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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第二章 仇国の魔女

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20238 セベク


 原初の土と水の神であるクヌムには複数の配偶者がいる。神々は一夫多妻であるというか、ここには社会的システム上の都合が関係する。

 前にも説明したが、人々は街から出ない。物語も流通しない。


 神々の設定はほぼ共通で存在するが、街ごとに違う守護神を祀っている。

 そうするとどんなことになるのか。


 神話を語る神職が、好みや贔屓で脚色を加えてしまうのである。

 あの神をうちの神の親にしよう。妻にしよう。子にしよう。そんな理由で神々の家族関係は複雑怪奇になっていった。


 さて、クヌムの妻の一柱に、創造神であるネイトが存在する。ネイトは戦争と知恵の女神で、同時に機織りの神でもある。

 ネイトは世界のすべてを織り上げた偉大な女神で、偉大なる太陽神ラーの母ともされ、水源の神でもあった。なお、しばしば処女母神としても扱われる。


 クヌムの妻としての姿は水神として扱われる場合に限る。世界の始まりの原初の水の人格化であり、ワニに授乳する女神でもある。

 『河』の守護神という意味で二柱は類似している。クヌムはワニの守護神の父親であり、その関係からネイトはクヌムの妻という扱いになったのだろう。


 ワニの守護神の名はセベク。人々はセベクを熱心に、それこそクヌム以上に熱心に信仰した。

 当たり前であろう。『河』と生活が密接に関係している以上、最大の脅威であるワニから身を守ってくれる神がいるならば誰だって信仰する。


 …………そう、ワニはこの『河』で最も危険な存在だ。

 間違いない頂点捕食者(エイペックス・プレデター)。水中、川辺、そして陸上でも。


 想像できるだろうか。5メートル級の大型クロコダイルが何匹も、ズルリズルリと暗闇から這い出して来る姿が。

 暗褐色のワニたちは、夜の闇の中では地肌と見分けがつかない。目を逸らした瞬間にどこにいるかわからなくなる。


「立花ッ!!」

「ふっ、ふへへへへっ!! 落ち着けよサメ男」


 川を背に、一切警戒せずにちどりが笑う。ほのかに光る魔法少女に仕える騎士のように、ワニたちが蠢く。


「ワニに噛まれて助かるわけねーだろ!! ちぃはあの時『セベク』ってぇスーパー女神(ゴッデス)に成ったんでしたぁああッッ!!!」 


 セベクは男神である。


「つーわけっで! やっちゃえ!! ちぃのカワイイワニちゃんども!!」


 ちどりが右手を掲げる。手のひらから漏れる緑の光。楕円と、そこから伸びる九本の線。クラゲに似た形。【シンビウス】の【印】。

 クロコダイルは威嚇音を上げない。雄叫びも必要ない。爬虫類の冷血と、水生生物の静けさを持って、ワニたちがゆっくりと『シャーク』を囲む。


「…………あの時、それで助かったのか」

「ふひひっ、そういうこってす」


 ネヘプたちと出会う前、ちどりは迂闊な行動でワニに襲われた。噛みつかれたものの生命は助かり、千とイムの医療技術で右腕も失われずに済んでいた。

 その時に、【印】を使っていたのだ。初日にシスと握手した右手、『シャーク』と千はそれぞれ自分の手を一瞥(いちべつ)した。


「『シャーク』使うな! どうなるか分からん!」

「んぁ?」

「小野は『一回目』の【印】を持っている!!」


 千の警告に、ちどりが眉をひそめるも、続く言葉にまたたき。小首を傾げた。

 刹那的に生きるちどりは記憶にないだろう。シスと初遭遇時、シスは小野に【印】が……【鉄面皮(ムシケラ)】の【印】があると言っていた。


 そう。小野は【印】を持っている。

 原始の時代に文明の火をもたらそうとした【ドラゴン】、【ブラサルファ】の【印】を。


 彼女が『一回目』の記憶を持たないのがそのせいならば、小野が【印】の使用経験があるのであれば。


「【望み】が得られなくなるかもだ!」

「それは困るな」

「それがどーしたってんだバーーーーッカ!!」


 ちどりがステッキを振るう。暗闇の中に流れ星の様に、エンブレムが煌めく。それが逆に、他の全てへの認識を難しくする。

 千はようやく『セト』の言葉の意味を理解した。


 『【印】を使うと『魔力』が増える』


 『シャーク』のレイオマノが直撃しても無事だった頑丈さの正体。

 千は思い出す。『魔法の使用可能』。そしてもう一点。小野と同じ顔で、白い髪の女……ヤオの異様な身体能力、川瀬氏を持ち上げた謎の力。


「アマタッ!! 『シャーク』!」

「ショート! タンテーを捕まえて!」


 叫ぶイム、何かに気付くちどり。

 千は己の迂闊さに歯噛みした。ネヘプは……ネヘプはどこに消えた!?


「捨てられたか立花」

「『ここはちぃに任せて先に行け』したんだよ!」


 『シャーク』の挑発に、ちどりがステッキを振るう。長く伸びた鎖がしなり、亜音速で『シャーク』を襲う。


「…………それは見たぞ?」

「ふぇっ!?」


 背負うように振り上げたレイオマノ、背中を狙った千鳥のエンブレムが完全に防がれる。

 『シャーク』は二歩踏み込んで鮫歯の(かい)を振り下ろした。



 多重の熾烈(しれつ)。食い付いたなら千切るは必至。



 レイオマノに並んだサメの歯列が、頑丈な鰐皮を突き刺し引き裂き切り開き粉砕した。

 返す刃で飛びかかってきた次のワニの頭部と下顎を裂断する。


「…………は?」

「千、ネヘプを追え。ちどりとワニなら相性がいい」


 自分を一方的に蹂躙じゅうりんした最強のはずの捕食者。

 その命が容易くバラバラにされている。ちどりは目をこすった。また一匹、ワニが頭蓋骨(ずがいこつ)を粉砕されて小さな脳と目玉を飛び散らせて死んだ。夢ではない。


「え? え? いやいや、なんで見えるの??」

「知らんのか?」


 『シャーク』は感情を感じさせない声で己の鼻面を示した。


「サメは鼻がいいんだよ」


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