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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第二章 仇国の魔女

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20245 50センチの深淵



「その全身が光ってやがるのも、【防具】だな? なんでやたらと光ってんのかと思ったが……袖搦(そでがらみ)さんが言ってた【盾】みたいなもんか?」


 雷切の【防具】は魔法少女のコスプレである。その最大の特徴は、常に全身が薄っすらと発光していること。

 小野は最初にそれを見た時、演出用だと思った。だが、何度か殴りつけて違和感に気が付いた。


 手応えがおかしい。何らかの障壁がある。

 雷切の頑丈さは、尋常ではない。


 …………これと同じ現象が、『シャーク』戦でも発生していた。鮫の歯の並んだ巨大な(かい)は、木製であっても4kgはくだらない。

 その直撃を側頭部に受けて、果たしてちどりは無事だった。流血こそしたものの、通常ならば頭蓋骨(ずがいこつ)が陥没していた打撃をだ。


「ふひっ、ふひひっ……だとしたらどーするよ?」

「なんでワニに噛まれた時に使わなかったんだ?」

「……………………」


 雷切の顔が険しくなる。なるほど、小野は頷いた。

 戦闘前にも思ったが、装着に時間がかかっていた。咄嗟(とっさ)に召喚できないのが、雷切の【防具】の弱点か。


「チッ…………参ったな」


 小野は不機嫌に舌打ちした。彼女は理解している。眼の前の、ちどりの姿をした怪人は強大だ。正面から一対一では勝ち目は薄い。

 今の小野が行うべきことはなにか? 強行偵察。乱暴にぶつかり合って情報を一つでも引きずり出すことである。


「その【防具】、消耗が激しいのか?」

「恥ずかしいんだっての」

「似合ってるが?」

「うへ、ふひ…………うっせうっせ!」


 褒められ慣れなさすぎて、身を(よじ)って身悶える雷切。

 小野は困っていた。どの弱点も、狙い撃つのはなかなかに難しい。


 雷切がどこかに居を構えて行動するタイプなら、【防具】の準備が遅いのは不便だろう。

 だが、雷切が攻撃側に立っている限り、それは弱点とは言い切れない。


 消耗が激しいのが、具体的に体力か粒子……つまり『魔力』なのかの判別は難しい。

 『魔力』側はすでに対処されている。【印】による『魔力』の強化。『セト』の言葉を思い出す。


 そして最後…………恥ずかしがる点は扱い難い。戦闘中では怒りに油を注ぐだけになりかねない。

 そうでなくともちゃんと話を聞いてくれるかも分からないし。


「…………」

「てめえから屋内に逃げ込んだくせに、外に逃げる心配? ふひひっ」


 外に視線を向ける小野に、雷切がニチャついた笑みを向ける。


「そりゃ、勝ち目が無いからな」

「んじゃまぁ、素直に死ね!」


 高速で巻き戻るエンブレム。小野は再び肉薄。振りかぶった左手に手斧を召喚しながら、腹を狙ってヤクザキック。


「げっ!!?」

「軽い」


 筋力と体重とバストのサイズ差が物を言う。尻もちをついた雷切の頭部に手斧を振り下ろす。

 だが、致命的なダメージは発生せず。肉厚の刃は長手袋で止まっていた。


 間髪入れずに振り返り入り口に走る小野、その背中に向けて千鳥鉄が(はし)る。亜音速のしなりは、しかし空中で障害物に巻き付いた。


「このエロ尻尾!」

「エロかねーだろ!?」


 振り向き、手斧を投擲(とうてき)。簡単に防がれる。打ち身くらいはできていればいいが、ほぼ無傷に見える。


「逃げんなっ!」

「お前を倒すためだよ!」


 叫びながら、土砂降りの街路を小野が駆けた、なだらかな傾斜を水が流れる。

 追いかける雷切、そのステッキに紫電がスパーク。強力な雷撃を放つためのエネルギーは充電済みだ。


 一瞬の迷い。近くにはまだ【狩人】がいる。少なくとも二人。最悪三人。雷切は緑の粒子を翼のように噴き出した。上空から小野を追いかける。


「やってみろよ!!」


 近くに袖搦(そでがらみ)と佐摩椿姫(つばき)が居ることは分かっていた。雷切は二人を(あなど)っていたが、回数制限のある電撃は温存した。

 雷切を傷付けられるパワーは、その三人の内で椿姫しか持たない。つまり、彼女の奇襲に気を付ければ……!


「飛べんのかよ!? 反則だろ!!」


 飛んだはいいが、距離を取ると小野の姿が見えにくい。激しい雨に視界を遮られる。

 雷切は急降下した。ステッキを叩き下ろす。回避する小野の動きは鈍い。誘っているとかではなく、普通に鈍いのだ。


「あ?」

「立花、ここがお前の墓場だ」


 上空から追跡したのは、完全に雷切の失敗だった。小野は膝まで水に浸していた。

 エレファンティネは洪水を起こしていた。低地は沈みつつあった。


「すぅぅーー、はぁー、すううーーーっ」

「んぉ!?」


 小野は千鳥鉄の振り下ろしを右手で受けながら背後に倒れ込む。勢い余って押し倒す雷切。二人は絡み合いながら水深50センチに頭から突っ込んだ。

 条件さえ整えば、人間は水たまりでも溺死する。では、雷切は?


「がっ!? がぽぼ、がぼがぼ!!」


 雷切は、そこにいるのがドスケベサキュバスではなく深海の巨大触手生物であるかのように錯覚した。

 手足に絡みつく無数の帯が雷切を逃さない。呼吸できなくなり、【休眠】状態になったら終わりだ、雷切は必死に抵抗した。




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