありませんか?」


 こうして、二手に分かれた【狩人】たちの最初の接触は終わった。

 次の接触は一週間以上先、この物語の最期の登場人物、忌下(きじも)柘榴(ザクロ)の登場と退場の後になる。



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