20314 存在確認
門浦のパレードは華やかなものだった。
打楽器と弦楽器は、どんな文明でも生まれる。鳴らされる耳馴染みのない音楽、屈強な男たちの担いだ神輿の上に、門浦はふんぞり返っていた。
先頭を歩くのは異様に目つきの鋭い痩せ男。この時代の服を着ているが、肌の色は薄い。腰には細身の片手剣が下げられている。
武器のほとんどが青銅製のこの時代において、その細い剣は異様である。それこそが彼……マツの【武器】である。
マツの後ろには槍や旗を持った兵士たちが続く、マツが将軍あるいは隊長であると示すかのように。
この並びを、マツはご満悦だった。最強の戦士と兵士の集団を前に置き、門浦周辺に護衛を少なくする。つまり、襲えるものなら襲えという挑発である。
兵士の後に鳴り物が続き、門浦の神輿とシスの神輿が続く。
その後ろには、俯いた女たち。前王の妻と姉妹、娘たち。そして側近の妻子。みな鎖に繋がれ、裸に装飾品だけという屈辱的な格好である。
髪飾り、首飾り、腕輪、足輪。
乳房や局部は隠すことも許されずに丸出しで、大衆からの好色の視線にさらされていた。
その後ろには盾とコペシュを持った兵士が続き、最後尾には牛が繋がれている。
牛はこの国では豊穣の象徴である。『河』も偉大なる神牛の乳であるという。
…………そこに、牛に紛れて泥だらけの裸の女が四つん這いで追従している。
首輪をかけられ、遅れるなど叱責される女は巴静。門浦に敗北し奴隷扱いされている【狩人】である。
このパレードの手配に奔走し、政治的手腕を見せつけたと思ったら、理由もなくこの扱いである。しかも泥団子を投げつけることを推奨されていた。
このパレードに参加する【狩人】は三名。美咲、神崎、巌野、出羽は参列していない。
それを、少し離れた場所から観察する二人組がいた。この時代の建築物は基本的に平屋で、乾燥レンガを組み上げて作る四角いものだ。
平らな屋根に伏せて潜み、目を細めて門浦と、そしてシスを観察する小柄な陰と青年。笛吹と長月だ。
「【ドラゴン】だ。門浦と、あの娘の両方が」
「門浦は『右腕がある』以上に、仕上げて来ているな。この一ヶ月で無駄な肉を絞って筋肉に変えている。その上で【ドラゴン】化による肉体強化もされていそうだ。『前回』の印象で動くと簡単に負けるぞ」
『前回』、薄井は門浦を雑魚だと判断していた、軽くあしらえた。片腕を失っていたし、贅肉で動きが鈍く、癇癪持ちで、技もない。
「格闘技をやっているよな」
「多分柔道だ」
打撃技よりも、体格に優れた門浦に掴まれる方が危険だ。門浦は177センチもある。固められても投げられてもそのまま潰されるだろう。
「オレとどっちが強い?」
「門浦だ」
「オレと蛮なら?」
長月は笛吹を見た。これは殺し合いだ。決闘ではない。だから卑怯でも何でもやる。それは門浦側も同じだが。
「…………笛吹が死ぬ」
「奇襲をしたい所だな。暗殺で仕留めたい」
「それが出来れば苦労はしないが」
長月は膝についた砂利を払った。笛吹も門浦から目を離す。欲しい情報は得た。戦力が欲しい。
「長月、【エリート】だ」
「だが、非戦闘タイプだな」
壁を蹴って、黒っぽい影が飛びかかってきた。狙いは長月、片手には出刃包丁。刃渡り六寸、厚さ七分。根元の幅は一寸六分。
手入れの行き届いていない刃物による刺突は、長月が呼び出した【武器】で容易くずらされた。
警棒……いや、トンファーである。
持ち手と短い方の張り出しが四寸、長い方の張り出しが一尺二寸、つまり、合計長さは一尺六寸。
取り回しが良く軽量で、材質はポリカーボネートに近い。三箇所の先端はそれぞれすっぽ抜け防止の円錐が取り付けられている。
左のトンファーで出刃包丁の軌道を変えながら、右で突き。強烈なカウンターを肩に食らい、影は……パーカー男出羽はたたらを踏んだ。
「顔で受けない程度の反応はできるか」
「長月、やれるか? あまり時間がない」
パレード側に視線を投げながら尋ねる笛吹。手首の回転でトンファーを戻した長月は、振り回される出刃包丁を上半身の動きだけで見切った。
出羽の露出した口元がへの字に結ばれる。屈辱と混乱。
「バカな……このガキ、ガキがッ!」
手刀のように振るわれるトンファー。手元で回転して伸びてくる。肋の隙間を突かれ、手首を打ち据えられ、脛を払われ、喉を潰され……。
殺気の籠った視線を門浦が感知すると同時に、出羽は跳んできた。自分は強い、そう思い込んでいた。
「クソガキ! クソクソクソ!!!」
「もしかして【狩人】ではなく囮の現地人か? サポート型にしては語彙が少なすぎる。実力もゴミ」
「頭も悪い」
こんなはずではなかった!
マツみたいに無双して、今度は僕が脚光を浴びて! 誰からも褒められて!
「本隊が来る、遊びは終わりだ」
「ふざけんじゃあああああああ!!」
出羽は雄叫びを上げた。『本隊』……何が近づいているのか気配で分かっていた。燃え立つ廃墟のような、周囲にも今にも飛び火しそうな圧倒的鬼気。
戦の怪物が、薄笑いを浮かべて近付いてくる。
「お前みたいな役立たずが味方じゃなくて良かった。足止めも満足にできないんだもんな」
笛吹が動いた。出羽は反射的に飛び退く、だが遅い。銀星が尾を引き流れる! 胸に真一文字の切込み。
「避けたのに!!」
「避けていない。間合いも読めないのか?」
そこに踏み込んだ長月の苛烈なアッパー顎が砕ける、前歯が口から発射された。ここに笛吹の追撃が来たら、出羽は死んでいた。
だが来なかった。先程から笛吹の参戦を控えさせていた存在が、威圧感だけで警戒をさせていたマツが到着したのだ。
「長月!」
「は、ははははははは!!!!」
長月の首根っこに手を伸ばす笛吹、そして、敵対者が笛吹だと気が付いて呵々大笑するマツ。
「第二ラウンドだ!! 笛吹!! 楽しくなってきた!!」
「遠慮させてもらう!」
壁を蹴って屋根に登るマツ、その着地を狙って突き出される笛吹の剣。現れた赤い布が、切先を包み受ける。
だが引き寄せるよりも早く、笛吹は剣を手放していた。
「げ、ぐぐぐ……」
涙と血を流しながら、出羽が腰の後ろから秘密兵器を取り出す。その指ごと、トンファーが叩きつけられ……全員の動きが止まった。
「長月!!」
ボン! 可愛らしい破裂音とともに、致命的な化学物質が撒き散らされた。
違法の熊撃退スプレーは強烈な催涙効果のあるガスを撒き散らして飛翔し…………その隙をついて、笛吹と長月は逃げおおせていた。




