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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第三章 合い食む餓狼

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20303 巴静

 (ともえ)静は努力の人間である。

 警視監の父親を持ち、母親は政治家の娘。幼い頃から複数の習い事を行い、子供らしく遊ぶこともなかった。


 有名私立小学校で模範的生徒として過ごし、中学ではなぎなたで全国大会三年連続進出、成績優秀、生徒会長として生徒を牽引した。

 高校でもその生き様は変わらず。なぎなたは全国大会優勝三連覇、進学校でありながら成績は常にトップテンに入り、一年で生徒会長に当選、二年間務め上げた。


 厳しい鍛錬をしながらも勉学にも励み、東京大学を現役合格。在学中にいくつもの資格を取り、公務員試験も余裕で合格。エリートコースで警視庁に入庁した。


 父親譲りの頑健な肉体と合理性と成果主義。

 母親譲りの美貌とカリスマ性と血統至上主義。


 静は誰よりも努力家であり、全ての競争に勝ち抜いて来た。

 幹部候補であるキャリア組の採用は、毎年十名以下。その中でも静はトップの成績と実力を発揮し続け、若干二十六歳の若さで警視にまで出世した。


 静は女王だった。

 誰よりも頭脳明晰で、合理的。多くの警察官が彼女を慕った。かしずいた。両親からのコネもあり、生半なライバルでは歯が立たない。


 計算高く、狡猾(こうかつ)で失敗をしなかった。

 静の周りには、常に彼女の得る利権のおこぼれを求めてイナゴのような取り巻きが幾重にも層を作っていた。


 静の弱点の一つはその取り巻きの態度が普遍的であると勘違いしていた事である。


「来いよクソ◯◯◯。王様が誰なのか、その身体にたっぷりと叩き込んでやんよ!!」

「下品で、猥雑で、低能で、語彙(ごい)力もない……他人のおこぼれを掠め取るしか能のない、努力を知らない豚がッ!」


 二つ目の弱点は、努力をすれば必ず成果が出てしまった才能であろう。

 静は努力した。結果は必ず出た。だから静は、全ての敗北者は、努力の不足であるとバッサリと切り捨てた。


 静は努力を重ねた。才能のある人間が、金を惜しまず、正しい努力を続けてきたのだ。普通の人間では絶対に勝てない。

 静は優秀だった。だが、優秀過ぎたからこそ、無能な……生まれついて弱いもの、知能の低いもの、不器用なもの……何かに欠ける弱者を理解できなかった。


 結果的に静は肉体労働者を見下した。知的な生産を行えない全てを見下した。社会的弱者を見下した。

 努力をしない怠け者だと、負ける方が悪いのだと。


 そう公言してはばからなかった。






「も、申し訳、ありま……ひっく、せんでした……ぅぐ……」

「あ? 謝るなら態度があんだろ? 土下座しろよクソアマ」

「お…………ぅっ、ぅぐぅ……」


 勝負にならなかった。

 【狩人】であるなら。当たり前の事だった。少なくとも【狩人】戦闘に慣れた神崎と門浦にとっては、当然の結果だった。


 静の【武器】は薙刀だった。槍などの長物は、一対一の決闘においては圧倒的に有利である。この場は大広間だった。長物を振り回せるだけの天井の高さと、広場があった。

 カトラスしか持たない門浦と、互いに【武器】を構えた状態から戦ったならば、静が勝っただろう。


 だが、そうはならなかった。


 門浦は静の【武器】が長物であると見るや否や体当たりをした。【武器】を出している最中に攻撃をしないルールなんてどこにもないのに。

 それどころか、【武器】を出しているタイミングこそが最大の隙であると、門浦は原始の戦いで学んでいた。


 【盾】だけで全てを防ぐ堀や、召喚しながら身軽に飛び回り、打撃の瞬間に合わせてくるモアに、煮え湯を飲まされたのだ。これで学ばない奴はバカであろう。


 門浦は静に馬乗りになり、左右の拳を十回ずつ顔面に叩きつけた。

 静の鼻は折れ、顔中あざだらけになり、口の中もズタズタに切れた。降参は、許されない。


 そのまま高笑いと共に服を引き裂かれ、静は犯された。シスは笑っていた。女たちは怯えていた。

 【狩人】たちは? 観察していた。


 暴虐の限り、欲望のままに凌辱(りょうじょく)される静。悲鳴、慈悲を乞う声、絶望の喘ぎ。


 美咲は恐れていた。これが、蹂躙じゅうりんされる女の姿かと、こうはなってはならないと考えていた。

 では、あの門浦という男に頭を垂れて慈悲を乞うのか? そして慰み者になると?


 生き残るにはそれしか無いかもしれない。

 だが、それだけは許せない。美咲という人格が許しても、その身体は美咲だけのものではないのだ。


「逃げんなよ」

「ひえっ」


 パーカー男が出刃包丁をぶら下げて、ドブ川より濁った目をして美咲を見ていた。静の尊厳が破壊されている最中も、ずっと美咲から目を逸らさない。

 狂人のたぐいであることは明らかだが、執着される理由がわからない。


「何だてめぇ?」

「…………」


 いつの間にやら、薄汚れた作業着で坊主頭の男が静の横に座り込んでいた。

 門浦の威嚇を意に介さず、抜けた腰で土下座しようとする静を、最前列で観察している。

 

「いいモチーフだ。創作意欲が湧く。王様、名前は何だったか……? まあいいが、まあいい。うん。『中身』を見ていいか?」

「『中身』?」


 ビクリと震える静。門浦は尋ね返し、その意味を理解して青筋を浮かべた。


「だめに決まってんだろーが! そいつは今日から二十四時間俺の◯◯◯奴隷なんだよ!!」

「ふむ……」


 ここで殺されるのか、奴隷にされるのか、どちらが静にとって不幸だろうか。

 美咲には判断がつかない。



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