表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第二章 仇国の魔女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/112

20237 矯正してやる覚悟しろ


 『ブレース・プリンセス』は十年以上続く子供向け魔法少女シリーズの2024年度最新作である。


 『Brace』は『締める』という動詞であるが、『一番』『支柱』『かすがい』という意味も持つ。

 ちなみに歯科矯正や『覚悟』を意味するスラングでもあり、キメセリフの『ブレース・ユー!』は『矯正してやる覚悟しろ』という意味にも取れる。


 人々の悪の心から生まれた邪悪な存在により、世界の均衡は崩されつつあった。主人公たち『プリンセス』は引き裂かれる世界の『かすがい』として、世界を支える『支柱』として、悪と戦い世界を守る。


 …………敵は、人々の心の闇から怪物を作る。その人々の多くは虐げられたもの、捨てられたもの。そして天変地異を起こして街を破壊する。

 このシリーズの裏テーマは『廃棄と生贄』。


 立花ちどりが扮する『橘ミユキ/プリンセス・キサラ』は不死身の肉体を持ち、荒れた海を鎮め、雷を落とす。

 そのモデルは『弟橘媛(オトタチバナヒメ)』。名前の由来は彼女の消えた土地『木更津』。


 弟橘媛の逸話は有名である。彼女は倭建命(ヤマトタケルノミコト)の妻だ。

 遠征の途中、浦賀水道あたりで海は荒れ狂った。それは海神の怒りであり、怒りを鎮めるためには人柱が必要だった


 弟橘媛は自ら入水した。夫と仲間たちを守るために、生贄になり海は鎮まった。

 残された倭健命一行は無事上陸し、弟橘媛を探した。しかし、何日探しても彼女の姿は見つからず。


 それでも諦めきれない倭健命はその地を『君不去(きみさらず)』と名付けた。現在の木更津である。

 それが『プリンセス・キサラ』の名の由来だ。


 さて、古事記にはもう一点、『橘』に関する記述がある。

 それは『常世の国』から持ち帰られた不老長寿の果実である。


 橘=みかんは、日本では古来より長寿や吉祥の象徴であり、万病に効く霊薬であった。


 五百円硬貨をまじまじと見たことはあるだろうか?

 裏面には500の数字を橘の枝が挟み、上面には竹の葉で飾られている。円を描く粒と、竹の葉がヘタのようで、みかんそのものに見えなくもないデザインだ。


 正月に鏡餅の上にみかんを置く風習はご存知だろうか?

 モチは稲作文化の日本人の信仰と関わりの深いお供え物であり、ハレの日のごちそうである。


 二弾重ねの丸形は円満、太陽や月、そして上に載せられた橘/橙は長寿と無病息災であり、代々の繁栄を意味していた。


 ……ちなみに『プリンセス・キサラ』の相棒は地に堕とされ月に捧げられた、かぐや姫モデルである。

 共に苗字に花を持ち、ミユキ=雪と月。雪月花という雅さである。閑話休題。





「ひぃ、ひぃぃ……アバラ折れてんじゃね?」


 ムクリと立ち上がった『プリンセス・キサラ』姿のちどり。美しい化粧で、彼女はたおやかな美人に仕上げられていた。

 向かい合うサメのように無表情な男、『シャーク』。彼は自分の手の中のレイオマノとちどりを見比べた。


 長さ2.7メートルのサメ歯の並んだ櫂、一部に髪の毛と肉片、血液が付着しているが……普通に考えて、コレで頭をぶん殴られたら頭蓋骨(ずがいこつ)が陥没して即死だ。

 なのにちどりはピンピンしている。


「秘密があんだよマヌケ!」

「立花さん! もっと下がって!!」


 ちどりは背中を『河』に向けていた。太陽は地平線にほぼ隠れ、大地は暗闇に覆われつつある。

 そんな中で流れる『河』は黒々としていて、近づけば飲み込まれる闇の奔流に見えた。


「…………」


 夜が近づく。それは目貫(めぬき)(あまた)たちの有利だと言えた。白い甲冑の鶴来(つるぎ)翔斗と、うっすら発光しているちどり。

 対してサメを想起させる黒いウェットスーツの『シャーク』と忸怩(じくじ)たるものあれど暗殺特化の探偵。


「鶴来さん、一つ間違いを訂正しておく」

「……なに?」

「オレたち【狩人】は『現実』があるから、死なないよな?」


 【盾】を挟んで力比べの形だった千と翔斗。千の言葉に翔斗が怯んだ。『殺意のない相手』だと思っていた千が、『躊躇(ためら)いなくお前を殺せる』と宣言したからである。

 千が均衡を解いた。わずかに重心を傾ける。その程度でバランスを崩す翔斗ではない。ではないが、ほんの僅かな隙ができた。


 打つ手は数多。貫く姿。


 くるりと横回転した千が翔斗の懐、抱き合うような一に入り込んで脇に右肘を叩き込む。続いて顎に左肘。上がった顎。

 …………外した。


 ドライバーの切先は下顎を貫き、口腔内を抉って頬骨で止まった。致命傷ではない。

 首を狙うべきだったが、甲冑の首周りは金属の襟が立っている。顎下から口蓋を狙うのが確実だった。


「んっぐぅッッ!?」」


 千はドライバーをグリグリとねじ込見ながら頭を下げた。翔斗が振り下ろしたショートソードの柄頭。ドライバーから手を離して、身を屈めながら尻を突き出す。


「あッ!?」


 ほんの少し手伝ってやれば、翔斗は勢いそのままに地面に叩きつけられる。自重+鎧の重さが、衝撃になる。

 千は無情に、翔斗の顔面を蹴っ飛ばした。


「があああああ!!」


 顎に刺さったままのドライバーが肉や口内を引き裂いて、翔斗は悲鳴を上げた。

 千は次のドライバーを取り出し、冷たく翔斗を見下ろした。狙える鎧の隙間はほとんど無い。兜のスリットを狙うか? 顔面を踏みつける。


 …………さっきの顎への一撃、ちゃんと外れてよかった。

 千は内心の冷や汗を脳内で拭った。


 『殺せないと見せかけて殺せる振り』は上手くハマった。『本当に殺したくない』なんて気づかれる訳にはいかない。


「立花! 逃げろッッ!!」


 『シャーク』の悲鳴に千は振り返り、瞠目(どうもく)した。

 ワニ…………そこにはワニがいた。その数……複数。


 冥府の暗闇の底から、【狩人】をどもを食い殺すため。

 この時代の真の頂点捕食者が何者か、知らしめるために。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ