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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第三章 合い食む餓狼

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20304 手段は選んでいられない


「では、こっちはいいか?」

「あ?」

「ぐ…………げふっ」


 門浦に切り倒されて、まだ息のある男を、作業着の男が指さした。


「てめー……なんで俺に聞くんだ」

「王様なんだろ?」


 作業着の男は、身長は高くなかった。160センチ程度だろう。しかし、その肉体は凄まじい筋肉に覆われ、脚は閉じられず気を付けもできそうにない。


「…………私は巌野違畝(たがね)。石工だ。定期的に私に『モチーフ』をくれ」

「はははッ! お前物わかりがいいな! このメス奴隷とそこのガキ以外なら、好きにしていいぜ」


 巌野が顔を上げる。女たちがすくみあがった。ぐるりと見回す巌野。浮浪者が舌を打った。


「イシスだったか? 質問がある」

「ん? なぁに汚いお兄ちゃん」

「門浦が得たのは『奪う権利』だな?」


 浮浪者がフラフラと前に出る。血走った目で、ここにいる誰でもない何処かを見る。


「つまり、これから『持っている者』から奪う必要があるな?」

「そうなるね」

「俺はマツだ。相手側に『戦士』がいたら、最前線で戦わせろ」


 門浦は瞬きし、ふへへと笑い舌なめずりした。

 そしてその視線が美咲とパーカー男に向く。


 走れば門浦からは逃げられる。だが、どこへ? 右も左もわからない場所で、どうやって? 

 しかし、パーカー男からは逃げられないし、マツも追ってきた場合も勝てないだろう。


「う、うぅぅ……」

「僕はこの女だけでいい。この女をくれ」

「なんだ? ヒーロー気取りか?」


 痰を吐き捨てる門浦、静の毛髪にへばりつく。


「ヒーロー? うん。僕は『あの子』をこの世の全てから守るヒーローだ。いいな。それはいい。ワクワクしてきた。

 よし、僕はヒーローだ…………ああ、でも『もっと似てる子』が居たらそっちと交換してくれ。『あの子』のことは分かるだろ? 似てる子がいたらどんどん教えてくれよ。『あの子』は一人いればいいんだから、二人目以降はいらないけど、どうせなら一番似てる子がいいじゃないか」


「おっおう」


 あ、こいつヤバいやつだ。

 門浦と美咲は同時に理解した。


「首輪はつけとけよ」

「首輪なんてつけない。『あの子』には似合わないからな、その下品な服も似合わない。早く着替えさせないと」

「…………」 


 逃げなければ。美咲はしかし思うように足が動かない。門浦か、この男か、その程度の違いしか無いのならば。逃げなければ。


「名前は?」

出羽(でわ)

「み、美咲……」


 今すぐには難しいだろう。隙を探せ。従順なふりをしろ。敗北し、蹂躙され、全裸で土下座をする静を見て、美咲は覚悟を決めた。

 命だ。生きて帰り、死地妊(しちにん)を取り戻す。そのためならなんでもする。

 

 この、異質な執着心で美咲を見つめる出羽も、人間だ。つまり付け入る余地は必ずある。


「神崎さんよ。あんたはどーすんだ、え?」

「あら、私もあなたのオモチャにされるものだとばかり思ってたけど?」


 壁際に立っていた女が首を傾げた。儚く、物憂げで気怠い。保護欲と嗜虐(しぎゃく)心の両方を誘う美女。


「黙れよ毒婦」

「ひどい言い草……でもまあ、仕方ないわよね」


 神崎が下に向けた手が光る。現れる【武器】。細い針のような、優美な細工の成された装飾品が床に転がる。


「私は神崎、【武器」は毒付きのアクセサリー。この状況で敵対するほど馬鹿じゃないわ。門浦さんに恭順するけど……なにか必要?」


 他の【狩人】と神崎は違う。理由は本人たちには明白だ。門浦と神崎は原始の戦いで一度は肩を並べ、しかし最終的には道を違えていた。


「【情報】だ。てめぇの事だから上手く咥えこんで上手く取り入ったんだろ? 誰が生き残りやがった?」

「まあ、ひどい言いぐさ。私が生き残れるように見える?」

「…………はっ、違いねぇや」


 門浦は、この薄幸を絵に描いたような女を最大限に警戒していた。神崎は人に取り入り、(たら)し込む達人だ。

 しかし、それでもまだ警戒が不足していた。神崎が生き残り【望み】を叶えた可能性を、微塵(みじん)も考えていなかった。


「何を企んでやがる?」

「何も? 私たちの目的は【ドラゴン】でしょう?」


 この会話を聞きながら、ほくそ笑むシスに気付く者はない。他ならぬ【ドラゴン】当人。そして。


「【望み】を叶えるのに、国力と武力は必要よ。あの後大変だったんだから」

「いい気味だぜ」


 これは間違いなく神崎の本心であった。二十人足らずで何百人と相手にしたのだ。さもありなんという所か。


「確実性と安全が欲しいわ。…………【望み】で幸福を得るためには何が必要か、何を差し出せばいいのか、それだけの話よ」

「俺を利用するつもりか?」

「私を利用していいと言ってるつもりだけど?」


 門浦が下卑(げび)た笑みを浮かべる。儚く、弱々しく……支配欲を刺激する美女の邪悪さと冷酷さを、門浦は原始の山頂で目撃していた。

 神崎は邪魔者を、【武器】を使った簡易ガス室で毒殺したのである…………現実に門浦らを欺くための嘘であったが、少なくとも門浦はアレが神崎の真の姿であると思い込んでいた。


「私は【ドラゴン】を殺して【望み】を叶えたい。何かを得るためには何かを捨てなきゃ。その娘には悪いけど、門浦さんと組むのが最善よ。私は手段を選ばないわ」


 神崎の宣言に、美咲は深く頷いた。

 同感だ。生き延びてやる。美咲自身のためではなく、眠ったままの主人格への手向けのためにも、そして、『くねくね』によって奪われた死地妊(しちにん)のためにも。


 対して、緑の髪の少女シスは、静かに妖しく嘲笑あざわらう。

 なんて愚かな連中。なんて愚かな【客人(ディシディアン)】。


 彼らは誰一人分かっていない。

 そう、三度目ともなればシスとて学ぶ。


 【ドラゴン】? それは私であり、そして【(ドラゴン)】の事でもある。

 だが、貴様らは気付かない。貴様ら【客人(ディシディアン)】の感覚を、私は解析し、理解した。


 さあ、現れぬ敵を待ちながら、この地を血と炎で染め上げて。

 期待してるよお兄ちゃん。




 …………『底無しの餓狼』門浦(カドゥーラ)随一(スフィス)は【ドラゴン】だ!



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