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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第三章 合い食む餓狼

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20310 約束された死



 2008年のN県豆降(まめふり)村に、『獅子堂会』という新興宗教がある。

 宍戸敏夫はその『獅子堂会』の宗教指導者であり、同時に【狩人】でもあった。


 四十代から五十代と思われる、年齢不詳の温和な男。【狩人】であるということは当然、『殺し奪うだけの才能』の持ち主。

 一度目の原始の戦いにおいて、宍戸は現代での利益を餌に複数の【狩人】をまとめ上げ、『帰還待ち組』を作り、中盤の抗争と混乱の一因となった。


 …………宍戸は利己主義で残忍な男である。しかし、信用に値する。少なくとも長月と笛吹(うすい)はそう感じていた。


「長月くんと笛吹(うすい)くんが居るのか……参ったな」


 笛吹、長月、(ばん)、そして酔っぱらいの佐香とクフの五人の前に現れた宍戸。

 彼は困ったように髪を手ぐしで整えた。


「クフを殺しに来たのか?」

「捕らえに来ました。その子は【ドラゴン】でしょう? 門浦はその子を殺せば終わりだと思っているみたいです」

「……!?」


 佐香がクフをギュッと抱きしめた。宍戸は椅子から立ち上がりもせずに言葉を続ける。


「門浦側には少なくとも【狩人】が他に五名。彼らは王神を殺害し、国家を支配し、その権力を利用して【ドラゴン】殺しを狙っているようです。協力はできそうですか?」

「待て、オッサンあんたは『そっち側』なのか?」


 蛮が肩を怒らせ、庇うような位置に立つ。長月、佐香、そして笛吹。女たちを守らなければならないという不断の決意。


「は? なんでです? 長月くんと笛吹くんが居るんですよ?」

「ん?」


 宍戸の穏やかさが崩れた。本気で驚いている。心外極まるという顔。


「この状況において、最強の駒が揃っているんですよ?」

「んんん?」


 蛮は振り向いた。威嚇する猫みたいな顔の佐香は怖いけど置いておいて。長月は恐ろしいほど警戒していない。笛吹は……笛吹もなぜかあまり警戒していない。

 えぇ……あの、手負いの狼みたいな笛吹が? この爽やかすぎて胡散臭いオッサンを? 蛮は少なからずイラっと来た。


「笛吹くんは【ドラゴン】の位置を把握できるんでしょう? 長月くんは相手の能力を見抜けます。今は『まず【ドラゴン】を探す所から』の状況。絶対的ですよ。

 対してあの危険な連中は、暴力で叩き潰す段階になって初めて活躍する。どちらに付くかなんて考えるまでもないと思いませんか?」


 あまりにも理路整然としすぎていて、逆にムカつく。蛮は反論したかった。しかし、蛮の頭では番犬のように唸るのが精一杯だった。


「ガルルルルルル」

「優秀な番犬だ。本能で私が悪党だと分かっていますね」

「ふしゃー! オッサンは嫌い! 可愛い未成年だけがいい!」


 欲望に正直な佐香、蛮は冷静になった。酔っぱらいと同レベルは嫌だ。


「笛吹、信用できるのか?」

「正直に言っていいか?」

「お、おう?」

「蛮より信用できる。宍戸は死ぬまで戦う」


 蛮は開いた口が塞がらなかった。こここ、こいつの方が、信用……!? はぁっ!? なんで??


「基本情報は憶えているな? 2008年と2024年。私と宍戸は2008年側だ」


 長月が宍戸の側に立つ。佐香も2024年側。


「私は宗教法人『獅子堂会』の指導者です。聞き覚えは?」

「…………」


 蛮は頭を振った。少なくとも、自分が生きてきて聞いた記憶はない。


「『獅子堂会』は2008年末に内部分裂による内ゲバと、警察の突入でほとんどの信者が死んでいる」

「内ゲバとはひどいな、まだそう決まったわけじゃないですよ」


 未来を淡々と語る長月と、穏やかにたしなめる宍戸。蛮は青ざめるのを感じた。宍戸は死ぬ? 宍戸の『現在』が何月なのか分からないけれど。


「何か分かったのか?」

「全く。ただ、今のところ反乱の目は皆無なんですよね」

「やはり『うち』が原因なのか? ちなみに私は殺し屋として『獅子堂会』に潜入する。生きて戻らない」

「もがもが」


 佐香が話を理解していないクフを抱きすくめた。大きな乳房に顔面を潰されて、呼吸困難に陥っていた。羨ましい。おっぱいに溺れるのは男のロマンだ。蛮は指を咥えた。


「痛って!」

「真面目な話をしているんだが?」


「私と長月さんの【望み】はシンプルに『生存』です。

 私の『獅子堂会』で何があり、私たちは死なねばならないのか…………ちなみに他人事ではありませんよ、【ドラゴン】が関係します。そして我々は2024年の方々よりはるかに幸運です」


 蛮は蹴られた(すね)をさすりながら宍戸を見た。幸運? 死ぬのに? 何が幸運なのだ??


「私たちの死は予期されている。タイムリミットが明確だ。だが」

「オレたちの未来は何も分かっていない……確かにな」


 笛吹が言葉を引き継いだところで蛮はようやく理解した。


「俺が守ってやる!!」

「まず自分の身の安全を守れ。そうしたら、その時には背中くらいは任せてもいい」


 蛮はいくつもの言葉を飲み込んだ。

 お前は女じゃないか、身体だって俺のほうがデカくて強い。どれほど性格が尖っていても、舌鋒(ぜっぽう)が鋭くても。お前は。



 それに俺は、笛吹お前のことが…………。


 




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