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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第二章 仇国の魔女

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20244 女神のような



「無事か立花! 風邪は……ひかねーな? よし、市民の避難を手伝ってくれ」

「え? え? いや…………なんて?」

「ここは『お前の街』だろう?」


 幽鬼のような姿、澱んだ双眸(そうぼう)、残忍な笑顔、脅すような言動。そのすべてを無視して小野は雷切に近付いた。

 まるで警戒心がない。逆に雷切がひるむほどに。


「こ、ここは……エレファンティネは……ちぃの街じゃ……」

「お前なぁ……ネヘプの彼女なんじゃねぇのかよ?」

「…………」


 そう、そうだ……。

 仇国の魔女 雷切ではなく、立花ちどりは、ネヘプの恋人だった。


「でも、この街の連中は……恩知らずじゃん!!」

「全員じゃない。扇動に乗ったやつもいるけど、ただ怯えてた人がほとんどだ」

「それは……そりゃさ……」


 ネヘプによる豊かさは、少数の犠牲を強いた。人道的、倫理的には許しがたくもも、共倒れの全滅は看過できない。為政者らしい選択だった。

 それが正しかったのか、誤りだったのか。神ならざるものには分からない。そして、『善くあれかし』という祈りは、まず大抵聞き届けられない。


 どれほど苦しんだ選択も、後世から見たら間違いだらけだ。


「…………でも、ネヘプ様は死んじゃったんだ」

「そして立花が【ドラゴン】に成ったと、流れは分からんが」


 小野の【狩人】としての直感が、ちどりは……もはや元の存在では無いと告げていた。


「小野はタンテーの彼女なん?」

「あ? ちげーよ。あたしらはそんなんじゃない。だって…………いや、ええと」


 小野は口籠った。年代が違うなんて、他のやつの前ではともかく、ちどりの前では意味がない。


「あたしは探偵さんみたいな男が必要だけど、探偵さんはあたしじゃなくてもいいだろ?」

「逆に見えんだけど……」


 苦笑いのちどりは、濡れそぼった髪をぐしゃぐしゃと掻き乱した。


「ちぃさ、小野が嫌いなんだけど、なんで小野は普通なん?」

「あたしは別に嫌いじゃねーからな。手のかかる妹みたいで、かわいいもんだ」


 嘆息するちどり。複雑そうな微笑み。その(はかな)げな表情に、小野が片眉を上げた。


「ふひっ、んだよ?」

「なんでもねーよ。そんでどうすんだ?」

「あー、悪いけど……ちぃは【狩人】全員ぶっ殺してこの国もぶっ壊すって決めちゃったから」


 何でもないように、『今日はラーメン食べに行くって決めてあるから』とランチの誘いを断わる程度の雰囲気で。


「うん……羨ましい。そんなに誰かを好きになれて」

「あ、それ。もしもちぃに会ったら言っといて」

「あ?」

「ちぃは、誰かを、愛せたって」


 ちどりが右腕を振り上げた。手にしたステッキから輝く粒子が広がる。

 みかん色の差し色の入った、ホワイトのバトルドレス。長手袋、ハイヒールのショートブーツとニーハイソックス。絶対にパンツの見えないミニスカート、脇腹は見えるけど谷間は見せないトップス。


 腕輪やベルト、ネックレスなどのアクセサリが装着され、両耳にピアスが揺れる。長い髪は白金に染まり、複雑に編み込まれる。先端はピンクにグラデーション。

 一瞬で化粧も決まる。魔法少女プリンセス・キサラ……いや、その決意と覚悟に満ちた表情は仇国の魔女 雷切のそれ。


 対して、小野も【防具】を身にまとう。彼女の【防具】は銀鼠色にグリーンの幾何学ラインの入った、近未来的なボディスーツと、タートルネックリブセーター。

 ボディスーツは、実際には巻き付きながら締め上げる帯である。


「つーか立花、なんだそりゃナメてんのか!?」

「んぁぁ? 笑うんか??」

「ざけんなよ。無茶苦茶美人で後光まで差してんじゃねーか!!? さっさと使えよ! その格好で『ケンカはやめて暴動を止めて』って歌えば絶対に暴動収まってたぞ!!」


 小野がキレるのも仕方ないだろう。端から見れば、ちどりは美しく神々しい女神そのものだった。


「ふひへっ!? 騙されんぞ!! なんだいそのカッコ! 男殺しのおっぱいオバケか!?」

「ちげーし! つーか、ムカつく言い方すんな!」


 子供みたいな口喧嘩をしながら身構える二人、小野の左手に粒子が集まる。30センチ程度の柄に、小振りながら肉厚の片手斧刃が形成される。


「バーカバーカたぬき顔!」

「うるせーチビ!」


 もはやただの子供のケンカだ。聞いている限りはバカバカしい。しかし行動はシリアスだった。

 右手のたいまつを雷切の顔面に投げつける小野、振り払う一瞬で屋内に飛び込む。ランプの一つもない屋内は、完全な闇である。光源は……常に薄っすら発光している雷切のみ。


「逃げんな!」


 屋内から飛んでくる手斧。雷切は予期していたため軽く避ける。

 小野の【武器】は同時召喚二本まで。つまり、次を出すには粒子による発光が必須。


 雷切は舌打ちして目を凝らした。

 暗闇の戦闘では、常に発光している自分は不利となる。小野はどうする? 見つかるのを承知で手斧を出す? それとも、その辺の道具を間に合わせの武器にする?


「そこっ!!」


 視界の隅で何かが光る。粒子の輝き。雷切は即座に千鳥鉄を振るった。細い鎖の先端の、千鳥型のエンブレムが闇を裂く。


「残念」

「ふぇ……? あぶわっ!?」


 背後に立っていた小野の強烈な右ストレートが、振り返った雷切の顎を打ち抜く。

 雷切はたたらを踏んだ。ボディに一撃。更に鼻を狙って追撃の右。


「な、なんでぇ!?」

「固ってぇ、皮膚に鉄でも仕込んでんのか……? あたしゃ尻尾が生えてんだよ!」


 驚くべき事に、小野の尻から黒い尻尾が伸びていた。手斧はその先端に召喚されている。


「サキュバスだからなん!?」

「ちげーし!! つーか、サキュバスって尻尾あんの?」


 もちろん、サキュバスだからではない。

 小野のボディスーツは帯状であり、その一端を操作できた。今現在は『追加の腕』程度の挙動を可能としていた。


「ォらぁ!!」


 鼻と目を狙って打ち込まれるジャブ。雷切は避けきれない。しかし、ダメージは明らかに少ない。


「チッ、反則だろそれ!」

「ドスケベサキュバスに言われたかねーやい!」

「ど、ドスケベちげーし!!」

「やっぱりサキュバスなんだー!?」


 小野は雷切のネックレスを掴み、鼻っ柱に頭突きした。折れない。固い……腹を蹴って距離を取る。


「立花お前……面白い【防具】してやがるな?」

 


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