20311 ピラミッドを作ろう!
「王子はまだ見つからねえのか?」
「別によかろう。だが復讐に来るならきちんと準備をして欲しいものだな」
王城簒奪から一週間しても、王子クフの行方は杳として知れぬまま。
しかし、この時代の人間が反乱を企てた所で大した脅威にもならない。門浦はすでにクフへの興味をなくしていた。
「ピラミッドってのを見たか? ありゃすげえな。俺も俺のピラミッドを作ることにした」
「馬鹿か?」
「馬鹿で結構だぜ。せっかく権力をほしいままにしてんだ。『現代』まで残る物を作らにゃ損だぜ」
風呂に入って髪とヒゲを切ったマツは、恐ろしくスマートな男になっていた。無駄な贅肉をこそげ落とし、闘争以外の全てを捨てた者、それがマツだった。
彼が削り落として来たものには、社会的地位も、名前も、家族も、人間性も含まれる。
美咲が観察する限り、マツは社会的地位があったはずだ。かなり高い教育を受けていた。洗練された所作と思慮深い口調。成金ではないだろう。
金持ちの道楽として『消費』される側だった美咲にとって、金持ちは敵だった。しかし、全てを捨てて来たであろうマツのことは嫌いにはなれなかった。
「彫像が必要なら作ってやるぞ。今作っている作品が完成したらな」
「お前に作られんのはゾッとしねぇな」
顔をしかめる門浦、マツがクツクツと笑う。
「巌野氏の表の作品は有名だ。三倍は色男にして貰えるだろうよ」
「ぶっ殺すぞ」
芸術家、巌野違畝は珍しく表に出てきていた。普段彼は与えられたアトリエ、通称『屠殺場』に籠り切りである。
巌野の『作品』を、美咲はスマートフォンで見せてもらった。
携帯電話の進歩と画面のデカさと画素数に感動したのも束の間、巌野の『作品』に美咲はビビリ散らかした。
巌野は石工だった。大理石の彫像が専門だった。彼は天才的な芸術家であったけれど、残念ながら狂人であった。
「ええと……これ、石でやすよね?」
「人間、必要なものだけを拾ったら、結局こうなる」
ぶっきらぼうに言い捨てるマツ。ならねーよ。
巌野は、人間の表裏を逆にする。
人体模型とはまた違う、皮膚、肉、骨、内臓……その順序を逆にした彫像。
大理石であるのに異様に生々しい内臓が、ひっくり返した骨の外側に付着しているというものである。
「あの子で無いならばどうでもいい」
「私グロは苦手なのよね」
そんな風にバッサリ切り捨てる勇気が、美咲には無かった。
「人間どんだけ表を取り繕っても、中身は◯◯◯穴とクソ袋だろ」
「その通りだ」
恐ろしい事に、まったく興味なさそうな門浦の言葉が正鵠を得ていたようで、巌野は門浦を気に入ってしまっていた。
「金はどうする?」
「ある奴から奪えばいい」
「馬鹿か? どれだけの仕事をさせる気だ、そう簡単に行くか」
「ならば『向こう』の時と同じことをするだけだ。金持ちに女をあてがう……とびきりのな」
現実側で、門浦は私立高校を完全に支配下に置いている。女理事長や女子生徒を性的に奴隷にし、彼女らを利用して男を籠絡している。
「俺様の経験上、どんな男も喜ぶ女は『上司の女』か『女子高生』だ。おいシス、お前ん所の連中は好きにしていいんだったよなぁ?」
「カドゥーラお兄ちゃんが煮るなり焼くなり折り畳むなり」
王座の脇でフルーツの皿を摘んでいたシスが、恭しく……しかしどこか面白がる口調で答えた。
「よし、男は肉体労働、女は全員娼婦にするぜ。処女は金持ちの接待に使う。それと、前王后や娘どもはまとめて、『金を積めば犯れる』って噂を流させるか……クソ◯◯◯」
「ひっ、はい!」
今日は下着姿で直立不動だった巴静がビクビクした声を出す。美咲は彼女を哀れんでいた。
「聞いてたな? 官僚どもや召使いは好きに使っていい。上手く動かせ。だが、俺に歯向かおうとか考えんなよ?」
「は…………はいぃ」
歯をガタガタ鳴らし、涙を浮かべる静。門浦は顎で動かす。
「よし、行け。服は着ていいぞ」
「はい、あ、ありがとうございます!」
ちなみに優秀な大臣や官僚のほとんどは死んでいる。門浦に抵抗して粛清されたのだ。
「よし、次は神埼」
「何? 『他の男なら殺されても痛くない?』」
「ちげーなぁ。男漁りがしてえなら止めんが…………あー、神崎お前淫売だろ?」
「ケンカ売ってる?」
神崎はむしろ楽しむような声色で尋ねた。門浦は神崎を警戒していて、しかし役立つと考えている。二人の関係は美咲にとっては謎そのものだった。
「悪いな、なんつーんだ?」
「夜職?」
「そう、現代のヨルショクのテクを仕込んでやれ、殺し屋に使ってもいいぜ」
神崎は考え込んだ。当たり前の話ではあるが、性行為のテクニックは秘め事である、大々的に勉強会を行うものでもない。
となれば、動画も何も閲覧仕放題の現代に比べて、この時代の技術や知識が発達していないのは確実であった。
面白そうだ。
神崎は門浦に対してあまり良い感情は持っていない。しかし【望み】のために協力的ではある。
興味深い事柄ならば、断る理由が見つからなかった。
「あまり期待しないでね」




