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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第二章 仇国の魔女

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20242 雷撃


 日は完全に没した。古代の夜は人のものではない。魔のもの、神なるものの世界である。


 長らく降らなかった雨が、乾いた大地を濡らす。干からび、ひび割れた世界に染み入っていく。

 しかし、『クヌム』のために配置された兵たちは畏敬で怯え、ひざまずいて頭を垂れていた。感謝ではなく恐怖が、彼らに平服を取らせていた。


 現地人の中で唯一、イムホテプだけが震えながら立っていた。顔面に叩きつけられる雨、ずぶ濡れの体で、この風景を目に焼き付けようとしていた。


 倒れていた女、仇国の魔女 雷切が、薄っすらと発光する可憐なドレスの魔法少女が、ゆらりゆらりと揺れている。

 その右手に掲げたステッキ。千鳥鉄。落雷の直撃を受けた【武器】は、青白く、そして不穏にスパークしている。


 雷切の動きが止まる。一歩踏み出す。


「…………【シンビウス】!!」


 一度動き出してしまったら、雷切の動きは素早かった。

 全身から放出される緑の粒子、ザンザン降りの雨のなかでも輝くドレス。


 夜と雨を浴びながら、荒野と河の境目で、【狩人】と【ドラゴン】の交差点で、凶器と絶望の崖っぷちで。

 雷切はタップダンスを踊る。


「必殺技名は、いらんよなぁ!!?」


 ステッキがスパークする。その意味を、シャークと翔斗は直感した。激しい雨、この中を飛び道具で攻撃するのは難しかろう。

 だが、距離など無関係とばかりに雷切はステッキを振り下ろした。


「目を閉じろ!!」


 振り下ろされる直前に『シャーク』が叫んだ。目を覆うイム、右に避ける翔斗と、左に避ける『シャーク』。

 翔斗は運が良かった。『シャーク』と同じ方向に避けていたら、あるいは避けた方向が逆だったら。



 轟音が闇を引き裂く。光の束が雨の音をかき消し響く。



 横向きに発射された落雷は、進路上の雨粒をとワニの死体のすべて蒸発させながら岩に命中して爆散させた。

 【防具】が間に合わず、咄嗟(とっさ)に【盾】を使った翔斗は衝撃で吹き飛ばされ、背中から地面に叩きつけられた。左足の先端が引っかかった……痛みはない。


 対して『シャーク』は避けきれなかった。当たり前である。雷切は翔斗になど目をくれていなかった。

 狙いはネヘプの敵だった『シャーク』のみである。


「う……ッ、ぐぐぅ……」


 生きている。しかし、確実な重傷。雨の中でも分かる肉が焼ける臭い、焦げた臭い。

 雷撃が連発できなくとも、千鳥鉄あるいはワニを使えばとどめを刺すのは容易だろう。しかし、雷切は動きを止めていた。


「あー……うん。なるほど……なる……ほど」


 虚ろな目で譫言(うわごと)を垂れ流しながら、再びゆらゆらと揺れる。その目が再び焦点を結んだ。

 地下室から一人の男が、一つの死体を抱えて上がってきたからである。


「立花」

「………ネヘプ様は丁重に葬れよ、あれだ。……ねんごろ? にだ」


 無傷の探偵目貫(めぬき)(あまた)と、両手両足、そして右目と心臓から血を流すクヌマトネヘプ。


「あーあ、あー……あー…………あああああああああああ!!!!!!!」


 雷切が頬を掻きむしりながら絶叫する、千は死体をゆっくりと下ろした。


「どちくしょうがああああああああ!!!! クソクソクソッッッ!! 弱いんだから! ちぃの後ろにいりゃよかったのにさぁ!!」


 磔刑(たっけい)に処された聖人のような傷。地団駄を踏む雷切、畏敬に震えながらイムが千に血走った目を向けた。


「あの方は雷を操る……客人でも無理だ」

「ネヘプは」


 千は低く、よく通る声で答える。雷切の動きが止まる。イムが息を呑む。


「最後まで勇敢に、オレに立ち向かった」


 殺したのは千の敬意という名の自己満足だ。心臓を貫いた感触が手の中に残っている。心は氷のように冷えたまま。

 千はネヘプと同時にもう一人、自分自身を殺していた。


「テメーが!! ネヘプ様をッ!!」


 ロケットみたいな勢いで飛び出す雷切。緑の粒子が羽のようにたなびく。絶対的な粒子量=魔力の差。

 空中で振るわれる千鳥鉄。エンブレムが飛来するより早く、光の蛇が闇を裂く。


「語るな!!!」


 光の速さで走り抜けたほぼ二次元の光撃。


「……?」

「??」


 発射直前に身をかわした千、そしてビームを発射した雷切の両者が動きを止める。

 逡巡(しゅんじゅん)。同時に理解。


「無敵じゃないな?」

「ふひっ、これゲージ技?」


 粒子によるものか、その前に受けた落雷によるものか、とにかく雷撃は連射できない。踏み込む千、対して下がる雷切。

 その目鼻から、ドロリとした血液がこぼれる。


「『シャーク』! 鶴来さん! ここで討つぞ!!」

「なめんなぁッッ!」


 だが返事はない、千は二人がすでに倒されたと理解した。

 飛び込む千、千鳥鉄のエンブレムが飛来するのを叩き落とす。接敵すれば対処できる。そう千は踏んだ。


「…………うげぇぇ」


 血反吐を撒き散らす雷切、何らかの反動か、拒絶反応か。

 顔面を狙って打ち込んだ千、容易く防がれる。さもありなん。彼の動きには迷いがあった。


 ネヘプを殺したことによる、後悔と苦しみが。


「クソ……タンテー、決着はまた今度にしてやる……ッ!」


 故に、雷切の撤退は彼にとっても都合が良かった。

 緑の粒子の羽を広げて飛行する雷切、千は(かぶり)を振った。殺せたはず。しかし、踏み込み切れなかった。本当に勝てたかどうかはともかく、千は怯んでいた。


「エレファンティネで待つ! 早く来ねーと滅ぼ……びぎゃ!!?」


 まばゆい閃光と轟音、落雷の直撃を受けた雷切は、『河』に落下してそのまま浮かんで来なかった。




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