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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第二章 仇国の魔女

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20234 待ち伏せ


 『河』沿いに数時間歩いた場所に、目的地はあった。そこは柵で囲われ、レンガ造りの家が建っていた。

 太陽は地平線に沈みつつある。ちょうどよいタイミングだ。


 柵の内側には篝火(かがりび)が燃え、歩哨(ほしょう)が立っていた。

 ネヘプは数名の手勢に手で指示を出した。


「ご苦労! クヌマトネヘプである!」

「お疲れ様です……!」「本当きた……」


 ざわつく歩哨たち。ネヘプは訝しんだ。『本当に』と言ったか?


「早速だが我らが偉大なる守護神『クヌム』の力が必要なのだ」

「とにかく中に……しかし、残念ながら地下にはお通しできません」


 壮年の隊長が現れて、申し訳なさそうにそう言った。ネヘプは耳を疑う。


「…………すまんが、今は非常事態だ」

「知っております」


 なぜ知っている? エレファンティネの街からここまでは近い。近いが、気楽に来れる場所ではない。

 そして馬のない時代である。伝令も徒歩だ。他の連絡手段も存在しない。


 何者かが、この場所にやってきている??


「なぜ通れない?」

「神々の怒りを買う可能性があるからです」

「…………?」


 信仰は、人々にとって極めて重要なものである。科学が進んでいない時代において、解明できていないものは基本的にすべて神々の仕業であった。

 想定外の不幸に対して『(バチ)が当たった』と考えるのが一般的な思考だ。


「誰が言い出した?」

「私だよネヘプ」


 奥から現れた三人を見て、ネヘプの表情が憎々しく歪んだ。


「イムホテプ……アマタ、マノ……!!」

 




 『クヌム』の眠る場所の状況は完全にイムの想定を越えていた。

 柵があり建物があり、歩哨がいる。


「私の記憶ではあそこなんだが……」

「どうする?」

「正面から行く」


 強行突破をするのか? そう目で尋ねる『シャーク』。いかにも『殺し奪うだけの才能』の【狩人】らしい考え方だ。

 そういう点で、探偵目貫(めぬき)(あまた)は【狩人】らしくないのだろう。


『諸君、この方は王神ネチェリケト陛下の腹心であり、クヌマトネヘプ殿の師にあたる偉大なる医師にして建築家、イムホテプ様だ!

 エレファンティネの惨状は御存知か!? 我々は援軍を要請に来た!!」


 あまりにも自信満々の言い草に、イムと『シャーク』は唖然とした顔を千に向けた。


「王神陛下の……?」

「エレファンティネに何が……?」


 ざわつく見張り。千は何一つ嘘を言わず、穏便に欲しい情報を得てみせた。

 ネヘプはここにいない。エレファンティネの街のデモの情報は届いていない。


「イム、彼らを味方につけるぞ」

「だがアマタ、どれほど上手く言いくるめても、ネヘプはさらに上を行くぞ?」


 『シャーク』が首肯する。ネヘプの説得力は異常だ。誰でも簡単に丸め込まれる。

 そう考えると、ネヘプにそそのかされないイムと小野は異常だった。


「どんな説得も無意味にすればいい」

「例えば?」

「例えば…………神のお告げがあり警告しに来た。逆らうとバチが当たるぞ」


 千の提案に『シャーク』は困り顔。だが、イムはニヤリと笑った。

 そして一瞬で顔を精悍(せいかん)に引き締めて、兵士たちに向ける。


「中に入れてくれないか、今からでは戻るには遅い」

「あ、お入り下さい!」

「代表者は?」

「呼んで参ります!」


 すでに日は沈みかけている。この時間に外を歩くのは危険だ。兵士たちは純朴であるが、もしも疑い深かったとしてもここで追い返すのは人道にもとる行いだ。

 こうして千たちはするりと柵の内側に入り込んだ。ネヘプよりも先に。

 

 そして、神官の長であるイムがエレファンティネの現状を説明し、偉大なる神々からの警告を伝えたのである。


「いま、眠れる神を目覚めさせるべきではない。人々の(いさか)いは人の手で止めよ。それこそが都市を任された管理者の務めである」


 …………これまた自信満々に言ってのけたイム。実はあながち嘘でもない。

 都市の管理は神々から授けられたもの。王神は神の血を引く現人神。そして…………『セクメト』を起動しようものならば妨害すると宣言していた『セト』。


 『クヌム』にも『セト』の手が伸びているかは不明だ。いや、おそらく無い。すでに起動されているのであれば、『セクメト』の場合とは状況が違う。

 『クヌム』では『セト』は動かない。


 というわけで。



「『クヌム』は起動するべきではない」


 遅れてきたネヘプにイムが宣言する。師として、友として、同じ王神に仕える同僚として。


「イム様……あくまでも私の邪魔をするつもりですか? 私は……」

「お前に愛称で呼ばれる筋合いはない」


 会話を打ち切るイム。小さなため息。ネヘプが言いくるめるために甘言を弄するようならば、もうそれまでだと思っていた。

 そしてネヘプは、イムを言葉で絡めようとした。それは断絶の合図であった。


 イムの代わりに前に出る千と『シャーク』。

 すでに千はトレンチコートを身にまとい、シャークはサメを彷彿とさせるウェットスーツを纏っていた。


「チッ」


 舌打ちするネヘプ。彼をかばうように、前に出る男女。その男の顔を見て、千は大きくため息を吐いた。


「どうしてそっちに立っているんだ。鶴来(つるぎ)さんよ」



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