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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第二章 仇国の魔女

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20235 決闘



「どうしてそっちに立っているんだ。鶴来(つるぎ)さんよ」


 イムの前には探偵目貫(めぬき)(あまた)と、サメのように感情を感じさせない大男、『シャーク』こと行々子(ぎょうぎょうし)マノ。

 そしてネヘプの前には立花ちどりと鶴来翔斗。


 翔斗は、クリス及び佐摩椿姫(つばき)といっしょに『神殿』側。つまりデモ隊側に立っていたはずである。


椿姫(つばき)さんとクリスはどうした」

「……待て待て待って! それより目貫さん目ぇどないしたん!?」


 割って入ったのはちどりだった。先端が黒い白の甲冑に身を包んだ翔斗と違い、ちどりはこの時代の絹のドレス姿のままだ。


「潰した。ポロルは死んだ」

「ヤッくん…………あー……ふへっ、じゃあ小野も?」

「小野は生きてる。悪いな」

「…………」


 問答無用で前に出る翔斗と違い、ちどりは少し喋りたそうだった。彼女が小野にライバル意識を持っているのは知っていた。

 しかし、死んでたら笑うほど嫌っているとは思っていなかったが。


「残念か?」

「え……ええと……」


 いや、千は認識を改めた。ちどりは何も考えていないだけだ。反射的に嘲笑ったが、きっと小野が死んでいたら普通に困っていたのだろう。


「ちどりも鶴来も、【狩人】の目的は【ドラゴン】殺しだと忘れるな。お前らは顔見知りの【狩人】と殺し合う覚悟があるのか?」

「あるに決まってんだろ! ちぃの【望み】は『愛』なんだよ!!」


 臆面もなく『愛』などという言葉を叫ぶちどり。千は鼻白んだ。


「鶴来は? 【望み】が叶っているからどうこうじゃなかったのか?」

「そうだ。僕の【望み】は叶っている」


 だから別の誰かのために【武器】を取ると言っていたのが翔斗だったはずである。


「ショート」

「僕はお前の味方じゃないぞ」


 話しかけたネヘプに、翔斗は冷たく言い放つ。あからさまな敵意がある。であるのに、戦意は千たちに向いていた。


「僕は立花さんに償わねばならない。僕らの願いを叶えるために、僕の弟は彼女を傷付けた……。

 立花さんの心の傷を癒せないなら、僕はせめて……っ!」


 千は周囲を確認した。兵たちは状況に対応しきれていない。誰に武器を向けるべきか迷っている。

 それはネヘプもイムも気付いていた。


「諸君、彼らは……ッ」

「オレは目貫千だ!! 王神ネチェリケトが腹心、イムホテプの戦士である!!

 隣は『シャーク』!! 我ら二人は代行者としてクヌマトネヘプに決闘を挑む!!」


 ネヘプの言葉に被せるように千は叫んだ。ネヘプが来た時のために準備しておいた言葉だ。


「ぐっ……アマタ、言ってくれる」

「神聖な決闘だぞ!! 相手は鶴来とお前か?」


 ネヘプが翔斗を見た。翔斗は逆に反応しない。

 今、ネヘプが何を考えているのか千にはよくわかる。


 奴は迷っている。自分で戦いたくないからだ。ネヘプの実力は不明だが、半日前に背中に手斧を受けて怪我をしている。

 そして何より、ネヘプは翔斗を信用していない。


 ネヘプが【ドラゴン】であるならば、この場での決闘は二対二ではなく三対一になりかねない。

 信頼関係が無いのは当たり前だ。


 そもそもネヘプは、誰も信じていないのだろう。

 …………しかし、しかしだ。ちどりを前に出して自身は安全な場所に立つのは、プライドが許さないのだろう。


 その無駄なプライドこそが、ネヘプの弱点だ。付け入る隙だと千は考える。


「ネヘプ様ぁ、ちぃに任せてよ」

「良いのか?」

「ふひっ、愛の力を見せたらぁ!」


 あからさまな安堵(あんど)を見せるネヘプ。ここがこいつの限界だ。


「その決闘、この立花ちどりと鶴来翔斗が受けて立たぁ! ふひひひひ!!」

「…………ネヘプ」


 千は眼差しに非難と侮蔑(ぶべつ)を込めた。目を逸らすネヘプ。

 心底、軽蔑するべき敵であると千は思った。


「野望のためにプライドを捨てることも、プライドを意地でも貫くこともできない半端者め」

「なっ!?」

「中途半端はお前だけだ」


 『シャーク』が苦く笑う。お前は子供と女の幸せのために自分を捨てられる男だろ?

 イムが頷く。王神への忠義でネヘプの籠絡(ろうらく)を退けた男だ。尊敬に値する。


 翔斗の表情はヘルメットのせいで窺えない。しかし、弟の罪を自分の罪と受け入れ、償おうなどという男だ。これは裏切りではない。

 そしてちどりは刹那的かつ利己的な生き方かもしれなくても、愛に殉じるつもりでいる。


 袖搦(そでがらみ)はこの場にいないが、警官としての職務を全うしている事だろう。

 愛のためと言うのであれば、佐摩椿姫(つばき)の覚悟の決まり方は賞賛に値する。


 小野は言うまでもないとして、クリスについてはコメントできないが……待て。千はふと思い出した。


「椿姫さんとクリスさんは? 死んだか?」

「椿姫さんは拘束していて、クリスさんは行方不明だ」


 そうすると、小野とクリスが合流する可能性があるな。千は頷いた。

 負けるつもりはないが、ここで失敗しても二人がなんとかするだろう。小野なら袖搦とも上手くやれるし。


「勝利条件は?」

「代理人二名の死だ!」


 ネヘプが血を吐くように答えた。【狩人】同士の殺し合いに抵抗があるなら、この戦いは不利になる。たとえば千みたいに。


「勝者は何を得る?」

「神の名において、敗者を奴隷とする」


 今度答えたのはイムだった。

 つまり…………千たちが勝てば、ネヘプはイムに完全服従だ。

 

 ネヘプが燃える目を千に向けた。先程の侮辱(ぶじょく)が看過できないとでもいうように。

 …………普通に考えて、この状況で一番不利なのは千である。彼の戦い方は暗殺に向いていて、しかも殺しを(いと)う……。


 千は、その甘い考えを鼻で笑った。




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