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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第二章 仇国の魔女

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20232 愛していたと言ってやる



 探偵、目貫(めぬき)(あまた)と小野が宮殿から出たのと、負傷した兵士たちが引き上げてきたのはほぼ同時だった。


「中は負傷者多数だ。ネヘプは?」

「我々も探しています……その、客人殿……顔が」

「気にするな。他の【客人】を知らないか?」


 顔見知りの兵士が当然のように話しに来る。千たちがネヘプと敵対的だとは知らない様子。


「目貫、小野……」


 腕に包帯を巻いた『シャーク』がやってくる。袖搦(そでがらみ)の姿はない。


「目は」

「…………ポロルが死んだ」

「目貫……ッ」


 千の襟首を掴む『シャーク』。その手首を小野が掴んだ。


「ネヘプの目的を知っているか? この街に老人や病人が見当たらない理由は?」

「…………」

「ポロルの死の責任はオレにある。オレは殴られ、罵られるぺきだ……だが」


 真正面から『シャーク』の目を見る千。怯んだのは『シャーク』の側だった。

 この、感情を感じさせないサメ男も理解しているのだ。


 自分が欲しいものとよく似たものを見せられて、それを守ることで代替にしても、本当に守りたいものは守れない。

 そんな当たり前のことを。


「袖搦さんは?」

「暴徒を止めている」

「市民を扇動するやり方は間違いだが、ネヘプは何としても止めなけりゃならない。あれは戦争をする気だぞ」


 小野の言葉に『シャーク』は視線をさまよわせた。迷っている。


「間違えんのは怖いか?」

「…………当たり前だ。俺は」

「何もしないことが間違いだって場合もあんだよ」


 小野が『シャーク』から手を離した。『シャーク』は力無く項垂(うなだ)れる。


「『シャーク』……オレは最後に言ったぞ。お前も、言ってやりたかったんじゃないのか?」

「…………」


 『シャーク』は(かぶり)を振った。大きな口が自嘲的に歪む。


「俺は、妻だった女に言ってやるよ。『愛していた』って」

「M田に近けりゃ声をかけろ。相手の男から慰謝料ふんだくってやれるぜ」

「いや、探偵さんは2008年…………あれ?」


 小野と『シャーク』は2024年の人間だ。

 小野が青ざめる。今まで気付いていなかった事実に思い至ってしまった顔。


「…………探偵さん、死ぬのか?」

「言ってなかったか? 俺は【望み】を叶えないと……」

「違う。そういう意味じゃなくて」


 たった16年だ。袖搦(そでがらみ)の年齢も鑑みて、材料は揃っている。

 千たち2008年組は死ぬ。2008年には、その時代の【狩人】たちが死ぬ理由が存在すると考えるのが妥当だ。


「…………いや、なんでもない」

「なんだよ」


 小野はそれ以上の言及を避けた。変なことを言って不安にさせる必要はないと考えたからだ。

 この時代で遭遇した2008年組は千と椿姫(つばき)だけ。しかし、袖搦の話ではもっと数がいる。


 千に警告をするべきではない。小野は判断した。

 警告無しで、『現在』の場所をさっさと離れるように誘導しなければならない。


 『放置すれば2008年組は全滅する』なんて千に知られてみろ。

 この不器用な男は自分の生命なんてかなぐり捨ててしまうだろう。


 小野は小さく舌を打った。『そんなことになったら自分を助けてくれる人がいなくなる』なんて打算が泡のように浮かんだ自分の脳みそに。


「運が良ければ巨乳で美人の助手が対応してやんよ」

「巨乳はともかく美人?」

「ぶっ殺す」


 冗談で押し流した小野は、軽口で返してきた千を誤魔化せたと判断した。

 だが、それは希望的観測である。


 小野は千を見くびっているわけではない。ただただ、見抜かれないでほしいという自分の願望に敗北したのだ。

 しかし残念ながら、相手は探偵目貫千だった。






「医療器具と医者の件は助かったが力になれそうにないな」


 ネヘプの足取りを求めて、千たちはとりあえずイムの所に戻った。暴動は概ね二つの理由で沈静化しつつあった。


 一つは兵士たちによる物理的制圧。これは武装した兵士による鎮圧であり、多くの血が流れた。あるいは即座に降伏したかで血の流れ方が二分化していた。

 もう一つは離散である。何らかの成果を上げた、あるいは略奪に満足しそのまま逃亡することで暴徒が徒党を組むのをやめた場合である。


 善良な市民にとって問題なのは後者である。彼らはまともなデモ隊ではなく、自分の欲望のために好き勝手をする武装した外道だ。

 イムたちは市民のふりをした略奪者から身を守るために最低限の備えをして、医療行為を続けていた。


「我々側の資料によれば、この近くには『セクメト』の他にもう一柱の神が眠っている。こちらは『場所』だけが分かっている」

『…………」


 『力になれない』とは? いや、イムの考えは理解できなくもない。

 ネヘプが場所を知らないなら、行くだけ無意味だと思っているのだ。


「…………動かす方法はネヘプが知っているということか。ちなみにどんな神様が眠ってんだ?」

「『クヌム』神。この街の守護神であり、最も古い神々の一柱。『河』の神であられる。だが、関係ないと思うぞ。もう動かした後であろう」



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