20250 手遅れ
こんな夢を見た。
「この後飲みに行こうぜ、そろそろ小野も仕事終わるはずだからさぁ」
「またぁ? 仕方ないですね。マサシさんは?」
「僕は飲まないからね、運転手になるよ」
実家に寄生して牛丼屋のパートをしながら、SNSの裏垢で男を煽り笑いものにする。
そんなゴミみたいな生活ではなく、何でもいいからえり好みしないで仕事して、身だしなみにも気を遣って、コスプレや同人誌なんかも書いて、好きな事をして生きたりして。
金曜日には友達と地元のカードショップに集まって、遊んで、その足で飲みに行くような。
「いいよ別に」
「どうせ湘南まで行くんでしょ?」
顔も知らない友人と、その恋人の小柄で小太りで、穏やかでいつも優しいおじさん。
仕事終わりの口の悪いOLを拾い、わざわざ離れた行きつけの店に飲みに行くとかどうだろう。
「なんであたしも連れてくんだよ」
「どーせ友達いねーんでしょ」
「うっせうっせ」
湘南の創作料理店だか、ハワイ料理店だか……詳しくは聞いてないけれど、普段口にしない料理だから興味があった。
料理、作ってもらえばよかった。
「…………ふぅ、うるさいのが来たな」
「んだよタンテー、キレードコロに囲まれて嬉しいだろ!?」
「黙ってりゃな」
四十半ばのくたびれた探偵が悪態を吐き、無愛想で不器用な店員が会釈する。
「ナニたべる? おいしいおサカナはいってるヨ」
きっといつも笑顔で陽気な黒人男性がいて、探偵と店員は彼の一挙一投足にハラハラし通しで。
同じお店の常連には、きっとあの人も来てくれる…………外資系の役員? いや、あの人が元気にやってるなら、肩書とかはどうでもいい。見習いでも、留学生でも。
…………あの人が、居てくれるのなら。
ちどりは後悔ばかりだった。
『シャーク』はいい人だった。最初に怖がって失礼なことをしたけれど、蒸し返す事もなく、静かで真面目な人だった。
雷で、焼き殺してしまった。
袖搦にはお世話になった。みんなのまとめ役だった。どんな皮肉も軽口も許してくれた。生意気で、バカにしてはかりで、ごめんなさい。
ホントは殺したく無かったのに。
ポロルはちどりに懐いていた。死んじゃったのはつらかった。ワニに襲われた時、みんなを呼んでくれてありがとうって言わなきゃ。
そして……小野は。
ちどりにとって初めての恋人がネヘプなら、初めての友人は…………。
「外したか!」
クリスは暗殺型の【狩人】である。ちどりがふらふらとこの岩だらけの荒地に来て、ぼんやりと空を眺めているのをじっと潜んで観察してきた。
殺す機会は無数にあった。しかし、確実でないからと見送ってきた。
クリスにとって雷切は初見であった。何ができるか、どんな【武器】【防具】かも判別できなかった。
肉体的に見てパワー型ではない。射撃か暗殺か、それとも特殊なタイプか。
どれにしても反射神経はいいだろう。殺気を感知した瞬間に【防具】を発動されかねない。
クリスのクリスナイフは【武器】というか祭具だ。攻撃力は期待できない。
だからじっくりと待っていた。最悪、小野たちが戦って全滅し、勝利で気を抜いた瞬間を狙うつもりだった。
そのクリスが動いたのは、雷切の【防具】召喚がゆっくりだったからである。高速で召喚できないのならば、【防具】召喚中は隙だらけである。
躊躇いなく動き、クリスナイフを突き立てた。
「がふっ」
「チッ」
クリスは舌打ちしてクリスナイフを解消しながら迷わず回れ右した。
自分が刺した相手に興味はない。横向きにした波打つ刃は、【義体】の力もあって正確に肋骨の隙間に突き刺さった。
奇妙に波打つ切先は、生き物のように潜り込み、内臓を貫き心臓に切り込んだ。
【ドラゴン】を庇った女、小野が【防具】を付けていれば致命傷は避けられたかもしれない。しかしすべては後の祭りだ。
なんで【ドラゴン】を庇うのか知らないが、とんだ邪魔が入った!
一刻も早く逃げなければ。クリスは振り返らなかった。背中越しに感じた殺気、岩陰に飛び込むのと、超高温のプラズマの奔流が叩き付けられるのはほぼ同時。
「ああああッッッ!! あああぁぁぁッッ!!!!」
一瞬でも振り返っておけば、この電撃を予期できたのだろうか。なんにせよ、クリスは一瞬で焼き払われて焼死した。
「…………小野、死ぬな! 死ぬな!! ショーくん剣!! 剣くれ!!」
小野の身体を抱きすくめて、ちどりは叫んでいた。
【防具】は消失、そこにいるのは雷切ではなくちどり。哀れで弱い女の子だった。
「立花さん」
「早くしろよぉ! まだ暖かいんだ! 今すぐちぃが死ねば……! 小野の【望み】は叶うかも知んねぇだろ!!?」
言葉をなくす翔斗に代わり、探偵目貫千は静かに宣言した。
「…………手遅れだ」




