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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第二章 仇国の魔女

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20248 遺されたもの


 雨は夜明け前には止み、東の空から百万年前と変わらぬ太陽が昇る。

 そして、この太陽は一万年後も変わりはしない。『現代』が何年後なのか知らないけれど、きっと当たり前の顔で日は昇る。


「ネヘプ様が死んだのに、時間は過ぎるしちぃはお腹が減るんだよなぁ……」


 立花ちどりはげっそりとした顔で、エレファンティネの通りを歩いていた。街の二割は水に沈み、そして増水した河の流れは止まらない。これからもっと沈むだろう。


「ちょっとあんた!」

「…………」

「あんただよ! ひどいケガしてるじゃないか!」


 中年女性に肩を捕まれ、ちどりはよろめいた。抵抗する元気はなかった。

 【防具】を解消したことで【義体】による【超治癒】が発動し、ちどりは一命を取り留めていた。しかし、内側はボロボロで、左腕は失われ、まだ血が滴っていた。


「顔色もひどい、あっちにお医者さんがいるから、食事も出るよ!」

「あ、いやその……ちぃは、ふへっ」

「馬鹿だね! 雨が降ったんだ、これから何もかもよくなるんだよ、生きなきゃダメだよ!」


 明らかに誤解している中年女性、ちどりはなんと説明すればいいか分からない。

 ちどりも、ネヘプの政策は知っていた。彼は生命に順番を付けていた。そして、このエレファンティネに重傷者や重病人の居場所はない。


 そのはずなのに、片腕を失ったちどりに、中年女は生きろという。ネヘプがいなくなった途端に、ネヘプのやり方を全否定するかのごとくに。


「ネヘプ様ぁ……」

「そうだよ、ネヘプ様だ! あんたもあの演説を聞いてたのかい?」

「…………えんぜつ?」


 暴徒を諌めるためにネヘプは一席打った。その理論によれば、『今生きている者たちは死んだ者たちの命の上になりたち、彼らの代わりに未来を作るために生きねばならない』だ。

 ちとりは知らぬことではあるが、その言葉はすでにエレファンティネ中に広がっていた。


「あたしらはこの国の未来のために、生贄になった皆のために生きなきゃならないんだよ!」

「いやでも……」

「バカだねーあんた!」


 ゴネるちどり、中年女は尻を叩いた。


「女にはこっちがあるんだから。アタシもまだまだ産む気だよ! あんたもがんばりな…………あ、お医者様〜!」


 反論する隙も与えずに、中年女は行ってしまった。ちどりは言葉をなくし、肩を震わせた。


「う…………うぐっ」 


 ぼろぼろと大粒の涙が溢れてくる。


「うぁぁ……うぁぁぁん、ネヘプさま……ネヘプさまぁぁ……」


 突然わんわんと泣き出したちどりに中年女が駆け戻り、優しく肩を抱く。

 無抵抗で医者の処置を受けながら、ちどりは泣き続けた。






 『街の東の岩場で待つ』





 宮殿の外壁に突然描かれた『もの』に、エレファンティネの街は騒然としていた。空を飛べる人間でも居なければ書けない高さ、そして、複雑怪奇な図案。日本語だ。


「どう思う?」

「立花さんからの挑戦状だ。少しは冷静になったんだろう」


 エレファンティネに戻った二人の男、隻眼の探偵目貫(めぬき)(あまた)と、頭に包帯を巻いた青年、鶴来(つるぎ)翔斗だ。

 千に顎下から舌まで貫かれた翔斗だが、【義体】の治癒能力で傷は塞がり、舌足らずではあるものの通常の会話ができる程度まで再生していた。


 一度は千たちと敵対した翔斗であるが、ちどりを止めることに関しては積極的だった。誰よりも、彼女をこれ以上傷付けないことに意欲的だった。


「残っている【狩人】と合流する。袖搦(そでがらみ)さんは分からないが、【ドラゴン】を殺すのならば佐摩椿姫(つばき)とクリスは手を貸してくれるはずだ。合流場所などは?」

「決めてある。先に佐摩さんを解放しよう。宮殿の牢獄だ」


 翔斗にとって、ちどりは己の罪だ。『一度目』における弟の被害者。だから翔斗はそれまで協力していた椿姫を裏切り、ちどりの側についた。


「殺されなきゃいいがな」

「佐摩さんは納得してくれていたけれど、クリスさんには殺されるかもだ」


 佐摩椿姫は自分の愛のためなら手段を選ばないだろう。そして彼女の精神性は、同じく自分の愛を貫く他者を許容する。

 宮殿は洪水で家を失った難民で溢れかえっていた。しかし彼らの顔は一様に明るい。昨晩の雨が、この長い日照りの終わりだと信じて疑わない顔をしていた。


「いないな」

「神殿に行こう。集合場所だ」

「なら、先に野戦病院に行く。小野と袖搦さんがいるかもしれない」


 こちらも空振りだった。

 その上暴動と昨晩の雨とのせいで怪我人が多く大忙しだ。千は顔見知りのイムの従僕に伝達事項を伝えた。


 イム本人は『シャーク』の治療で手が離せないこと。そして、イムから王神ネチェリケトへの親書。

 クヌマトネヘプが死亡したため、この街には新たな管理者が必要だった。往復約二十日の間はイムがなんとかするつもりではある。


 従僕に王都への帰還準備をさせながら、千と翔斗は神殿に向かった。クリスとの合流場所である。

 神殿は野戦病院とは逆に暗澹(あんたん)としていた。暴動および洪水の被害者の死体安置場として利用されていたからである。


 …………この時代にいる【狩人】は、確認できているだけで十人。


 暴動の中の交戦で倒れたポロルと、投石紐の男帯石(おびいし)

 仇国(きゅうこく)の魔女 雷切になってしまったちどりと、雷撃の直撃を受けた『シャーク』。


 ちどりを探す千と翔斗、他に四人。


 小野、椿姫、袖搦、クリス。

 そのうちの二人、想定外の二人が神殿に居た。


 疲れ切った表情の小野と、焼け焦げた死体。


「…………よう、探偵さん」

「袖搦さんか?」

「そうだ、佐摩もやられた」


 千と翔斗の表情が引き締まる。つまり生き残った【狩人】はこの場の三人とクリスだけ。

 それで【ドラゴン】を攻略しなければならない。


「殺し方は分かってる………まずは、情報交換をしよう」


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