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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第三章 合い食む餓狼

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20306 クフ


笛吹(うすい)、無事か?」

「問題ない。宍戸たちを呼んで来る。この人たちのケアをしなくては」


 【狩人】たちがこの時代に訪れて、二週間が経過していた。

 その間に、門浦とその一党はメンフィスの街にある王城を襲撃、王神スネフェルを殺害して王権を簒奪(さんだつ)していた。


 一般的に考えれば、どこの誰とも知れぬ野盗の襲撃によるクーデターなど冗談ではない。

 数名のならず者による暴力。これで国家元首が死んだとしても、国家経営権が移るはずもない。ないのだが。


 現人神であり、王神の後見人であり、王権の授与者である『女王イシス』が門浦を認めていることで、そのありえないはずのことが発生していた。


 この時代には、門浦とその一党の他に別の【狩人】らも召喚されていた。

 剃刀(かみそり)の目に赤い唇の美剣士も、食人尼僧ザクロも【狩人】であった。


 美剣士笛吹は、その他数名の【狩人】とともに仲間を集めながら【ドラゴン】を狙っていた。

 ザクロとの遭遇もその一環である。彼らは現在六人の一党であり、七人目としてザクロをスカウトするつもりだったのだが。


「殺したのか?」

「殺した。こいつはダメだ」


 笛吹の必殺の一撃は、ザクロの指の間を正確に射抜き、口腔から喉の貫通、頚椎(けいつい)を破壊して即死させていた。

 先程から質問しているのは身長130センチ台の小柄な少女だ。小学校高学年から中学生に見える。腰まである緑の黒髪と痩せてこけた頬、やけに大きな目がアンバランスだ。


「仕方ないな…………安心してください。暴漢は排除しました。私たちは治安維持関係者です」


 折りたたみナイフでザクロ被害者の拘束を解きながら、少女長月は当然の顔で嘘を吐いた。

 その間に笛吹は外に出る。この時代の夜は暗い。真っ暗だと言ってもいい。夜間に明かりを灯すほどの資源はないし、人々は日が沈めば眠ってしまう。


 この街で、一家惨殺魔の噂が上がって二週間。既に被害者は五家族にものぼっていた。

 犯人は夜間に家に侵入し、一家を殺害。現場には大量の血痕が残るも、家財は手つかず、一家は行方不明。これがザクロの起こしていた事件の報告だ。


「笛吹っ!」

「大きな声を出すな、片付いた。宍戸とクフの所に戻る」


 180センチのスポーツ刈りの青年が駆け寄る。蓮田(ばん)。笛吹の同級生でルームメイトの男。

 笛吹、長月を含む七人はザクロの事件を追っていた。【狩人】が関係するかもしれない以上に、『七人目』が黙っていなかったからだ。


 【狩人】のリーダーは宍戸、宗教指導者を自称する物腰柔らかな男である。だが、彼らの行動指針を決めているのは11歳の幼さの残る少年だった。


「ケガは……?」

「オレがそんなに弱く見えるか? いいか蛮、仲間を心配する気持ちは理解できるが、過ぎれば侮蔑(ぶべつ)だ。信頼しろ」

「…………悪い」


 二人は連れ立って、真っ暗な街の中を進む。星明かりしかない夜闇。手にした松明だけが頼りで、街灯の類はない。

 この闇こそが、ザクロの失態であった。夜遅くまで煌々(こうこう)と明かりを灯している民家など、ほとんどない。


 これまでのザクロの犯行現場には、燃え尽きた松明が複数存在していた。ザクロが夜通し被害者を調理し、食していたためである。

 別の時代ならば、ザクロは簡単には見つけられなかっただろう。


「やおやあ、上手く行ったみたいだね。優秀な若者が働いてくれてお兄さんは助かるよ。被害者は独身女性か未亡人だったかな?」

「子連れの夫婦だ」

「人妻か、上手くやらないとね」


 フラフラと、ブランドスーツを身にまとった伊達男が合流する。彼は松明を必要としない。【義体】の能力で月明かりでも十分な視界を確保できる。


「蛮、相手をしてやれ」

(こおり)さん、さすがに旦那のいる前で口説くのは難しいと思うんですが、どんな手を使うんです?」

「夫婦ってのは一枚岩じゃないよ、別人だからね。相手への不満は溜まっているものさ」


 整えたヒゲをさすりながら、イタリア人のクォーターだという伊達男は、男ですらドキッとさせる色気に満ちたウィンクをした。

 女好きの相手は任せて、笛吹はリーダーと宍戸の待つ場所へ到着。


「お疲れ様です。見つかりましたか?」

「悪いが処分した。あれは狂人だ」


 ノーネクタイで白いスーツの物腰穏やかな中年、人を安心させるような微笑み。笛吹はその顔を見るたびに眉をひそめる。

 人を騙すのに長けた詐欺師の面をしている。湧き出る嫌悪感こそあるものの、宍戸は信頼できた。目的が同一、【ドラゴン】を殺すことだからだ。


 近くの机には、少年が突っ伏して眠っている。彼を膝に乗せて、大柄な女性が椅子に寄りかかって高いびき。


「クフ、悪いが起きれるか?」

「んん……」


 この時代の人間は日が暮れたら寝てしまう。この少年は、この時代の人間であった。

 おかっぱに切りそろえた髪、浅黒い肌、あどけなさの残る中性的な顔立ち。それでいて、少年であってもしっかりと訓練したしなやかな肉体。


 彼の名はクヌムクフ。どれほど賢明で勤勉、歴史への造詣の深い読者であっても、この名前は知らないだろう。

 彼は歴史において、凡百の王神(ファラオ)の一人として描かれているに過ぎない。


 ただ、一部のフィクションで取り上げられていることから耳にしたことはあるかも知れない。

 クヌムクフ。あるいはクフ王。


 後にギリシアの歴史家ヘロドトスが『残虐非道な独裁者』と評価したエジプト暗黒時代、稀代の暴君。

 一部のフィクションにおいては、『百万の奴隷を使い潰して巨大ピラミッドを作った』とされる男の……幼き姿である。


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