20251 旅路の果て
小野が死んだ。
「うあぁぁぁ、うわあぁぁぁあん!」
【ドラゴン】である雷切は既に完全に戦意を喪失し、残る【狩人】は探偵、目貫千と鶴来翔斗の二人。
人目も憚らず号泣するちどりを、千は羨ましかった。千は尻ポケットを探った。ホープが欲しい。タバコを喫いたかった。
「ぅ、うう……なあ、タンテー……小野は何を……っ」
「ダメだ」
千は表情を殺して頭を振った。感情を表に出さないのは得意だった。悲しくなるほどに。
本当は叫び出したい、胸の奥を嵐が吹き荒れる。だが、そんな醜態は千のハードボイルドが許さない。
「…………?」
「小野は戻れる。あいつの一番の願いは、オレが叶える…………だが、立花。分かっているだろう?」
ちどりは瞬きしてから、頷いた。
ちどりは、【ドラゴン】はここまでだ。おそらく現代に記憶を持ち越せない。
「…………タンテーさ、バカだよね」
「なんだ突然」
「マーロウみたい」
「…………?」
『プリンセスのたまご マーロウ』ちどりにとっては十年以上前の女児アニメだ。
なお、2008年ではまだ放送されていない。
「昔のアニメ、『強くあらなきゃ生きてけない。でも、優しくないと生きてく理由がない』」
「はっ」
千は鼻で笑った。
「ハードボイルドなアニメだな。だが、オレは優しくない。立花を殺そうとしている」
「…………うん、そだね」
ちどりは素直に頷き。それ以上の言及を避けた。翔斗も動揺に何の指摘もしない。
千の強さを守るために、雨は降っていなくとも、彼の頬を濡らすものなど見えはしない。
「立花……殺し方は、ネヘプと同じでいいか?」
「ダメだ」
ドライバーを召喚する千に、翔斗が首を振る。
「あなたはこれ以上背負うな。僕にも分けてほしい」
千は大きく息を吸い…………吐いた。誰かがやらなきゃならないのなら。
「タンテー、小野となら分かち合えたか?」
「立花、それは反則だ」
千はドライバーを消した。
一つの旅が終わる。苦々しい事ばかりの旅だった。
「言い残すことは?」
「イムさんに挨拶できんかった」
「オレもだ……」
『シャーク』のことも丸投げして来てしまった。申し訳ないけれど、イムなら何とかしてくれるという信頼感があった。
「タンテー、色々あったけど……楽しかったよ。ホントの、マジでさ。
ちぃバカで性格悪いくせに人を見下してて、実は友達いなくって……」
「分かる」「…………」
「雷落とすぞ?」
頷く千と露骨に目をそらす翔斗。
「知らない人とこんなに長く居るのも初めてで、誰かと長く話したのもネヘプ様が初めてで……」
右手一本で、精一杯の身振りで、一生懸命に話すちどり。
「楽しかった……ふへっ、楽しかったよ」
「…………オレもだよ」
「えへっ」
ネヘプが好きだと言っていた笑みが、滲んだ視界が、この時代において千のこころに焼き付いた最後の光景になった。
ちどりの最後を見たくなくて千は目を閉じた。
…………程なくして、意識は銀河に飛んていた。
第二章、『仇国の魔女』
終幕
第二章はこれで終了になります。お付き合いいただきありがとうございました。
少しの時間休憩をいただき、2/1から第三章を始めようと思います。
主人公は美咲と笛吹になります。第一部キャラも結構出てくるので、いないとは思いますが、もしも第二部しか読んでいらっしゃらない方は一部を読んでくださると助かります。
今後の予定
序章
二章 ←いまここ
三章 美咲、笛吹
五章 管金、堀
一章 石見
四章 鶴来広斗、川奈
六章 ←千再登場
今後ともよろしくお願いいたします。




