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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第二章 仇国の魔女

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20247 夜が牙を剥く


 津原椿姫(つばき)の【武器】は処刑剣(エクスキューショナーズ・ソード)である。刀身は3フィート、柄が1フィート。柄頭は洋梨方で、鍔は幅広で頑丈。


 刀身は黒く真っすぐ、肉厚で幅広、先端は平らで、刺突を一切考慮していない。むしろ先端ほど肉厚になっている。

 これは、重心を先端に寄せることで首を斬り落としやすくするための工夫である。そういう点で、処刑剣は斧に近い術理の武器であった。


 事実多くの斬首刑では剣よりも斧の使用が好まれた。特別な技術が要らず、執行の確実性が高いからである。

 それでも剣を使うべき。そえ考えた権力者達が作り出したのが処刑剣である。残酷さと不吉さで糊塗(こと)されているが、実際には見栄と虚飾(きょしょく)の私生児である。


 剣は、いつの時代においても権威の象徴であった。多くの地域、様々な時代。地球上のどこでも剣は特別扱いだった。

 理由は主に二つ、まずは単純に高価だったから。まるまる金属で作った武器だ。安物ではない。富の象徴である。


 そしてそれ以上に大事なこととして、剣は『殺すためだけの道具』なのである。

 多くの武器は狩猟、農耕、建築などの道具の流用から生まれる。しかし剣は、剣だけは徹頭徹尾殺すためだけの道具だ。近世以前の時代において、支配者階級には誰よりも殺しが上手い者が立っていた。


 斬首は簡単なことではない。それゆえに執行人には熟達の腕が求められた。

 王権の偉大さの証明として、あるいは司法の公正さの証しとして、処刑剣は象徴的であった。


 罪人の首を落とし、その罪を裁く武器。

 処刑剣は、許すための刃である。



「佐摩さん、あんたが正しい……【ドラゴン】は殺すべきだ」

「でしょ? その子がどうして【敵】側に回ったかは知らないし、興味がないわ。

 でも、私は【ドラゴン】を殺して【望み】を叶えるの。あの人と結ばれるためにね〜」


 佐摩椿姫(つばき)の事情は複雑だ。愛する男と結ばれるために、その父親に命じられ、過酷で性的な奉仕を受け入れている。

 しかし、その約束は口約束。愛する男の父親が約束を守るとは、椿姫自身信じていない。


 故に【望み】を求める。愛のために。


「……立花は、好きな人が死んだんだよ」

「お気の毒様。かわいそうに。あなたが男の子だったら骨の髄まで慰めて、死んじゃった女のことなんて忘れさせてあげたのに〜」


 椿姫との圧倒的な倫理観の違い。小野は顔をしかめ、袖搦(そでがらみ)はため息を吐いた。

 敵対的な女二人に囲まれても、袖搦自身は雷切の腕関節を極めているために動けない。


「殺すわ」

「殺すべきだ。が、駄目だ。捕まえたのは袖搦さんだ。袖搦さんの判断に任せるべきだ」


 冷たい雨が全身をずぶ濡れにする。遠く雷鳴、強い光が笑顔の椿姫と無表情の小野を照らした。


「僕は警察官だから、法の裁きを与えるのは別の誰かの仕事。一人でも多くの市民を助けるのが仕事。それが犯罪者でも」

「…………」


 ある種、狂気に近い宣言だ。自分が機械だと、システムの歯車の一部で、意思など無いと言い張っているのと同じ。


「ただ、好きな人が死んじゃったなら辛い気持ちは分かるよ。僕はこんなおっさんだからね。

 今は好きって言ってくれる子がいるけど、ゆきちゃんが居なくなったらきっと僕は誰にも愛されない。あの子に胸を張るために、僕は僕であり続けなきゃならない」


 小野は袖搦と探偵が道を違った理由が理解できた。二人はそっくりなのだ。自分の信じる同義のために自分自身を薪にして燃やしながら進む。

 いい男じゃん? モテるだろ? 小野はそう思ったが、彼女は自分の男の趣味の悪さをまるで理解できていない。


「その娘が居ても居なくても、私なら枯れ果てるまで愛してあげるけど〜?」

「…………結局さぁ」


 地の底から響くような声がした。

 怒りと、憎しみと、嫉妬と、その他色んな感情をごちゃまぜにして、喉から血が出るほど絞り出した…………星に手の届かない者の、絶望。


「みんな恋人いんじゃねーか!!!!」


 爆発音。小野と椿姫は吹き飛んで壁に背中を叩きつけられた。爆心地に居た袖搦は即死だった。

 雨が全身に当たると同時に蒸発する。両目と口から湯気を立てながらぐらりと傾き、倒れて二度と動かない。


「がっ!? ……ぐぐっ!」

「うぐ……っ、なに、これ……?」


 雷のエネルギーを、自分中心に放射したのだ。【防具】を持たない袖搦は落雷の直撃を受けたのと同じ。地面と空気を伝って円状に放射されたエネルギーが、小野と椿姫を痺れさせていた。

 しかし、これは雷切自身をも傷つけるものだった。ふらふらと立ち上がる。膝が笑っている。


 今が好機だ。椿姫が踏み込んだ。


 先端偏重の両手剣は雷切の頭部に振り下ろされ、防ぐために掲げられた左腕に半ばまで食い込んだ。


「あああああああ!!!」

「ぐぅぅ、死んで! 私のために死ね!!」


 骨をへし砕いて、皮一枚を残して左腕が千切れる。残った右腕、ワニに噛まれた傷が今もまだ痛々しい傷だらけの右手で、雷切は椿姫を指さした。

 突如暗闇が牙を持ち、椿姫に襲いかかった。何が起きたかも理解できぬままに、椿姫は破壊され、蹂躙(じゅうりん)される。


「あっ、ああっ、あぎゃあぁぉぁぁッッッ!!! や、やめぇええあががぎゃ!!!?」


 壮絶な断末魔は、肉を引き裂き骨を砕く破壊音の中で途切れた。

 この時代の闇と死の化身。ナイルクロコダイルどもは佐摩椿姫の四肢を、防具ごと噛み砕き引き千切ってバラバラにした。


 雷切は皮一枚の左腕をひと思いに引き千切り、フラフラと小野に近付いた。


「ふ…………ひひっ……次は、ちゃんとちぃを殺してよな……」


 苦悶と絶望に満ちた笑顔、頬を濡らすのは雨粒か涙かも判明せぬ。

 そのまま、【防具】を解消して、立花ちどりは夜の闇に消えた。


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