20313 スクリュードライバー
新王門浦のお触れは、すぐに国中に届けられた。
ピラミッドの建設ではなくまずは国中を繋ぐ道路の建設。
国中の神殿を閉鎖し、男性の神官は監督官として派遣され、女性は娼婦として労働者たちの慰撫。
神を恐れぬ行い、しかし街道の整備は生活に直結する。革命的な政策に人々は困惑したものの、生活が良くなるならと受け入れた。
現人神である『女王イシス』が門浦の隣に侍っていることも、受け入れやすさの理由であった。
門浦は新王就任のパレードと祭りの開催を宣言、その日は街中の人々に料理とビールを振る舞い、神殿改め娼館の割引券を配るという。
さらに、ワンコインで購入できる宝くじも売り出した。
商品は前王妃、そしてその娘たち。
「品性が下劣すぎる、聞くに堪えんな」「ホント信じられなーい」「クソが」
これが笛吹、佐香、蛮の感想である。
「でも、革命的ですね。こんな事考えたこともなかった。女性を景品にすることには抵抗がありますが、宝くじ……施設の割引……」
「そのあたりは門浦ではなく宍戸だろう」
こちらがクフと長月の感想。
宍戸はクフのことを秘密にしつつ門浦側に出入りし、情報を収集していた。
笛吹のいう二体の【ドラゴン】について調べるためである。
…………この時代に来てから、一週間が経っている。笛吹たちは慎重に行動していた。
門浦たちに協力を要請することも考えたが、門浦が『王神』になっている点が引っかかっていた。
門浦が【ドラゴン】なのではないのか。そんな妄想めいた疑問、もしもそれが現実だった場合……門浦らと交戦する可能性がある。
真偽が明らかになるまで、笛吹たちは門浦たちに接触しないようにしていた。
「パレードがあるなら、確認しよう。視認すれば確実だ」
「私も同行する。門浦が【ドラゴン】ならば、スペックを確認したい」
「いっそ全員で行くか?」
「いや、少人数が好ましい。蛮は酒カ……佐香と留守番だ」
「今酒カスって言った?? 間違ってないけどぉ〜。あたしはクフきゅんと飲んでるね〜」
佐香は豊満なおっぱいでクフを挟む。体格でも筋肉でも負けているため、抵抗できない。無理矢理だけど、それでも羨ましい。蛮はその言葉を飲み込んだ。
「蛮、佐香は口説かないのか?」
「え? そりゃお前……」
笛吹に問われて蛮は答えに窮した。お前が俺の理想の女で、お前が気になるから、他の女は見ていなかった。
「アル中だから!! うっせうっせ〜!! こちとら現実でもキッチンドランカーでーい! 日がな一日飲んてま〜〜すっ」
「蓮田さん、二人を頼む。佐香は弱くないが、白兵戦は難しい」
長月に上目遣いで頼まれてはゴネにくい。蛮は少し迷ったものの、息を吐いて頷いた。
「わかったよ、無理すんなよ」
「当たり前だ。もしも門浦が【ドラゴン】なら、困ったことになる。本人そのままなら勝てるが、強化されている場合目も当てられなくなるぞ」
蛮には全く想像もできない。それがどれほど危険なのか分からない。
『一回目』で【幹部級】相手に目の前で戦友を失った笛吹だからこその言葉だった。
同様に、実力については信頼しかない旧友が、別の【幹部級】と相打った長月も【ドラゴン】への警戒心が強い。
「佐香さん、底面がレンズ状のコップは出せるか?」
「お、なっちゃんお酒のむー? 甘いやつ入れよか? 飲みやすいのがいいよねー? スクリュードライバーなんてどーよ?」
スクリュードライバーは女の子にも飲みやすい、オレンジジュースを使ったカクテルである。
飲んだ際のアルコール度数が分かりづらく、酔い潰す目的で使用されることもあったとか。またの名をレディ・キラー。
「コップの底がこう……楕円形になっているものが出せるなら欲しい。私と笛吹さんの二人分」
「へいお待ちー!! オレンジジュースは出せないから、スクリュードライバーのオレンジ抜きー!」
佐香がコップを二つ召喚する。どちらにもなみなみと透明な液体が注がれている。
長月は頷いて受け取り、コップをひっくり返した。アルコール度数40度を越すウォッカは、強烈なアルコール臭を放ちながら地面のシミになった。
「あっあっ」
「あの……さすがに可哀想ではありませんか?」
「クフきゅん優しい〜! お姉さんのお嫁さんになって!!」
「え、イヤです……」
酔っぱらいを無視して、笛吹と長月はコップの底を確認する。
「行けるか?」「何がだ?」
「凸レンズとして使えるなら……ううむ」
長月と笛吹は、凸レンズ二つと筒を用意して望遠鏡を作るつもりだった。
…………が、残念ながらコップの底はどう見ても平らだった。そこまで都合よくはないようだ。




